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§1. 有理化する理由
§2. 有理化の実際
なぜ、分母を有理化するのだろうか。例えば
$\frac{1}{\sqrt{2}}=\frac{1}{1.41421356}$
で近似値を求めようとすると大変だが、分母を有理化して
$\frac{\sqrt{2}}{2}=\frac{1.41421356}{2}$
なら、計算が楽だ。でもこれは電卓が高価だっだ時代の話。電卓を使ってよいのなら、有理化の必要はない。
そうではなくて、有理化は数体系が四則演算について閉じている(そういう数体系を「体」と呼ぶ)かの確認作業なのだと思う。
例えば $a,b,c,d$ を有理数とするとき、$a+b\sqrt{2}$ は四則について閉じている:
はいずれも $A+B\sqrt{2}(A,B$ は有理数)になる。
つまり、この数体系は $1$ と $\sqrt{2}$ の2つを基本ベクトルとするベクトル空間である(ここでのスカラー倍は実数倍ではなく、有理数倍である)のだが、積と商についても閉じているのである。
1.〜4.のうちの4.の割り算だけ証明しよう。(難しいのは商だけで、それが「分母の有理化」だ。)
【証明】
$\frac{a+b\sqrt{2}}{c+d\sqrt{2}}$
$=\frac{(a+b\sqrt{2})(c-d\sqrt{2})}{(c+d\sqrt{2})(c-d\sqrt{2})}$
$=\frac{(ac-2bd)+(bc-ad)\sqrt{2}}{c^{2}-2d^{2}}$
$=\frac{ac-2bd}{c^{2}-2d^{2}}+\frac{bc-ad}{c^{2}-2d^{2}}\sqrt{2}$
初めの分母 $c+d\sqrt{2}$ が 0 になるのは $c=d=0$ のときに限る。実際、$c+d\sqrt{2}=0$ で $d \neq 0$ なら、$\sqrt{2}$ が有理数になってしまうので、$d=0 \rightarrow c=0$ となるからである。したがって最後の分母の $c^{2}-2d^{2}$ もゼロにならない。■
そうすると「$\frac{1}{3+\sqrt{2}}$ の分母を有理化せよ」と言われたら
$\frac{3-\sqrt{2}}{7}$
と書くのではなく、
$\frac{3}{7}+\frac{-1}{7}\sqrt{2}$
を答とすべき、というのが本来だ。(ウルトラ厳密主義だが。)
次に、教科書の本文には出てこない難しめの有理化の問題を扱おう。
【問題1】 $\frac{1}{1+\sqrt{2}+\sqrt{3}}$ の分母を有理化せよ。---
【解1】
$\frac{1}{1+\sqrt{2}+\sqrt{3}}$
$= \frac{1-\sqrt{2}-\sqrt{3}}{1-(\sqrt{2}+\sqrt{3})^{2}}$
$=\frac{1-\sqrt{2}-\sqrt{3}}{-4-2\sqrt{6}}$
$=\frac{(1-\sqrt{2}-\sqrt{3})(2-\sqrt{6})}{-2(4-6)}$
$=\frac{2+\sqrt{2}-\sqrt{6}}{4}$■
上の数体系は
$\{ a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+\sqrt{6} | a,b,c,d $は有理数 $\}$
と考えてよいだろう。(基本ベクトルは $1, \sqrt{2}, \sqrt{3}, \sqrt{6}$ )
ここでも、商について閉じていることだけ証明しよう。
【証明】
逆数だけ証明すれば十分である。
$\frac{1}{a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6} }$
$=\frac{ (b\sqrt{2}+c\sqrt{3})-(a+d\sqrt{6})}{ (b\sqrt{2}+c\sqrt{3})^{2}-(a+d\sqrt{6})^{2}
}$
$=\frac{ (b\sqrt{2}+c\sqrt{3})-(a+d\sqrt{6})}{ (2b^{2}+3c^{2}+2bc\sqrt{6})-(a^{2}+6d^{2}+2ad\sqrt{6})
