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高校生のためのガロア群入門

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§1. i と -i の区別
§2. 1 の立方虚根
§3. 有理数に√2 を添加する
§4. 有理数に√2, √3 を添加する
§5. 1の原始5乗根
§6. 1の原始6乗根
§7. 1の原始7乗根
§8. 正17角形の作図
§9. 2 の立方根

§1. i と -i の区別

虚数単位 $i$ とは、$2$乗して $-1$ になる数のことだから、$i^2=-1$ である。このような数が他にもないかと言えば、方程式

$x^2=-1 \Rightarrow x^2+1=(x-i)(x+i)=0$

を解いて、$i$ と $-i$ が得られることから分かる。

では、$i$ と $-i$ はどうやって区別すればよいのだろうか。
両方とも 2乗すれば $-1$ であり(これだけでは区別できない)、片方を $-1$ 倍すれば他方になるけど、これでは片方が分からないと他方が分からないことになる。
ひょっとして両者は一致するかもと思うかもしれないけど、そんなことはない。実際、$i=-i$ だと移項して

$i-(-i)=2i=0 \Rightarrow \frac{2 i}{2}=\frac{0}{2} \Rightarrow i=0$

となり不合理。

$\sqrt{2}$ と $-\sqrt{2}$ だったら正数と負数だから、ハッキリ区別できる。でも、$i$ と $-i$ の場合は、無理に区別しなくてよいのである。
たとえ話をしよう。

$i$ と $-i$ のそれぞれを (A) と (B) の封筒に入れて、テーブルの上に置く。そこで、3秒間、目をつむってください。
さて、$i$ はどっちの封筒に入っているでしょうか。あなたが目をつむっている間に私が 2つの封筒をすり替えたかもしれない。
そこで第三者の C君に封筒の中を覗いてもらおう。
C君、いわく「両方とも2乗すると $-1$ になる数で、一方を $-1$倍すると他方になります。」

結局、分かることは (A) と (B) の位置はそのままか、入れ替えたかの 2つのどちらかだということである。
2元 $A, B$ に対し、

$A \mapsto A$,
$B \mapsto B$

のように対応させる(恒等写像と言う)か、

$A \mapsto B$,
$B \mapsto A$

のように対応させるかである。後者の写像を具体的に書くと

$i \mapsto -i$,
$-i \mapsto i$

なる写像である。これを複素共役写像と言う。もう少し正確に書くと、複素共役写像とは実数 $a, b$ に対し

$a+b i \mapsto a+b(-i)=a-b i$

なる写像のことである。実数と演算子の $+,\times$ は写像した後も変えずに、虚数単位 $i$ を $-i$ に変えるだけである。これを実数係数上の準同型の写像と言う。
教科書には「虚部 $b$ を $-b$ に変える」ことと書いてあるが、「虚数単位 $i$ を $-i$ に変える」ことと言うのが正しい。(結果的には同じだが。)

ここに現れた 2つの写像(恒等写像と複素共役写像)は、写像の合成に関して閉じた体系を作る。それを一般にと呼ぶ。今の場合、より具体的に

$i$ のガロア群、
または
$x^2+1$ のガロア群

と呼ばれる。

【問題1.1】 恒等写像を $1$, 複素共役写像を $\sigma$ で表すとき、2つの写像の合成の結果を求めよ。---

【解】 2つの写像 $y=f(x), y=g(x)$ の合成 $f\circ g$ は、$f\circ g(x)=f(g(x))$ のことであるから、$g$ で写像した後 $f$ で写像することである。(順序を間違えないこと。) よって

$1 \circ 1: a+bi \mapsto a+bi \mapsto a+bi$
$1 \circ \sigma: a+bi \mapsto a-bi \mapsto a-bi$
$\sigma \circ 1: a+bi \mapsto a+bi \mapsto a-bi$
$\sigma \circ \sigma: a+bi \mapsto a-bi \mapsto a+bi$

(第4式は $\bar{\bar{z}}=z$ と表現したりする。)であるから、合成の演算結果は

$1 \circ 1=1,1 \circ \sigma=\sigma \circ 1=\sigma, \sigma \circ\sigma =1$
(←演算表)

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§2. 1 の立方虚根

1 の立方虚根とは、$3$乗して $1$になる虚数のことである。したがって方程式 $x^3=1$ を解けばよい。解き方は 2つあって、

$(x-1)(x^2+x+1)=0 \Rightarrow x=1, \frac{-1+\sqrt{3}i}{2}, \frac{-1-\sqrt{3}i}{2}$

と因数定理を使うやり方と、

$x=\cos \frac{2k\pi}{3}+i\sin \frac{2k\pi}{3}(k=1,2,3)$

とド・モアブルの定理を使う方法である。

いずれにせよ、1 の立方虚根のうちの 1つを

$\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}$

とおくことにしよう。

【問題2.1】 $\omega$ を解とする方程式を作れ。---

【解】 教科書には、

$\omega+\bar{\omega}=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}+\frac{-1-\sqrt{3}i}{2}=-1$,
$\omega\bar{\omega}=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}\times \frac{-1-\sqrt{3}i}{2}=1$
より $x^2-(-1)x+1=0$

というやり方が載っているが、共役な複素数 $\bar{\omega}$ も解になるのは、実数係数の方程式の場合であって、今その場合に該当するか分かっていない時点でそのやり方は使えないはずだ。

そこで、次のようにやる。

$x=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}$
$\Rightarrow 2x+1=\sqrt{3}i$
$\Rightarrow (2x+1)^2=(\sqrt{3}i)^2$
$\Rightarrow 4x^2+4x+4=0$
$\Rightarrow x^2+x+1=0$

