証明が書かれている。「弧 AB の長さは弦 AB よりも大で、折線 ACB よりも小」であるとして
$\sin x<x<\tan x$,
$1>\frac{\sin x}{x}>\cos x$
を言い、極限で挟み撃ちしている。
さすがに循環論法にならぬように、面積を使わず長さの関係だけで導いている。(この考えは、円周の長さを内接多角形と外接多角形の辺の長さで挟み撃ちするのと同じ論理である。)
前節で使った事実「弧 AB の長さは弦 AB よりも大で、折線 ACB よりも小」を使いやすい形にすれば、
点 B が点 A に限りなく近づくとき、弦 AB と弧 AB の長さは限りなく等しい値に近づく、すなわち
$\lim \frac{\mbox{弦}AB}{\mbox{弧} AB}=1$
となる。このことを認めれば、$\lim \frac{2\sin x}{2 x}=\lim \frac{\sin x}{ x}=1$ は自明だ。
というようなことを指摘すると、「この事実は高校生には難しい」と言う教員が多い。しかし待ってもらいたい。$\lim \frac{\sin x}{x}$ は数学Vの極限の章に出てくるが、積分の章に行くと曲線の長さが
$s=\int_{a}^{b}\sqrt{1+\{f'(x)\}^2} dx$
という公式が出てくる。なぜこの等式が成り立つかと言えば、下図で $\lim \frac{\mbox{弦}AB}{\mbox{弧} AB}=1$ を使って
$\lim \frac{\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2}}{\Delta s}=1$
だから
$\frac{\sqrt{(d x)^2+(d y)^2}}{d s}=1$
が言え、
$s=\int_{s=0}^{s=s} ds$
$=\int_{s=0}^{s=s} \frac{\sqrt{(d x)^2+(d y)^2}}{d s}ds$
$=\int_{x=a}^{x=b} {\sqrt{(d x)^2+(d y)^2}}$
$=\int_{x=a}^{x=b} {\sqrt{1+(\frac{d y}{dx})^2}} dx$
$=\int_{a}^{b}\sqrt{1+\{f'(x)\}^2} dx$
と証明ができるからだ。だからここでは弦と弧の比の極限が 1 になることが前提されているのだ。それで $\frac{\sin x}{x}$ の極限でもこの事実を使おうと言っているのだ。
【蛇足】 「弦と弧の比の極限が 1」が自明でなくなるのは、表面積に行ってからだ。
曲線の長さは内接する多角形で近似しても外接する多角形で近似しても同じなのだが、表面積の場合は内接する多面体の極限と外接する多面体の極限が一致しないことが起こりうる。しかも面倒なことに表面積を近似するのは外接の方であって、内接ではないのだ。それを示す反例の立体図形がシュワルツの提灯である。
上の曲線の長さの公式で内接する弦で近似したことが「自明でない」とお叱りを受けるのは、表面積を学習した後での話であろう。