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§3. 余り→商変換

前節までで余りのサイクルをさんざん求めたが、循環小数が分からなけば意味がない。そこで、余りのサイクルを商のサイクルに変換(「余り→商変換」と呼んでおこう)する方法を紹介しよう。

そもそも余り $r_{i}$ と商 $q_{i}$ はどうやって求めたかと言うと、問題1-1 のときなら

割り算1回目: $10 \times 8 =73 \times 1 +7 \Leftrightarrow 10 r_{0}=73 \times q_{1}+r_{1}$
割り算2回目: $10 \times 7=73 \times 0 +70 \Leftrightarrow 10 r_{1}=73 \times q_{2}+r_{2}$
割り算3回目: $10 \times 70=73 \times 9 +43 \Leftrightarrow 10 r_{2}=73 \times q_{3}+r_{3}$
………………

とやった。一般化すれば

$10 r_{i-1}=73 \times q_{i}+r_{i}$,
$q_{i}=\frac{10 \times r_{i-1}-r_{i}}{73}$

つまり、商を求めるには 1個手前の余りを 10倍したものから余りを引いて、分母で割ればよいのである。

【問題3-1】 問題2-5 に出てきた $C=\frac{1}{73}$ の答の余りのサイクルを循環小数に直せ。---

(解) 問題2-5に出てきた余りのサイクルは、

$10 \rightarrow 27 \rightarrow 51 \rightarrow 72 \rightarrow 63 \rightarrow 46 \rightarrow 22 \rightarrow 1$

であった。これの第0項(=末項)と、第1項から末項までの数を下表の 1行目(黄色の所)に書き並べる。

@ 1行目の最左の数 1 を 10倍したものから、右隣の 10 を引いて、$10-10=0$, この 0 を2行目(の白い所)に書く。
A 1行目の 2番目の数 10 を 10倍したものから、右隣の 27 を引いて、$100-27=73$, この 73 を2行目(の白い所)に書く。
B 1行目の 3番目の数 27 を 10倍したものから、右隣の 51 を引いて、$270-51=219$, この 219 を2行目(の白い所)に書く。
C 以下同様。

これで、2行目が完成したら、2行目を分母の 73 で割った数を 3行目に記入する。3行目に並んだ、

$0 \rightarrow 1 \rightarrow 3 \rightarrow 6 \rightarrow 9 \rightarrow 8 \rightarrow 6 \rightarrow 3$

が商のサイクルで、$1/73$ を循環小数に直すと

$C=\frac{1}{73}=0. \dot{0} 136986 \dot{3}$ (答)

手計算でも作れたのだが、上の表は Excel で作った。そのワークシートをアップロードしておいた。Excelワ−クシート "AmaSyoHenkan.xlsx" をクリック( open または save ができます。)

【問題3-2】 問題2-4 に出てきた $B=\frac{43}{73}$ の答の余りのサイクルを循環小数に直せ。---

(解)問題2-4 の余りのサイクルを再録すると、  

$65 \rightarrow 66 \rightarrow 3 \rightarrow 30 \rightarrow 8 \rightarrow 7 \rightarrow 70 \rightarrow 43 $

だから、下表より

$B=\frac{43}{73}=0. \dot{5} 890410 \dot{9}$ (答)

前問とは異なる種類の循環節になる。(異なる商のサイクルに 1 個や 2 個同じ数字があっても同じサイクルにはならない。)

ここで今まで得た結果をまとめておこう。

$A=\frac{8}{73}=0. \dot{1} 095890 \dot{4}$
$B=\frac{43}{73}=0. \dot{5} 890410 \dot{9}$
$C=\frac{1}{73}=0. \dot{0} 136986 \dot{3}$

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§4. 循環節の長さと種類数

これまで、分母が 73 の真分数を考えてきた。分母 73 の分数は、全部で何種類のまるっきり異なる循環節(または余りのサイクル)を発生するだろうか。それがこのセクションのテーマである。

真分数 $\frac{a}{p}$ の余りのサイクルは、公比が 10, 第 0 項が $a$ の等比数列で、10 の位数が $l$ ($10^l=1$) ならば

$10 a \rightarrow 10^2 a \rightarrow 10^3 a \rightarrow \cdots \rightarrow 10^{l-1} a \rightarrow 10^l a=a$,
一般項は
$r_{n}=10^{n} a (mod.p)$

で、余りのサイクルの長さ(周期)は $l$ である。
よって、次の定理が成り立つ。

【定理4-1】 真分数 $\frac{a}{p},p \neq 2, 5$ の余りのサイクルの長さ=循環節の長さ $len$ は 10 の位数 $|<10>|$ に等しい。

$len =|<10>|$

---

(注) 10 の累乗が作る(乗法に関する)巡回群が $<10>$ で、この群に含まれる元の個数が $|<10>|$ である。

回転盤双六において、余りのサイクルが巡るコマを下図にで示そう。

このは全部で $l$ 個あるのだが、これらは等間隔に並んでいる。実際、原始根 $\zeta$ を底にとったとき、

$10=\zeta^t, a=\zeta^A$
($ind_{\zeta} 10=t, ind_{\zeta} a=A$ とも書く。)