$\omega$ は $x^3-1=0$ の解であったのだが、それには実数解 $x=1$ という夾雑物が混ざっている。それより次数の低い方程式

$x^2+x+1=0$

の方が $\omega$ を特徴を表す方程式にふさわしい。この方程式を $\omega$ の最小方程式と言う。

別の見方に立って、

$\frac{x^3-1}{x-1}=x^2+x+1$

のように割り算して夾雑物を取り除くこともできる。これの右辺はもう (有理数係数の) 1次式で割り切ることはできない。言い換えると右辺は(有理数係数上で)因数分解できない($\mathbb Q$上)既約であると言う。

【問題2.2】 $x^2+x+1=0$ の 1つの解を $\omega$ とするとき、もう 1つの解を $\omega$ で表せ。---

【解】 $\omega^2+\omega+1=0$ の複素共役をとって

$\overline{\omega^2+\omega+1}=\bar{0}=0$
$\Rightarrow \bar{\omega}^2+\bar{\omega}+1=0$

より残りの解は $\bar{\omega}$ である。

【別解】 $\omega$ は $x^3=1$ の解でもあったから

$\omega^3=1 \Rightarrow |\omega^3|=|\omega|^3=1 \Rightarrow |\omega|=1$

($|\omega|$ は $0$以上の実数であることに注意。) これを使って $\omega\bar{\omega}=|\omega|^2=1$ より ${\omega}=1/\bar{\omega}$ を方程式に代入して

$\frac{1}{\bar{\omega}^2}+\frac{1}{\bar{\omega}}+1=0$
$\Rightarrow \bar{\omega}^2+{\bar{\omega}}+1=0$

したがって残りの解は $\bar{\omega}$ である。

【さらなる別解】 残りの解を $\omega'$ として、解と係数の関係から

$\omega+\omega'=-1 \Rightarrow \omega'=-\omega-1$,
$\omega\omega'=1 \Rightarrow \omega'=\frac{1}{\omega}$

結局、3つの異なる答($\omega'=\bar{\omega},-\omega-1,1/{\omega}$)を得たが、$\omega$(絶対値 1, 偏角120度)から $\omega'$(絶対値 1, 偏角240度)を得るには

(1) $x$軸について対称移動、(2) 原点について対称移動して 1だけ左に移動、(3) $1$ から $120$度回転ではなく、$-120$度回転する、という3つの方法があることを意味する。

さて、ここで $\omega$ または $x^2+x+1$ のガロア群を考えよう。$\omega$ と $\omega'$ を 2つの封筒に入れて、「そのまま」か「入れ替える」かだから、§1 と同じく、ガロア群は

$G=\{ 1, \sigma \}$

になる。では 1(恒等写像)の方はよいとして、$\sigma$ はどのような写像なのだろうか。§1 のときは $a+bi \mapsto a-bi$ だったが、ここでは

$\sigma: a+b\omega \mapsto a+b\omega'=a+b\bar{\omega}(a,b$は実数$)$

となる。なんだ、やはり複素共役写像である。
でも厳密に言うと、§1 に出てきた複素共役写像と少し異なる。前節のは $i \mapsto -i$ と写像であったが、この節のは $\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2} \mapsto \omega'=\frac{-1-\sqrt{3}i}{2} \mapsto $, すなわち $\sqrt{3}i \mapsto -\sqrt{3}i$ という写像($\sqrt{3}$ の付かない $i$ を写像することはできない)だから、厳密には異なる写像である。
したがって、§1 と§2 のガロア群は同一のものではないが、構造としては同じ。そういうものを同型と言い、記号 $\simeq$ を使って $G_{1} \simeq G_{2}$ のように表し、2つの群は同型と呼ぶ。

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§3. 有理数に√2 を添加する

有理数全体が作る数体系を有理数体と呼ぼう。また、前にも出てきた記号だが有理数全体の集合を $\mathbb Q$ と書く。$\mathbb Q$ に $\sqrt{2}$ を添加した集合、すなわち

$\mathbb Q(\sqrt{2})=\{ a+b\sqrt{2} | a,b\in \mathbb Q \}$

について考えよう。

【問題3.1】 $a+b\sqrt{2} (a,b\in \mathbb Q)$ と表す方法は一意的(ユニーク)であること、すなわち

$a+b\sqrt{2} =a'+b'\sqrt{2} \Leftrightarrow a=a',b=b'$

であることを証明せよ。ただし、$\sqrt{2}$ が無理数である事実を使ってよい。---

【証明】 左辺の等式を変形すると

$(a-a')+(b-b')\sqrt{2} =0$

だが、もし $b\neq b'$ とすると

$\sqrt{2} =-\frac{a-a'}{b-b'}$

となり、$\sqrt{2}$ が無理数であることに反する。よって、$b= b'$ であり、したがって $a=a'$ も成り立つ。逆は明らか。■

平面上の任意のベクトル $\vec{v}$ は基本ベクトル $\vec{i}=(1,0),\vec{j}=(0,1)$ を使って $\vec{v}=a\vec{i}+b\vec{j}$ の形に一意的に表せるのと似ている。
そこで、$a+b\sqrt{2}= a\times 1+b\times \sqrt{2} $なる数の全体は、$1,\sqrt{2}$ を基底とし、有理数を係数(スカラー)とする(2次元の)ベクトル空間を作ると言う。

