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$1$の 5乗根は 5乗して $1$ になる数、すなわち方程式 $x^5-1=0$ の解だが、「原始」5乗根はこの中から $k=1,2,3,4$ 乗で $1$になるものを除いたものである。今の場合は、$x=1$ を省けばよいから、$1$の 5乗根の最小方程式は

$\frac{x^5-1}{x-1}=x^4+x^3+x^2+x+1=0$
(等比数列の和の公式を逆に使えば、すぐに導ける。)

【問題5.1】 方程式 $x^4+x^3+x^2+x+1=0$ を解け。---

【解】 $x^5=1$ の解から $x=1$ を省けばよいから、

$x=\cos \frac{2k\pi}{5}+i \sin \frac{2k\pi}{5}(k=1,2,3,4)$ (答)
$\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5}$ とおけば、$x=\zeta^k(k=1,2,3,4)$ が解であると言ってもよい。(ド・モアブルの定理)

【別解】 相反方程式だから、真ん中の $x^2$ で割って

$x^2+x+1+\frac{1}{x}+\frac{1}{x^2}=0$
$(x+\frac{1}{x})^2-2+(x+\frac{1}{x})+1=0$
$x+\frac{1}{x}=t$ とおけば $t^2+t-1=0$
よって $t=x+\frac{1}{x}=\frac{-1\pm\sqrt{5}}{2}$となるが、分母を払って 2次方程式にして
$2x^2-(-1\pm\sqrt{5})x+2=0$
$x=\frac{1}{4}(-1\pm\sqrt{5}\pm i\sqrt{10\pm2\sqrt{5}})$ (答)

紛れがないように列記すると以下の通り。
$x=\frac{1}{4}(-1+\sqrt{5}+ i\sqrt{10+2\sqrt{5}})$,
$\frac{1}{4}(-1-\sqrt{5}+ i\sqrt{10-2\sqrt{5}})$,
$\frac{1}{4}(-1+\sqrt{5}- i\sqrt{10+2\sqrt{5}})$,
$\frac{1}{4}(-1-\sqrt{5}- i\sqrt{10-2\sqrt{5}})$

答を見ると、解は有理数とその加減乗除および開平(√)で表されているので、正5角形は作図可能である。(→「作図可能な線分の長さ」のページ参照
具体的に作図法を紹介する。長さが $1$ と $2$ の線分で直角をはさむ直角三角形の斜辺($\sqrt{5}$)と長さ $1$ を合わせて $1+\sqrt{5}$ になり、これを $4$等分したもので、$\zeta$ の実部が作図できるので、この $x$軸の垂線と単位円との交点を作図する。あとは $1$ と $\zeta$ を両端とする弧で円周を切っていけば正5角形になる。

【問題5.2】 $1$ の原始5乗根のガロア群を求めよ。---

【解】 最小方程式 $x^4+x^3+x^2+x+1=0$ の共役な解は $\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5}$ とおくとき、

$\zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ (上図参照)

であった。これら 4つの数の置き換え(置換とか順列と呼ぶ)が共役写像だが、$\zeta$ の移り先(4通りしかない)が決まれば写像は決まってしまう。実際、$\zeta \mapsto \zeta^k(k=1,2,3,4)$ ならば、その対応は

$\zeta \mapsto \zeta^k$,
$\zeta^2 \mapsto (\zeta^k)^2=\zeta^{2k}$,
$\zeta^3 \mapsto (\zeta^k)^3=\zeta^{3k}$,
$\zeta^4 \mapsto (\zeta^k)^4=\zeta^{4k}$

のように決まる。例として、$k=3$ とするならば $\zeta^5=1$ に注意して

$\zeta \mapsto \zeta^3$,
$\zeta^2 \mapsto (\zeta^3)^2=\zeta^{6}=\zeta$,
$\zeta^3 \mapsto (\zeta^3)^3=\zeta^{9}=\zeta^4$,
$\zeta^4 \mapsto (\zeta^3)^4=\zeta^{12}=\zeta^2$

である。恒等写像を $1$, $\zeta \mapsto \zeta^2$ なる写像を $\sigma$ で表すと、残りの写像は $\sigma \circ\sigma, \sigma\circ\sigma\circ\sigma$ (それぞれ $\sigma^2, \sigma^3$ と略記する)となるが、その対応は