}$
$=\frac{ (b\sqrt{2}+c\sqrt{3})-(a+d\sqrt{6})}{ (2b^{2}+3c^{2}-a^{2}-6d^{2})+2(bc-ad)\sqrt{6}
}$
$=\frac{ \{(b\sqrt{2}+c\sqrt{3})-(a+d\sqrt{6}) \} \{ (2b^{2}+3c^{2}-a^{2}-6d^{2})-2(bc-ad)\sqrt{6}
\}}{ (2b^{2}+3c^{2}-a^{2}-6d^{2})^{2}-24(bc-ad)^{2} }$
ここでも、ゼロ割りになっていないかを調べておこう。もし初めの分母がゼロだとすると、
$a+b\sqrt{2}=-\sqrt{3}(c+d\sqrt{2})$
だから、$c+d\sqrt{2}\neq0$ としたら、$\sqrt{3}=A+B\sqrt{2}$ となり、これを 2乗して
$3=A^{2}+2B^{2}+2AB\sqrt{2}$
よって $AB=0$ だが、$A=0$ なら $\sqrt{3/2}=\sqrt{6}/2$ が有理数になってしまうし、$B=0$ なら $A=\sqrt{3}$
が有理数になってしまう。ということは、
$c+d\sqrt{2}\neq0=0 \rightarrow c=d=0,a=b=0$
このとき、最後の分母は
$(2b^{2}+3c^{2}-a^{2}-6d^{2})^{2}-24(bc-ad)^{2} $
$=\{ (2b^{2}+3c^{2}-a^{2}-6d^{2})+2(bc-ad)\sqrt{6} \} \{ (2b^{2}+3c^{2}-a^{2}-6d^{2})-2(bc-ad)\sqrt{6}
\}$
$= \{ a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6} \} \{ -a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}-d\sqrt{6}
\}\{ a+b\sqrt{2}-c\sqrt{3}-d\sqrt{6} \} \{ -a+b\sqrt{2}-c\sqrt{3}+d\sqrt{6}
\}$
だから、ゼロにならない。(このことを4つの基本ベクトルは有理数体上1次独立であると言う。)■
最後は、高校の教科書には出てこない問題だ。
【問題2】 $\alpha=1+\sqrt{2}+\sqrt{3}$ とするとき、$\frac{1}{1+\alpha}$ を $\alpha$
の多項式で表わせ。---
【解2】 $\alpha$ を直接代入して、先のように有理化しては解けない。そこで最小方程式を使う方法でやってみる。それは
$\frac{1}{1+i}$
を $i^{2}+1=0$ ($i$ の満たすべき最小方程式) の公式を使って $i$ の多項式(実際には1次式)に直す方法に似ている。まず $\alpha-1=\sqrt{2}+\sqrt{3}$ を 2乗して
$\alpha^{2}-2\alpha+1=5+2\sqrt{6}$
$\alpha^{2}-2\alpha-4=2\sqrt{6}$
これをさらに 2乗して
$\alpha^{4}-4\alpha^{3}-4\alpha^{2}+16\alpha+16=24$
$\alpha^{4}-4\alpha^{3}-4\alpha^{2}+16\alpha-8=0$ ($\alpha$ の満たすべき最小方程式)
これの左辺を $1+\alpha$ で割り算するのである。
$\alpha^{4}-4\alpha^{3}-4\alpha^{2}+16\alpha-8=(\alpha+1)(\alpha^{3}-5\alpha^{2}+\alpha+15)-23$
だから
$(\alpha+1)(\alpha^{3}-5\alpha^{2}+\alpha+15)=23$
となるので、これをヒントに分数式を多項式に変換する。
$\frac{1}{1+\alpha}=\frac{\alpha^{3}-5\alpha^{2}+\alpha+15}{23}$■
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