【問題3.2】 $\mathbb Q(\sqrt{2})$ は加減乗除について閉じていることを示せ。---

【証明】 加減と乗法は

$(a +b\sqrt{2})\pm(a' +b'\sqrt{2})=(a\pm a') +(b\pm b')\sqrt{2})$,
$(a +b\sqrt{2})(a' +b'\sqrt{2})=(aa'+2bb') +(ab'+a'b)\sqrt{2}$

から分かり、除法は $(a' +b'\sqrt{2}) \div (a +b\sqrt{2})$ だが、当然 $a +b\sqrt{2}\neq 0=0+0\sqrt{2}$, すなわち "$a=b=0$" ではないとする。このとき、$a -b\sqrt{2}\neq 0$ だから

$\frac{a' +b'\sqrt{2}}{a +b\sqrt{2}}=\frac{(a' +b'\sqrt{2})(a -b\sqrt{2})}{(a +b\sqrt{2})(a -b\sqrt{2})}$
$=\frac{(aa'-2bb') +(ab'-a'b)\sqrt{2}}{a^2-2b^2}$
$=\frac{aa'-2bb'}{a^2-2b^2} +\frac{ab'-a'b}{a^2-2b^2}\sqrt{2}$

より分かる。■

周知のように、上の除法の証明に出てきた変形を分母の有理化と言う。

【問題3.3】 $\sqrt{2}$ の最小方程式を求めよ。---

【解】 $x=\sqrt{2}$ とおいて

$x^2-2=0$ (答)

逆にこれを解くと、$x^2-2=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})=0$ から $x=\sqrt{2},-\sqrt{2}$ となる。$-\sqrt{2}$ と $\sqrt{2}$ は共役な数である。

先ほどのベクトル空間の話の続きをしよう。
多項式の世界だと、その要素は $a_{0}+a_{1}x+a_{2}x^2+a_{3}x^3+\cdots$ と表されるから、基底は $1,x,x^2,x^3,\cdots$ で $\infty$次元のベクトル空間である。
これと対比すると、いまの場合は $a_{0}+a_{1}\sqrt{2}+a_{2}\sqrt{2}^2+a_{3}\sqrt{2}^3+\cdots$ となるべきところが、$\sqrt{2}$ の 2乗以上の部分が定数項か 1次の項に繰り込まれるので、$a+b\sqrt{2}$ の形になってしまう訳だ。その原因は、最小方程式 $x^2-2=0$ により、$x=\sqrt{2}$ の2乗以上の部分は 1次以下に次数が低下するからだ。つまり、最小方程式が $n$ 次式だと基底が $0$ 乗から $n-1$乗までで間に合うから、ちょうど $n$次元のベクトル空間になるのだ。

【問題3.4】 $\sqrt{2}$ または $x^2-2$ のガロア群を求めよ。---

【解】 §1, §2 と同様で、

$G=\{ 1, \sigma \}$

だが、ここで $1$ は恒等写像で、$\sigma$ は

$\sigma: a+b\sqrt{2} \mapsto a-b\sqrt{2}(a,b \in \mathbb Q)$

なる写像で、これを共役写像と呼ぶ。($a+b\sqrt{2}$ と $ a-b\sqrt{2}$ は互いに共役と言う。)

【問題3.5】 共役な数 $a+b\sqrt{2},a-b\sqrt{2}$ を解とする方程式を作れ。---

【解】 和と積が

$(a+b\sqrt{2})+(a-b\sqrt{2})=2a$
$(a+b\sqrt{2})(a-b\sqrt{2})=a^2-2b^2$

だから、求めるべき方程式は

$x^2-2ax+(a^2-2b^2)=0$ (答)

ここに出てきた、

$(a+b\sqrt{2})+(a-b\sqrt{2})=2a$,
$(a+b\sqrt{2})(a-b\sqrt{2})=a^2-2b^2$

をそれぞれ $a+b\sqrt{2}(a-b\sqrt{2})$ のトレース(trace)、ノルム(norm)と言う。$a\pm b\sqrt{2}$ は有理数ではないが、そのトレースとノルムはいずれも有理数である。しかもノルムは分母を有理化した後の分母である。

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§4. 有理数に√2, √3 を添加する

最近の教科書には $1/(\sqrt{2}+\sqrt{3})$ の分母を有理化せよ、の問題は載っているけど、$1/(1+\sqrt{2}+\sqrt{3})$ の分母を有理化せよ、は出てこなかったりする。(ルートの個数で分類している訳ではないのだ。)

【問題4.1】 $\sqrt{2}+\sqrt{3}$ の最小方程式を求めよ。---

【解】 $x=\sqrt{2}+\sqrt{3}$ とおいて

$(x-\sqrt{2})^2=\sqrt{3}^2$,
$x^2-2\sqrt{2}x-1=0$,
$(x^2-1)^2=(2\sqrt{2}x)^2$,
$x^4-2x^2+1=8x^2$,
$x^4-10x^2+1=0$ (答)

【問題4.2】 方程式 $x^4-10x^2+1=0$ を解け。---

【解】 $x^2$ をびんづめにして、2次方程式の解の公式を 1回使って

$x^2=5 \pm 2\sqrt{6}$
$\Rightarrow x=\pm \sqrt{5 \pm 2\sqrt{6}}$
$=\pm\sqrt{(\sqrt{3}\pm \sqrt{2})^2}$
$=\pm((\sqrt{3}\pm \sqrt{2})$
$=\sqrt{3}+ \sqrt{2}, \sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}+ \sqrt{2}$ (答)

これら 4つの数は互いに共役と言われる。

【問題4.3】 $a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6}=0 (a,b,c,d\in \mathbb Q)$ となるための必要十分条件は、$a=b=c=d=0$ であることを証明せよ。---