$\sigma^2: \zeta \mapsto \zeta^2 \mapsto (\zeta^2)^2=\zeta^4$,
$\sigma^3: \zeta \mapsto \zeta^2 \mapsto (\zeta^2)^2=\zeta^4 \mapsto (\zeta^2)^4=\zeta^3$

である。ところで、$\sigma^4$ は $\sigma^4=\sigma^2\sigma^2$ ($\circ$ を積のようなものと考えて演算子省略)より

$\sigma^4=\sigma^2 \sigma^2: \zeta \mapsto \zeta^4 \mapsto (\zeta^4)^4=\zeta$

となるので、$\sigma^4=1$ である。これに注意してガロア群

$G=\{ 1, \sigma, \sigma^2, \sigma^3 \}$ (答)

の演算表を作ると下表のようになる。

このガロア群の構造を図解すると、次のようになる。底面が正方形の直四角錐(下の写真)を用意する。

これを真上から見ると、正方形だが4頂点に $\zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ を(心の中で)書く。

あなたが目をつむって「ダルマさんが転んだ」と唱える間に、私は四角錐をあなたに分からないように動かす。その動かし方は、90度回転を $\sigma$ とすれば、$\sigma,\sigma^2,\sigma^3,1$ の4通りである。($1$ は何もしないという動かし方を表す。)
さて、上に出てきたガロア群は位数4の巡回群と呼ばれ、$\sigma$ を巡回群の生成元と言う。実は $\sigma^3$ も生成元になっているのだが、$1$ や $\sigma^2$ は生成元ではない。これは何乗しようとも $\sigma$ や $\sigma^3$ にならないからである。では、$\sigma^2$ だけで何が生成できるかと言うと、下表のようになる。

つまり $G=\{ 1,\sigma,\sigma^2,\sigma^3 \}$ の中において $H=\{ 1,\sigma^2 \}$ という sub group ができて、このグループの中で演算は閉じている。このグループをもとの群の部分群と言う。
この部分群をガロア群とするような数体系があるはずだが、それはどのようなものなのか。

ここで§1 を今の見地から振り返ってみよう。実数(real number)の世界を $\mathbb R$ と表そう。これに虚数単位の $i$ を添加した数体系、換言すれば $x^2+1=0$ が解を持つように拡張された体系が複素数の世界 $\mathbb R(i)$ であった。この状況をイメージで表すと、下図のように $\mathbb R$ が地上の世界で、その上空にできた大きな世界が $\mathbb R(i)$ である。これに対応するガロア群が $\{ 1,\sigma \}$ (ただし $\sigma$ は複素共役写像)であった。
ここで大事なことは、実数 $x$ について $\bar{x}=x$ だから、$1$ という写像も $\sigma $ という写像も地上の世界にあるもの(実数)を異なる数に移すことがないということだ。
地上のものは動かそうとしてもビクともしない。天上にあるもの(今の場合、虚数)は(まるきり自由ではないけど) $\sigma$ で異なる数に動かすことができる。

では、$G$ の部分群 $H$ は何を表すか。

地上の世界=有理数の体系 $\mathbb Q$ と $1$の原始5乗根を添加した体系 $\mathbb Q(\zeta)$ の天上の世界の中間に浮かぶ世界があるということだ。それが有理数に $\sqrt{5}$ を添加した $\mathbb Q(\sqrt{5})$ だ。(実数全体の集合に $\sqrt{5}$ を添加しても何も変わらないから、地上界は $\mathbb Q$ でないとダメだ。) $\mathbb Q(\sqrt{5})$ は実数の一部であり、虚数を含んでいない。これにさらに何かを添加すれば $\mathbb Q(\zeta)$ が得られる。
問題5.1 を見れば、$x+\frac{1}{x}=\frac{-1\pm\sqrt{5}}{2}$ であった。ここに共役解 $\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5},\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ を代入すると

$\zeta+\frac{1}{\zeta}=\zeta+\frac{\zeta\bar{\zeta}}{\zeta}=\zeta+\bar{\zeta}=2\cos\frac{2\pi}{5}=\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$,
$\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2}=\zeta^2+\overline{\zeta^2}=2\cos\frac{4\pi}{5}=\frac{-1-\sqrt{5}}{2}$,
$\zeta^3+\frac{1}{\zeta^3}=\frac{\zeta^5}{\zeta^2}+\frac{\zeta^2}{\zeta^5}=\frac{1}{\zeta^2}+\zeta^2=\frac{-1-\sqrt{5}}{2}$,
$\zeta^4+\frac{1}{\zeta^4}=\frac{\zeta^5}{\zeta}+\frac{\zeta}{\zeta^5}=\frac{1}{\zeta}+\zeta=\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$