になったとすれば

$r_{n}=\zeta^A \times (\zeta^t)^n=\zeta^{A+t n}$,
指数(index)だけを取り出して書き出すと
$i(n)=A+t n $  $(mod.p-1)$

$t'=(t, p-1)$ (2 数の最大公約数) とするとき、次の 2 つの集合は等しくなる。すなわち

$\{ i | i=A+t n \} =\{ i | i=A+t' n \}$

もし $i=A+t n$ なら $t$ は $t'$ の倍数だから左辺は右辺に含まれる。逆は、表現定理より

$t'=x t+ y(p-1)$

となる整数 $x,y$ が存在するから

$A+t' ni=A+\{ x t+y(p-1) \} n =A+t x n $  $ (mod.p-1)$

となることから言える。したがっての位置を表す $i(n)$($\zeta$ を底にとったときの指数) は

$i(n): A, A+t',A+2 t',A+3 t', \cdots, A+(\frac{p-1}{t'} -1) t' $  $ (mod.p-1)$

で、公差が $t'$ の等差数列だから、等間隔に並んでいることが示された。

(注1) 余りのサイクルは、下図で @ → A → B → C → D → … のように進み、一見グチャグチャに並ぶように見えるが、回った後に軌跡を改めて見ると等間隔に並んでいる、というのが上で証明した内容である。

(注2) 上に出てきた集合 $\{ i | i=A+t' n \},t'=(t,p1-1)$ は、$A=0$ のとき $mod.p-1$ の加法群の部分群になる。この部分群を $H$ としよう。$A\neq 0$ のときは部分群にはならず、$H$ による剰余類になる。剰余類の個数が後述する循環節の種類数 $m$ に等しくなる。

まとめると、次の定理が成り立つ。

【定理4-2】 回転盤双六に余りのサイクルを配置すると、$|<10>|$(10 の位数)個のが等間隔に並ぶ。---

いよいよ循環節の種類数を求めよう。
余りのサイクルは$|<10>|$ 個ので作った数珠と思えばよい。総コマ数 $p-1$ 個の玉から飛び飛びに玉を選んで $m$ 種類の数珠ができたとすれば、

$m=\frac{p-1}{|<10>|}$(種類)

である。( 2 つの数珠が 1 個でも玉を共有すれば、そこから後の等比数列は一致してしまうから。)
よって次の定理が言える。

【定理4-3】 真分数 $\frac{a}{p},p \neq 2, 5$ から作られる循環節の種類は

$m=\frac{p-1}{|<10>|}$(種類)

である。---

(注1) 公式の右辺の分数が割り切れるのかと心配した読者がいるかもしれない。巡回群 $<10>$ は $mod.p$ から 0 を除いてできる乗法群(位数は $p-1$) の部分群だから、割り切れるという定理があるから大丈夫である。

(注2) 上記の $m$ というのは、正規部分群 $<10>$ による剰余類群の位数のことである。

【問題4-1】 真分数 $\frac{a}{73}$ は何種類の余りのサイクルを発生するか。ただしシフトしただけのサイクルは同じ種類と考える。---

(解) 問題2-1 より 10 の位数は 8 であったから、循環節(で作る数珠)の長さは 8 である。総コマ数は $p-1=72$ だから、できる数珠の種類は上の定理により

$m=\frac{72}{8}=9$(種類) … (答)


ところで、全部で $m$ 種類のサイクルができたとして、各種類から典型例を 1つずつピックアップして、それを並べてみるとどうなるだろうか。
ガウスの例に倣うと次のようになる。$\zeta$ を原始根とするとき、回転盤双六上で $1=\zeta^0$ から連続する $m$ 個の数、

$\zeta^0, \zeta^1, \zeta^2, \zeta^3, \cdots, \zeta^{m-1}$

が末項(第 0 項)となるように数珠(余りのサイクル)を作れば、それらは互いに異なるものになるから、これらのサイクルを各循環節の代表とすればよい。(ついでながら、$m$ はから次のまでのコマ数 $t'=(t,p-1)$ に等しいことになるから、$m=t'$ が成り立つ。) よって、

$(0): \frac{\zeta^0}{p}$,
$(1): \frac{\zeta^1}{p}$,
$(2): \frac{\zeta^2}{p}$,
$(3): \frac{\zeta^3}{p}$,
$\cdots \cdots$
$(m-1): \frac{\zeta^{m-1}}{p}$

を代表とすればよい。これで次の定理が得られた。

【定理4-4】 $\zeta$ を $mod.p$ の原始根とする。真分数 $\frac{a}{p},p \neq 2, 5$ の循環節が $m$ 種類あるとすれば、それらの各代表として

$\frac{\zeta^0}{p},\frac{\zeta^1}{p}, \frac{\zeta^2}{p},\cdots, \frac{\zeta^{m-1}}{p}$

の循環節を採用できる。(他の循環節は、代表の循環節をシフトしたものになる。)