【証明】 問題3.1 によれば、"$x+y\sqrt{2}=0 \Leftrightarrow x=y=0$" である。同様に、"$x+y\sqrt{3}=0 \Leftrightarrow x=y=0$" が成り立つ。与式を変形して

$a+c\sqrt{3} +(b +d\sqrt{3})\sqrt{2}=0$ …(*)

が成り立つとする。もし $b +d\sqrt{3}\neq 0$ とするならば

$\sqrt{2}=-\frac{a+c\sqrt{3} }{b +d\sqrt{3}}=A+B\sqrt{3}$

中辺の分母を有理化した結果が最右辺$A<B\in \mathbb{Q}$)である。もし $B=0$ だと $\sqrt{2}$ が有理数になってしまうので $B\neq 0$ で、 2乗して

$2=(A^2+3B^2)+2AB\sqrt{3} \Rightarrow AB=0 \Rightarrow A=0$,
よって
$\sqrt{2}=B\sqrt{3}$

ここで $B$ は有理数だから、$B=\frac{B_{1}}{B_{2}}$ ($B_{1},B_{2}$は整数) とおいて、分母を払って 2乗すると

$2 B_{2}^2=3 B_{1}^2$

となるが、両辺を素因数分解したときに、左辺には $2$ の因子が奇数個あるのに、右辺は偶数個であるから矛盾である。したがって、

$b +d\sqrt{3}= 0 \Leftrightarrow b=d=0$

が言える。(*) から、$a+c\sqrt{3} =0 \Leftrightarrow a=c=0$ も言える。これで必要性が証明できたが、十分性の方は自明である。■

これで $\{ a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} | a,b,c,d\in \mathbb Q \}$ なる数体系は、$1,\sqrt{2},\sqrt{3},\sqrt{6}$ を基底とする 4次元のベクトル空間である。

【問題4.4】 $\sqrt{2}+\sqrt{3}$ のガロア群を求めよ。---

【解】 共役な数は、自分自身も含めて

$\sqrt{3}+ \sqrt{2}, \sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}+ \sqrt{2}$

であった。この 4数間の共役写像を求めればよい。
1つ目が恒等写像 $1$, 2つ目が $\sqrt{2}$ を $-\sqrt{2}$ に移す写像 $\sigma$ であるが、これは $\sqrt{6}=\sqrt{2}\sqrt{3}$ だったら $-\sqrt{2}\sqrt{3}=-\sqrt{6}$ に移すことになることに注意しよう。3つ目の共役写像は $\tau:\sqrt{3} \mapsto -\sqrt{3}$ なる写像である。
このほかにどんな共役写像があるかと言うと、群は写像の合成という演算について閉じていなければならないから、$\sigma$ と $\tau$ の合成の $\tau\circ\sigma$ が4つ目の写像だ。
これで、ガロア群の元はすべて尽くされた。4つを並べて書くと

$1:a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6}$,
$\sigma:a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a-b\sqrt{2} +c\sqrt{3} -d\sqrt{6}$,
$\tau : a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a+b\sqrt{2} -c\sqrt{3} -d\sqrt{6}$,
$\tau \circ\sigma: a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a+b\sqrt{2} -c\sqrt{3} -d\sqrt{6} \mapsto a-b\sqrt{2} -c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto $

この 4つの元からなるガロア群

$G=\{ 1,\sigma,\tau ,\tau \circ\sigma \}$ (答)

は次のように考えると分かりやすい。

上図のような赤いパイプ4本で組み立てて作った長方形を1個テーブルの上に置く。角に4つの数が示されているが、実際にこれらの数が書いてある訳ではない。(ばれてしまう。)さて、例によってあなたは 3秒間目をつむります。その間、私は長方形を動かします(または、何もしません)。目を開けても長方形の位置は変わってません。長方形はどのように移動されたでしょうか。答は

$1:$ 何もしない(そのまま)、
$\sigma: x$軸についての対称移動、
$\tau: y$軸についての対称移動、
$\tau\circ\sigma:$ 原点についての対称移動

となるであろう。この群はクラインの四元群と呼ばれる。

【問題4.5】 $\frac{1}{1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}}$ の分母を有理化せよ。---

【解】 分母をノルムにすればよい。ノルムとは、4つの共役数 $\alpha=1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6},\beta,\gamma,\delta$ の積である。これを求めるには、最小方程式を作ると楽だ。そこで

$x=1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}$,
$(x-1-\sqrt{6})^2=(\sqrt{2} +\sqrt{3})^2$,
$(x-1)^2-2\sqrt{6}(x-1)+6=5+2\sqrt{6}$,
$x^2-2x+2=2\sqrt{6}x$,
$(x^2-2x+2)^2=24x^2$,
$x^4-4x^3-16x^2-8x+4=0$

この 4次方程式のノルムは、解と係数の関係から求められる。ところで4次方程式の解と係数の関係は

$a(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)(x-\delta)=ax^4+\cdots+C(C$は定数項)
$\Rightarrow \alpha\beta\gamma\delta=\frac{C}{a}$

だから

$\alpha\beta\gamma\delta=\frac{4}{1}=4$

これが有理化した後の分母で、それを作るには分母・分子に $1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}$ 以外の共役を書ければよいから