(複号の取り方は偏角が鋭角か鈍角かで決まる。) となる。

さて、部分群 $H$ の元の 1つである $\sigma^2$ は $\zeta \mapsto \zeta^4$ という写像であったから、

$\sigma^2: \zeta+\frac{1}{\zeta} \mapsto \zeta^4+\frac{1}{\zeta^4}=\zeta+\frac{1}{\zeta}$

である。すなわち、 $H$ の元により、$t=\zeta+\frac{1}{\zeta} =\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$ は動かされない(不変元である)。これに有理数を加減乗除して得られる $\sqrt{5}$ や $\mathbb Q(\sqrt{5})$ は属するすべての元も $H$ の不変元である。
$G$ の部分群 $H$ に不変体 $\mathbb Q(\sqrt{5})$ が対応すると理解しよう。

$H$ にとっては $\mathbb Q(\sqrt{5})$ が地上の世界にあたり、$\mathbb Q(\sqrt{5})$ の上空に浮かぶのが $\mathbb Q(\zeta)$ の世界である。
2つの世界はどういう関係にあるのだろうか。

$\zeta$ の最小方程式をこの §の冒頭で提示したような有理数を係数としたものではなく、$\mathbb Q(\sqrt{5})$ の元を係数としたものにしてみよう。

【問題5.3】 $\mathbb Q(\sqrt{5})$ の元を係数とする $\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5}$ の最小方程式を求めよ。---

【解】 $\zeta+\frac{1}{\zeta} =\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$ の両辺を $\zeta$ 倍して

$\zeta^2+1=\frac{-1+\sqrt{5}}{2}\zeta \Rightarrow \zeta^2-\frac{-1+\sqrt{5}}{2} \zeta+1=0$
よって求めるべき最小方程式は
$x^2-\frac{-1+\sqrt{5}}{2}x+1=0$ (答)

冒頭で示した最小方程式は 4次だったが、今度は 2次方程式だ。 最下界の $\mathbb Q$ から $\mathbb Q(\zeta)$ の世界に昇るには 4 だけ必要だが、途中の $\mathbb Q(\sqrt{5})$ から $\mathbb Q(\zeta)$ へ昇るだけだったら 2 で大丈夫ってことだ。

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§6. 1の原始6乗根

$1$の 原始 6乗根とは 6乗して初めて $1$ になる数、その手前では $1$ にならないような方程式 $x^6-1=0$ の解である。「その手前」とは、ベキ指数が $6$ の約数、すなわち $1,2,3$ で $1$ になる根(解)を省かないといけない。つまり、6乗根から、原始 1乗根、原始 2乗根、原始 3乗根を取り除けばよいのだ。

原始 1乗根は、$x-1=0$ の解、
原始 2乗根は、$x^2-1=0$ の解から原始 1乗根を除いたもの、
原始 3乗根は、$x^3-1=0$ の解から原始 1乗根を除いたもの

である。ここで原始 $n$乗根の最小方程式を $\Phi_{n}(x)=0$ と書こう。$\Phi_{n}(x)$ は円周等分多項式と呼ばれる。ではそれを求めよう。

$\Phi_{1}(x)=x-1$,
$\Phi_{2}(x)=\frac{x^2-1}{\Phi_{1}(x)}=\frac{x^2-1}{x-1}=x+1$,
$\Phi_{3}(x)=\frac{x^3-1}{\Phi_{1}(x)}=\frac{x^3-1}{x-1}=x^2+x+1$

$\Phi_{6}(x)$ の場合は $6$ の約数である $1,2,3$ に対応する $\Phi_{1}(x),\Phi_{2}(x),\Phi_{3}(x)$ で割ればよいのだ。したがって

$\Phi_{6}(x)=\frac{x^6-1}{\Phi_{1}(x)\Phi_{2}(x)\Phi_{3}(x)}$
$=\frac{x^6-1}{(x-1)(x+1)(x^+x+1)}$
$=\frac{(x^3-1)(x^3+1) }{(x-1)(x+1)(x^2+x+1)}$
$=\frac{(x-1)(x^2+x+1)(x+1)(x^2-x+1) }{(x-1)(x+1)(x^2+x+1)}$
$=x^2-x+1$

