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簡単にするため母親の人数が 16 人とする。最初の赤ちゃんは女の子か男の子かというと、半々の 8 軒ずつだ。No.1〜8 は2人めを産むが、それが女の子であるのは No.1〜4 である。No.1〜4 は 3 人めを産むが、それが女の子であるのは……。以下同様。
そうすると、生まれてくる赤ん坊の総数は
   $16+8+4+2+\cdots$、すなわち
   $N \times (1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots)=2 N$
このうち、女の子はその半分だから
   $8+4+2+1+\cdots$、すなわち
   $N \times (\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\frac{1}{2^4}+\cdots)= N$
よって、全赤ちゃんに占める女の子の割合は
   $\frac{8+4+2+1+\cdots}{16+8+4+2+\cdots}=\frac{1}{2}$、または
   $\frac{N}{2 N}=\frac{1}{2}$

結局、こんな変な産児制限があっても、男女の生まれてくる割合は半々のままだ、というのがこの文献による説明である。

この文献では暗黙の裡に、すべての母親は男女を半々の割で産むということが前提とした解答となっている。それ自体には文句はない。
私が言いたいのは、この前提を外したら上記の解答はチャンチャラおかしなものになる、ということである。

§2. に出した例は、表しか出ないコイン、ウラしか出ないコイン、表裏半々に出るコインと色々あら〜ね、というものであった。そう言えば子どもの男女比もそうなのではないだろうか。
「○○さんちは男の子ばかりの 5 人兄弟だよ(女の子が欲しかったんだろうな)」とか
「3 人姉妹の家って、よく聞くね」とかって話はないだろうか。
つまり接着コインのように、女の子しか生まれてこない母親や、逆に男の子しか生まれない母親、男女半々に生む母親がいたって不思議ではない。
(ときどき「男子が生まれる確率は 55% に決まっているんではないですか」と言う人がいるが、それは全体としてみた場合で、1 人一人の母親を見たら誰でも 55% になるとは言えないだろう。)

そこで、接着コインと同様に
   女の子しか生まれてこない母親 25%,
   男女半々に生む母親 50%,
   男の子しか生まれない母親 25%
として、作表したのが下図だ。(No.5〜12 は乱数で男女を決定した。)
右側の折れ線グラフは例によって弱法則の確認用だが、母親によって確率分布が異なるのだから、弱法則は成り立たなくて不思議はない。( 0% のところと 100% のところに 2 コブができている。意外と 3 つ山にならなかった。)

No.1〜4 の母親は永久に女の子を産みつづけることになる。∞人の女の子を産むとしてもよいのだが、計算上 1万人の女の子を産むとしてみよう。(1 人で 1万人を産むという仮定をナンセンスと思うかもしれないが、そもそも世の中の母親はすべて、男の子が生まれるまで何人でも産みつづけると考えている、という仮定もありそうもない。)
赤ん坊の総計は、
   $10000 \times 4+5+3+3+2+1 \times 8=40021$(人)
で、そのうち女の子は
   $10000 \times 4+4+2+2+1=40009$(人)
だから、女の子の相対度数は
   $\frac{40009}{40021}=100.0%$
でほぼ百パーセントだ。ここでは強法則も成り立たないのがハッキリしている。(成り立つなら 50% になるはず。)
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§5. あるある、こんな授業

ながながと何を言いたかったかというと、次のような授業に気をつけようということだ。すなわち、

生徒の人数分、サイコロを買ってきて、これを 1 個ずつ生徒に配って、各自 60 回振って 1 の目が何回出たか、数えさせる。
クラス全員分を総計する(40 人だったら計 2400 回振ったことになる)と、相対度数が約 $\frac{1}{6}$ になる。
という授業だ。

読者はこの授業のおかしさがもうお分かりだろう。サイコロには 1の目が出やすいもの、出にくいもの、そこそこ出るもの、と色々ある。色々なお母さんがいるのと同様だ。それを総計して相対度数が約 $\frac{1}{6}$ になっても何の意味もない。

「サイコロだからおかしなことが起きるが、サイドタならそんなことはない」と考えるのも間違っていることを最後に指摘しておこう。

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