$\frac{1}{1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}}=\frac{(1-\sqrt{2} +\sqrt{3} -\sqrt{6})(1+\sqrt{2} -\sqrt{3} -\sqrt{6})(1-\sqrt{2} -\sqrt{3} +\sqrt{6})}{4}$
$=\frac{1}{4}\{ (1-\sqrt{2})(1+\sqrt{3})\cdot (1+\sqrt{2})(1-\sqrt{3}) \cdot (1-\sqrt{2})(1-\sqrt{3}) \}$
$=\frac{1}{4}\{ (-1)(-2)(1-\sqrt{2})(1-\sqrt{3}) \}$
$=\frac{1}{2}(1-\sqrt{2}-\sqrt{3}+\sqrt{6})$ (答)

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§5. 1の原始5乗根

$1$の 5乗根は 5乗して $1$ になる数、すなわち方程式 $x^5-1=0$ の解だが、「原始」5乗根はこの中から $k=1,2,3,4$ 乗で $1$になるものを除いたものである。今の場合は、$x=1$ を省けばよいから、$1$の 5乗根の最小方程式は

$\frac{x^5-1}{x-1}=x^4+x^3+x^2+x+1=0$
(等比数列の和の公式を逆に使えば、すぐに導ける。)

【問題5.1】 方程式 $x^4+x^3+x^2+x+1=0$ を解け。---

【解】 $x^5=1$ の解から $x=1$ を省けばよいから、

$x=\cos \frac{2k\pi}{5}+i \sin \frac{2k\pi}{5}(k=1,2,3,4)$ (答)
$\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5}$ とおけば、$x=\zeta^k(k=1,2,3,4)$ が解であると言ってもよい。(ド・モアブルの定理)

【別解】 相反方程式だから、真ん中の $x^2$ で割って

$x^2+x+1+\frac{1}{x}+\frac{1}{x^2}=0$
$(x+\frac{1}{x})^2-2+(x+\frac{1}{x})+1=0$
$x+\frac{1}{x}=t$ とおけば $t^2+t-1=0$
よって $t=x+\frac{1}{x}=\frac{-1\pm\sqrt{5}}{2}$となるが、分母を払って 2次方程式にして
$2x^2-(-1\pm\sqrt{5})x+2=0$
$x=\frac{1}{4}(-1\pm\sqrt{5}\pm i\sqrt{10\pm2\sqrt{5}})$ (答)

紛れがないように列記すると以下の通り。
$x=\frac{1}{4}(-1+\sqrt{5}+ i\sqrt{10+2\sqrt{5}})$,
$\frac{1}{4}(-1-\sqrt{5}+ i\sqrt{10-2\sqrt{5}})$,
$\frac{1}{4}(-1+\sqrt{5}- i\sqrt{10+2\sqrt{5}})$,
$\frac{1}{4}(-1-\sqrt{5}- i\sqrt{10-2\sqrt{5}})$

答を見ると、解は有理数とその加減乗除および開平(√)で表されているので、正5角形は作図可能である。(→「作図可能な線分の長さ」のページ参照
具体的に作図法を紹介する。長さが $1$ と $2$ の線分で直角をはさむ直角三角形の斜辺($\sqrt{5}$)と長さ $1$ を合わせて $1+\sqrt{5}$ になり、これを $4$等分したもので、$\zeta$ の実部が作図できるので、この $x$軸の垂線と単位円との交点を作図する。あとは $1$ と $\zeta$ を両端とする弧で円周を切っていけば正5角形になる。

【問題5.2】 $1$ の原始5乗根のガロア群を求めよ。---

【解】 最小方程式 $x^4+x^3+x^2+x+1=0$ の共役な解は $\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5}$ とおくとき、

$\zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ (上図参照)

であった。これら 4つの数の置き換え(置換とか順列と呼ぶ)が共役写像だが、$\zeta$ の移り先(4通りしかない)が決まれば写像は決まってしまう。実際、$\zeta \mapsto \zeta^k(k=1,2,3,4)$ ならば、その対応は

$\zeta \mapsto \zeta^k$,
$\zeta^2 \mapsto (\zeta^k)^2=\zeta^{2k}$,
$\zeta^3 \mapsto (\zeta^k)^3=\zeta^{3k}$,
$\zeta^4 \mapsto (\zeta^k)^4=\zeta^{4k}$

のように決まる。例として、$k=3$ とするならば $\zeta^5=1$ に注意して

$\zeta \mapsto \zeta^3$,
$\zeta^2 \mapsto (\zeta^3)^2=\zeta^{6}=\zeta$,
$\zeta^3 \mapsto (\zeta^3)^3=\zeta^{9}=\zeta^4$,
$\zeta^4 \mapsto (\zeta^3)^4=\zeta^{12}=\zeta^2$

である。恒等写像を $1$, $\zeta \mapsto \zeta^2$ なる写像を $\sigma$ で表すと、残りの写像は $\sigma \circ\sigma, \sigma\circ\sigma\circ\sigma$ (それぞれ $\sigma^2, \sigma^3$ と略記する)となるが、その対応は

$\sigma^2: \zeta \mapsto \zeta^2 \mapsto (\zeta^2)^2=\zeta^4$,
$\sigma^3: \zeta \mapsto \zeta^2 \mapsto (\zeta^2)^2=\zeta^4 \mapsto (\zeta^2)^4=\zeta^3$

である。ところで、$\sigma^4$ は $\sigma^4=\sigma^2\sigma^2$ ($\circ$ を積のようなものと考えて演算子省略)より

$\sigma^4=\sigma^2 \sigma^2: \zeta \mapsto \zeta^4 \mapsto (\zeta^4)^4=\zeta$

となるので、$\sigma^4=1$ である。これに注意してガロア群

$G=\{ 1, \sigma, \sigma^2, \sigma^3 \}$ (答)