【問題6.1】 方程式 $\Phi_{6}(x)=x^2-x+1=0$ を解け。---

【解】 $x=\frac{1\pm\sqrt{3} i}{2}$ (答) となるが、ド・モアブルで

$x=\cos \frac{2k\pi}{6}+i\sin \frac{2k\pi}{6}$ (*)

を解にする方法もある。
この極形式から例えば原始 3乗根を省かないといけないが、$\Phi_{3}(x)$ が 2次式であったことから分かるようにそれは 2つあって

$\cos \frac{2\pi}{3}+i\sin \frac{2\pi}{3}$,
$\cos \frac{4\pi}{3}+i\sin \frac{4\pi}{3}$

だから、(*) において $k=2,4$ の場合に当たる。このように考えると、(*) から $6$ と互いに素でない数 $k=2,3,4,6$ を省かないといけない。だから残るのは $6$ と互いに素である $k=1,5$ である。よってこの問題の答は

$x=\cos \frac{2k\pi}{6}+i\sin \frac{2k\pi}{6} (k=1,5)$
$\Rightarrow x=\frac{1}{2} \pm i \frac{\sqrt{3}}{2}$

上図で赤点 2個が原始 6乗根で、黒丸、緑丸、青丸はそれぞれ原始 1, 2, 3乗根である。

【問題6.2】 $1$の 原始 6乗根のガロア群を求めよ。---

【解】 共役解は $\zeta=\cos \frac{\pi}{3}+i\sin \frac{\pi}{3},\zeta^5 $ で、2数間の置換は「何もしない」「交換する」の 2つだから、$i$ のガロア群等と同じである。ガロア群 $G$ は

$G=\{ 1, \sigma \}$

ただし $\sigma$ は複素共役写像、または $\zeta \mapsto \zeta^5$ なる写像である。
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§7. 1の原始7乗根

$7$ の $7$ 未満の正の約数は $1$ のみだから、 $1$の原始7乗根の最小方程式は

$\Phi_{7}(x)=\frac{x^7-1}{\Phi_{1}(x)}=\frac{x^7-1}{x-1}=x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1=0$

で、共役解は、$\zeta=\cos \frac{2\pi}{7}+i\sin \frac{2\pi}{7}$とおけば

$\zeta^k=\cos \frac{2k\pi}{7}+i\sin \frac{2k\pi}{7} (k=1,2,3,4,5,6)$

である。ガロア群の各元は共役写像なのだが、それは$\{ \zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4,\zeta^5,\zeta^6 \}$ 上の置換である。そして、この置換(写像)は $\zeta$ の行き先が決まれば決まってしまう。ということは共役写像も 6個あることになる。その 6個の共役写像を次のように名付けよう。

$\sigma_{1}:\zeta \mapsto \zeta$
$\sigma_{2}:\zeta \mapsto \zeta^2$
$\sigma_{3}:\zeta \mapsto \zeta^3$
$\sigma_{4}:\zeta \mapsto \zeta^4$
$\sigma_{5}:\zeta \mapsto \zeta^5$
$\sigma_{6}:\zeta \mapsto \zeta^6$

このうち、$\sigma_{1}$ は恒等写像 ($=1$) であり、また $\zeta^6=\zeta^6\cdot \zeta\bar{\zeta}=\bar{\zeta}$ だから $\sigma_{6}$ は馴染みの複素共役写像である。
さて、ガロア群 $G=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{3},\sigma_{4},\sigma_{5},\sigma_{6} \}$ の演算表は下表のようになる。

この表の作り方だが、例えば $\sigma_{3} \circ \sigma_{5}$ (今後は $\sigma_{3} \sigma_{5}$ と略記)の演算結果は、$\sigma_{5}$ を先に作用させ、次に $\sigma_{3}$ を作用させるから

$\zeta \mapsto \zeta^5 \mapsto (\zeta^3)^5=\zeta^{15}=\zeta$

のように共役解の間を移り渡る。したがって $\sigma_{3} \sigma_{5}=\sigma_{1}$ と分かる。今、写像の合成にあたって順序を気にしたが、じつは逆順でも結果は同じ(可換)だから、あまり気にしなくてよい。
(大学生へのコメント:この群は乗法群 $\{ x \mbox{ } {mod. 7} | x \not \equiv 0 \}$ に同型であるので、ガロア群は可換とすぐ分かる。このとき部分群はすべて正規部分群になるので取り扱いが楽である。)