【問題4-2】 分母が 13 の真分数の循環節の長さと、種類数を求めよ。---

(解)例えば $\frac{1}{13}$ を筆算で割り算してみれば、循環節の長さはすぐ分かるのだが、ここでは上の定理を利用してそれを求めることにしよう。
まず 10 の $mod. 13$ における位数を求めると

$10^2=13 \times 8-4=-4 (mod.13)$,
$10^3=-4 \times 10=-40=-1$,
$10^6=(-1)^2=1$

で、10 の位数は 6, すなわち $|<10>|=6$ である。定理 4-1 により、循環節の長さ $len$ は 6 である。
また、定理 4-3 により種類数 $m$ は

$m=\frac{p-1}{|<10>|}=\frac{13-1}{6}=2$(種類)

である。(答)長さ 6, 2種類

【問題4-3】 $mod.13$ の原始根を求め、それを利用して分母が 13 の真分数の循環節を 2 種類求めよ。---

(解)原始根とは位数が $p-1=12$ の元のことである。問題 4-2 で $10^6=1$ を得ていたから、10 の平方根が分かれば、それは 12 乗で 1 の元となる。

$10=13 \times 2+10=36=6^2$

だから、6 は 10 の平方根だ。(もう一つの平方根は $-6=7$ である。)
これで 6 が原始根と分かったので、6 の累乗を計算する。

$6 \rightarrow 6^2=36=10 \rightarrow 10 \times 6= 60=8 \rightarrow 48=9 \rightarrow 54= 2 \rightarrow 12=-1$

$-1$ は 1 の平方根だから、ちょうど回転盤の半周に相当する。これは、12 乗の半分だから、原始根の 6 乗になる。すなわち

$6^{(p-1)/2}=6^6=-1$

である。(常に原始根の $\frac{p-1}{2}$ 乗は $-1$ なのである。) ところで、残りの項は次のようにして簡単に求められる。$\zeta$ を原始根とするとき、あるコマ $\zeta^k$ と、半周先のコマ $\zeta^{k+(p-1)/2}$ との関係は

$\zeta^k +\zeta^{k+(p-1)/2}=\zeta^k \{1+\zeta^{(p-1)/2} \}=\zeta^k\{1+(-1) \}=0$  $ (mod.p)$,
$\zeta^{k+(p-1)/2}=p-\zeta^k $

すなわち、あるコマに印字されるべき数字は、半周前のコマの数字を $p$ から引いたものである。したがって、上図において

6 の半周先に、$13-6=7$ という数字を書き込み、
10 の半周先に、$13-10=3$ という数字を書き込み、
8 の半周先に、$13-8=5$ という数字を書き込み、
9 の半周先に、$13-9=4$ という数字を書き込み、
2 の半周先に、$13-2=11$ という数字を書き込み、
12 の半周先に、$13-12=1$ という数字を書き込めばよい。

定理 4-4 により、求めるべき 2 種類の余りのサイクルは、次の 2 種である。すなわち、

(0) 第 0 項(末項)を $\zeta^0=6^0=1$ とし、$10=\zeta^2$ より 2 コマずつ進む、
 $10 \rightarrow 9 \rightarrow 12 \rightarrow 3 \rightarrow 4 \rightarrow 1$
というサイクル、分数にすれば
$\frac{6^0}{13}=\frac{1}{13}$
(1) 第 0 項(末項)を $\zeta^1=6^1=6$ とし、2 コマずつ進む、
 $8 \rightarrow 2 \rightarrow 7 \rightarrow 5 \rightarrow 11 \rightarrow 6$
というサイクル、分数にすれば
$\frac{6^1}{13}=\frac{6}{13}$

である。これらから循環節を求めるには、例の余り→商変換を行って


$\frac{1}{13}=0.\dot{0} 7692 \dot{3}$


$\frac{6}{13}=0.\dot{4} 6153 \dot{8}$

が求めるべき 2 種類の循環節である。


【問題4-4】 $mod.11$ の原始根が 2 であることを確認し、それを利用して分母が 11 の真分数の循環節を 全種類求めよ。---

(解)$10=-1 (mod.11)$ だから $10^2=1$ (位数は $|<10>|=2$)である。10 乗して 1 になる数を探す。それは 5 乗すると 10 になる数である。

$10=21=32=43=\cdots$

だが、この中の 32 は 2 の 5 乗である。したがって

$2^5=32=10, 2^{10}=(2^5)^2=10^2=1$

で、2 の位数は 10 となり、原始根である。循環節の長さは $len=|<10>|=2$ で、種類数は $m=\frac{p-1}{|<10>|}=\frac{10}{2}=5$(種類)である。5 種類の循環節を分数で表すと

$\frac{2^0}{11},\frac{2^1}{11},\frac{2^2}{11},\frac{2^3}{11},\frac{2^4}{11}$
すなわち
$\frac{1}{11},\frac{2}{11},\frac{4}{11},\frac{8}{11},\frac{5}{11}$
(最後の分数の分子は $16=5 (mod.11)$ から上のようになった。)

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