の演算表を作ると下表のようになる。

このガロア群の構造を図解すると、次のようになる。底面が正方形の直四角錐(下の写真)を用意する。

これを真上から見ると、正方形だが4頂点に $\zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ を(心の中で)書く。

あなたが目をつむって「ダルマさんが転んだ」と唱える間に、私は四角錐をあなたに分からないように動かす。その動かし方は、90度回転を $\sigma$ とすれば、$\sigma,\sigma^2,\sigma^3,1$ の4通りである。($1$ は何もしないという動かし方を表す。)
さて、上に出てきたガロア群は位数4の巡回群と呼ばれ、$\sigma$ を巡回群の生成元と言う。実は $\sigma^3$ も生成元になっているのだが、$1$ や $\sigma^2$ は生成元ではない。これは何乗しようとも $\sigma$ や $\sigma^3$ にならないからである。では、$\sigma^2$ だけで何が生成できるかと言うと、下表のようになる。

つまり $G=\{ 1,\sigma,\sigma^2,\sigma^3 \}$ の中において $H=\{ 1,\sigma^2 \}$ という sub group ができて、このグループの中で演算は閉じている。このグループをもとの群の部分群と言う。
この部分群をガロア群とするような数体系があるはずだが、それはどのようなものなのか。

ここで§1 を今の見地から振り返ってみよう。実数(real number)の世界を $\mathbb R$ と表そう。これに虚数単位の $i$ を添加した数体系、換言すれば $x^2+1=0$ が解を持つように拡張された体系が複素数の世界 $\mathbb R(i)$ であった。この状況をイメージで表すと、下図のように $\mathbb R$ が地上の世界で、その上空にできた大きな世界が $\mathbb R(i)$ である。これに対応するガロア群が $\{ 1,\sigma \}$ (ただし $\sigma$ は複素共役写像)であった。
ここで大事なことは、実数 $x$ について $\bar{x}=x$ だから、$1$ という写像も $\sigma $ という写像も地上の世界にあるもの(実数)を異なる数に移すことがないということだ。
地上のものは動かそうとしてもビクともしない。天上にあるもの(今の場合、虚数)は(まるきり自由ではないけど) $\sigma$ で異なる数に動かすことができる。

では、$G$ の部分群 $H$ は何を表すか。

地上の世界=有理数の体系 $\mathbb Q$ と $1$の原始5乗根を添加した体系 $\mathbb Q(\zeta)$ の天上の世界の中間に浮かぶ世界があるということだ。それが有理数に $\sqrt{5}$ を添加した $\mathbb Q(\sqrt{5})$ だ。(実数全体の集合に $\sqrt{5}$ を添加しても何も変わらないから、地上界は $\mathbb Q$ でないとダメだ。) $\mathbb Q(\sqrt{5})$ は実数の一部であり、虚数を含んでいない。これにさらに何かを添加すれば $\mathbb Q(\zeta)$ が得られる。
問題5.1 を見れば、$x+\frac{1}{x}=\frac{-1\pm\sqrt{5}}{2}$ であった。ここに共役解 $\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5},\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ を代入すると

$\zeta+\frac{1}{\zeta}=\zeta+\frac{\zeta\bar{\zeta}}{\zeta}=\zeta+\bar{\zeta}=2\cos\frac{2\pi}{5}=\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$,
$\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2}=\zeta^2+\overline{\zeta^2}=2\cos\frac{4\pi}{5}=\frac{-1-\sqrt{5}}{2}$,
$\zeta^3+\frac{1}{\zeta^3}=\frac{\zeta^5}{\zeta^2}+\frac{\zeta^2}{\zeta^5}=\frac{1}{\zeta^2}+\zeta^2=\frac{-1-\sqrt{5}}{2}$,
$\zeta^4+\frac{1}{\zeta^4}=\frac{\zeta^5}{\zeta}+\frac{\zeta}{\zeta^5}=\frac{1}{\zeta}+\zeta=\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$

(複号の取り方は偏角が鋭角か鈍角かで決まる。) となる。

さて、部分群 $H$ の元の 1つである $\sigma^2$ は $\zeta \mapsto \zeta^4$ という写像であったから、

$\sigma^2: \zeta+\frac{1}{\zeta} \mapsto \zeta^4+\frac{1}{\zeta^4}=\zeta+\frac{1}{\zeta}$

である。すなわち、 $H$ の元により、$t=\zeta+\frac{1}{\zeta} =\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$ は動かされない(不変元である)。これに有理数を加減乗除して得られる $\sqrt{5}$ や $\mathbb Q(\sqrt{5})$ は属するすべての元も $H$ の不変元である。
$G$ の部分群 $H$ に不変体 $\mathbb Q(\sqrt{5})$ が対応すると理解しよう。

$H$ にとっては $\mathbb Q(\sqrt{5})$ が地上の世界にあたり、$\mathbb Q(\sqrt{5})$ の上空に浮かぶのが $\mathbb Q(\zeta)$ の世界である。
2つの世界はどういう関係にあるのだろうか。

$\zeta$ の最小方程式をこの §の冒頭で提示したような有理数を係数としたものではなく、$\mathbb Q(\sqrt{5})$ の元を係数としたものにしてみよう。

【問題5.3】 $\mathbb Q(\sqrt{5})$ の元を係数とする $\zeta=\cos \frac{2\pi}{5}+i \sin \frac{2\pi}{5}$ の最小方程式を求めよ。---

【解】 $\zeta+\frac{1}{\zeta} =\frac{-1+\sqrt{5}}{2}$ の両辺を $\zeta$ 倍して

$\zeta^2+1=\frac{-1+\sqrt{5}}{2}\zeta \Rightarrow \zeta^2-\frac{-1+\sqrt{5}}{2} \zeta+1=0$
よって求めるべき最小方程式は
$x^2-\frac{-1+\sqrt{5}}{2}x+1=0$ (答)