さて、この群の部分群 $H$ を求めよう。

(1) もっとも簡単な部分群として $\sigma_{1}$ のみから成る部分群がある。たしかに元が 1個だけで、演算(写像の合成)について閉じている。$H_{0}=\{ \sigma_{1}\}$

(2) 部分群が $\sigma_{2}$ を含む場合。2乗した $\sigma_{4}$ を含まなければならず、そうすると $\sigma_{2}\sigma_{4}=\sigma_{1}$ も含むから、下表のような演算表が得られて、$H_{1}=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{4}\}$

(3) 部分群が $\sigma_{3}$ を含む場合。2乗の $\sigma_{2}$ と $\sigma_{2}\sigma_{3}=\sigma_{6}, \sigma_{2}\sigma_{6}=\sigma_{5}, \sigma_{3}\sigma_{6}=\sigma_{4},\sigma_{2}\sigma_{4}=\sigma_{1}$ も含まれる。結局これは $G$ そのものだ。

(4) 部分群が $\sigma_{4}$ を含む場合。2乗した $\sigma_{2}$ を含まなければならないが、これは先の $H_{1}$ と同じだ。

(5) 部分群が $\sigma_{5}$ を含む場合。2乗の $\sigma_{4}$ と $\sigma_{4}\sigma_{5}=\sigma_{6}, \sigma_{5}\sigma_{6}=\sigma_{2},\sigma_{5}\sigma_{2}=\sigma_{3},\sigma_{5}\sigma_{3}=\sigma_{1}$ も含まれる。結局これも $G$ そのものだ。

(6) 部分群が $\sigma_{6}$ を含む場合。2乗した $\sigma_{1}$ を含むが、これらだけで閉じしてしまうので、$H_{2}=\{ \sigma_{1},\sigma_{6}\}$ で演算表は下表。

したがって $G$ の真の部分群($\{ 1 \}$ と自分自身を除く)は

$H_{1}=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{4}\}$ ,
$H_{2}=\{ \sigma_{1},\sigma_{6}\}$

であり、元の個数(群の位数と言う)はそれぞれ $3$ と $2$ で、いずれも $G$ の位数の $6$ の約数である。

次に、§5 で求めた部分群による不変元(または不変体)を求めてみよう。
まず、$H_{2}$ の方だ。$\sigma_{1}$ は恒等写像だから何者をも動かさず、検討の意味はない。そこで $\sigma_{6}:\zeta \mapsto \zeta^6$ が動かさない者だが、§5 を参考にして

$t=\zeta+\zeta^6$

が不変元だろうと見当がつく。実際、$\sigma_{6}$ で写像すると

$t=\zeta+\zeta^6\mapsto \zeta^6+(\zeta^6)^6=\zeta^6+\zeta^{36}=\zeta+\zeta^6=t$

で不変だ。(共役写像は、有理数や四則演算子は変えずに $\zeta$ のところだけ変える写像である。) 不変体というのは、いまの不変元だけでなく不変元全体の集合のことだが、それは有理数体に $t$ を添加した数体系で、それを

$\mathbb Q(t)$

と書く。例えば $\frac{2+3t+4t^2}{3-4t}$ なる数はこの数体に属し、$\sigma_{6}$ で不変である。

【問題7.1】 $1$ の原始7乗根 $\zeta$ の、数体 $\mathbb Q(t)$ の数を係数とする最小方程式を求めよ。---

【解】 $t=\zeta+\zeta^6=\zeta+\frac{1}{\zeta}$ において $\zeta$ の方が未知数だから $x$ とおいて

$x+\frac{1}{x}=t \Rightarrow x^2-t x+1=0$ (答)

最小方程式が 2次だから、$\mathbb Q(\zeta)$ は $\mathbb Q(t)$ を係数(スカラー)とする 2次元のベクトル空間である。このとき、$\mathbb Q(\zeta)$ は $\mathbb Q(t)$ の 2次拡大体と言う。そしてこの $2$ はどこから出てくるかと言うと、$\mathbb Q(t)$ を不変体とする部分群が $H_{2}$ で、その位数が $2$ なのであった。

【問題7.2】 $t$ の、数体 $\mathbb Q$ の数を係数とする最小方程式を求めよ。---

【解】 本節冒頭に記したように、$\zeta$ の最小方程式は 6次式で

$x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1=0$

だから、$\zeta$ を代入して

$\zeta^6+\zeta^5+\zeta^4+\zeta^3+\zeta^2+\zeta+1=0$

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