冒頭で示した最小方程式は 4次だったが、今度は 2次方程式だ。 最下界の $\mathbb Q$ から $\mathbb Q(\zeta)$ の世界に昇るには 4 だけ必要だが、途中の $\mathbb Q(\sqrt{5})$ から $\mathbb Q(\zeta)$ へ昇るだけだったら 2 で大丈夫ってことだ。

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§6. 1の原始6乗根

$1$の 原始 6乗根とは 6乗して初めて $1$ になる数、その手前では $1$ にならないような方程式 $x^6-1=0$ の解である。「その手前」とは、ベキ指数が $6$ の約数、すなわち $1,2,3$ で $1$ になる根(解)を省かないといけない。つまり、6乗根から、原始 1乗根、原始 2乗根、原始 3乗根を取り除けばよいのだ。

原始 1乗根は、$x-1=0$ の解、
原始 2乗根は、$x^2-1=0$ の解から原始 1乗根を除いたもの、
原始 3乗根は、$x^3-1=0$ の解から原始 1乗根を除いたもの

である。ここで原始 $n$乗根の最小方程式を $\Phi_{n}(x)=0$ と書こう。$\Phi_{n}(x)$ は円周等分多項式と呼ばれる。ではそれを求めよう。

$\Phi_{1}(x)=x-1$,
$\Phi_{2}(x)=\frac{x^2-1}{\Phi_{1}(x)}=\frac{x^2-1}{x-1}=x+1$,
$\Phi_{3}(x)=\frac{x^3-1}{\Phi_{1}(x)}=\frac{x^3-1}{x-1}=x^2+x+1$

$\Phi_{6}(x)$ の場合は $6$ の約数である $1,2,3$ に対応する $\Phi_{1}(x),\Phi_{2}(x),\Phi_{3}(x)$ で割ればよいのだ。したがって

$\Phi_{6}(x)=\frac{x^6-1}{\Phi_{1}(x)\Phi_{2}(x)\Phi_{3}(x)}$
$=\frac{x^6-1}{(x-1)(x+1)(x^+x+1)}$
$=\frac{(x^3-1)(x^3+1) }{(x-1)(x+1)(x^2+x+1)}$
$=\frac{(x-1)(x^2+x+1)(x+1)(x^2-x+1) }{(x-1)(x+1)(x^2+x+1)}$
$=x^2-x+1$

【問題6.1】 方程式 $\Phi_{6}(x)=x^2-x+1=0$ を解け。---

【解】 $x=\frac{1\pm\sqrt{3} i}{2}$ (答) となるが、ド・モアブルで

$x=\cos \frac{2k\pi}{6}+i\sin \frac{2k\pi}{6}$ (*)

を解にする方法もある。
この極形式から例えば原始 3乗根を省かないといけないが、$\Phi_{3}(x)$ が 2次式であったことから分かるようにそれは 2つあって

$\cos \frac{2\pi}{3}+i\sin \frac{2\pi}{3}$,
$\cos \frac{4\pi}{3}+i\sin \frac{4\pi}{3}$

だから、(*) において $k=2,4$ の場合に当たる。このように考えると、(*) から $6$ と互いに素でない数 $k=2,3,4,6$ を省かないといけない。だから残るのは $6$ と互いに素である $k=1,5$ である。よってこの問題の答は

$x=\cos \frac{2k\pi}{6}+i\sin \frac{2k\pi}{6} (k=1,5)$
$\Rightarrow x=\frac{1}{2} \pm i \frac{\sqrt{3}}{2}$

上図で赤点 2個が原始 6乗根で、黒丸、緑丸、青丸はそれぞれ原始 1, 2, 3乗根である。

【問題6.2】 $1$の 原始 6乗根のガロア群を求めよ。---

【解】 共役解は $\zeta=\cos \frac{\pi}{3}+i\sin \frac{\pi}{3},\zeta^5 $ で、2数間の置換は「何もしない」「交換する」の 2つだから、$i$ のガロア群等と同じである。ガロア群 $G$ は

$G=\{ 1, \sigma \}$

ただし $\sigma$ は複素共役写像、または $\zeta \mapsto \zeta^5$ なる写像である。
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§7. 1の原始7乗根

$7$ の $7$ 未満の正の約数は $1$ のみだから、 $1$の原始7乗根の最小方程式は

$\Phi_{7}(x)=\frac{x^7-1}{\Phi_{1}(x)}=\frac{x^7-1}{x-1}=x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1=0$

で、共役解は、$\zeta=\cos \frac{2\pi}{7}+i\sin \frac{2\pi}{7}$とおけば

$\zeta^k=\cos \frac{2k\pi}{7}+i\sin \frac{2k\pi}{7} (k=1,2,3,4,5,6)$

である。ガロア群の各元は共役写像なのだが、それは$\{ \zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4,\zeta^5,\zeta^6 \}$ 上の置換である。そして、この置換(写像)は $\zeta$ の行き先が決まれば決まってしまう。ということは共役写像も 6個あることになる。その 6個の共役写像を次のように名付けよう。

$\sigma_{1}:\zeta \mapsto \zeta$
$\sigma_{2}:\zeta \mapsto \zeta^2$
$\sigma_{3}:\zeta \mapsto \zeta^3$
$\sigma_{4}:\zeta \mapsto \zeta^4$
$\sigma_{5}:\zeta \mapsto \zeta^5$
$\sigma_{6}:\zeta \mapsto \zeta^6$

このうち、$\sigma_{1}$ は恒等写像 ($=1$) であり、また $\zeta^6=\zeta^6\cdot \zeta\bar{\zeta}=\bar{\zeta}$ だから $\sigma_{6}$ は馴染みの複素共役写像である。
さて、ガロア群 $G=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{3},\sigma_{4},\sigma_{5},\sigma_{6} \}$ の演算表は下表のようになる。

この表の作り方だが、例えば $\sigma_{3} \circ \sigma_{5}$ (今後は $\sigma_{3} \sigma_{5}$ と略記)の演算結果は、$\sigma_{5}$ を先に作用させ、次に $\sigma_{3}$ を作用させるから

$\zeta \mapsto \zeta^5 \mapsto (\zeta^3)^5=\zeta^{15}=\zeta$

のように共役解の間を移り渡る。したがって $\sigma_{3} \sigma_{5}=\sigma_{1}$ と分かる。今、写像の合成にあたって順序を気にしたが、じつは逆順でも結果は同じ(可換)だから、あまり気にしなくてよい。
(大学生へのコメント:この群は乗法群 $\{ x \mbox{ } {mod. 7} | x \not \equiv 0 \}$ に同型であるので、ガロア群は可換とすぐ分かる。このとき部分群はすべて正規部分群になるので取り扱いが楽である。)

さて、この群の部分群 $H$ を求めよう。

(1) もっとも簡単な部分群として $\sigma_{1}$ のみから成る部分群がある。たしかに元が 1個だけで、演算(写像の合成)について閉じている。$H_{0}=\{ \sigma_{1}\}$

(2) 部分群が $\sigma_{2}$ を含む場合。2乗した $\sigma_{4}$ を含まなければならず、そうすると $\sigma_{2}\sigma_{4}=\sigma_{1}$ も含むから、下表のような演算表が得られて、$H_{1}=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{4}\}$

(3) 部分群が $\sigma_{3}$ を含む場合。2乗の $\sigma_{2}$ と $\sigma_{2}\sigma_{3}=\sigma_{6}, \sigma_{2}\sigma_{6}=\sigma_{5}, \sigma_{3}\sigma_{6}=\sigma_{4},\sigma_{2}\sigma_{4}=\sigma_{1}$ も含まれる。結局これは $G$ そのものだ。

(4) 部分群が $\sigma_{4}$ を含む場合。2乗した $\sigma_{2}$ を含まなければならないが、これは先の $H_{1}$ と同じだ。

(5) 部分群が $\sigma_{5}$ を含む場合。2乗の $\sigma_{4}$ と $\sigma_{4}\sigma_{5}=\sigma_{6}, \sigma_{5}\sigma_{6}=\sigma_{2},\sigma_{5}\sigma_{2}=\sigma_{3},\sigma_{5}\sigma_{3}=\sigma_{1}$ も含まれる。結局これも $G$ そのものだ。

(6) 部分群が $\sigma_{6}$ を含む場合。2乗した $\sigma_{1}$ を含むが、これらだけで閉じしてしまうので、$H_{2}=\{ \sigma_{1},\sigma_{6}\}$ で演算表は下表。

したがって $G$ の真の部分群($\{ 1 \}$ と自分自身を除く)は

$H_{1}=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{4}\}$ ,
$H_{2}=\{ \sigma_{1},\sigma_{6}\}$

であり、元の個数(群の位数と言う)はそれぞれ $3$ と $2$ で、いずれも $G$ の位数の $6$ の約数である。

次に、§5 で求めた部分群による不変元(または不変体)を求めてみよう。
まず、$H_{2}$ の方だ。$\sigma_{1}$ は恒等写像だから何者をも動かさず、検討の意味はない。そこで $\sigma_{6}:\zeta \mapsto \zeta^6$ が動かさない者だが、§5 を参考にして

$t=\zeta+\zeta^6$

が不変元だろうと見当がつく。実際、$\sigma_{6}$ で写像すると

$t=\zeta+\zeta^6\mapsto \zeta^6+(\zeta^6)^6=\zeta^6+\zeta^{36}=\zeta+\zeta^6=t$

で不変だ。(共役写像は、有理数や四則演算子は変えずに $\zeta$ のところだけ変える写像である。) 不変体というのは、いまの不変元だけでなく不変元全体の集合のことだが、それは有理数体に $t$ を添加した数体系で、それを

$\mathbb Q(t)$

と書く。例えば $\frac{2+3t+4t^2}{3-4t}$ なる数はこの数体に属し、$\sigma_{6}$ で不変である。

【問題7.1】 $1$ の原始7乗根 $\zeta$ の、数体 $\mathbb Q(t)$ の数を係数とする最小方程式を求めよ。---

【解】 $t=\zeta+\zeta^6=\zeta+\frac{1}{\zeta}$ において $\zeta$ の方が未知数だから $x$ とおいて

$x+\frac{1}{x}=t \Rightarrow x^2-t x+1=0$ (答)

最小方程式が 2次だから、$\mathbb Q(\zeta)$ は $\mathbb Q(t)$ を係数(スカラー)とする 2次元のベクトル空間である。このとき、$\mathbb Q(\zeta)$ は $\mathbb Q(t)$ の 2次拡大体と言う。そしてこの $2$ はどこから出てくるかと言うと、$\mathbb Q(t)$ を不変体とする部分群が $H_{2}$ で、その位数が $2$ なのであった。

【問題7.2】 $t$ の、数体 $\mathbb Q$ の数を係数とする最小方程式を求めよ。---

【解】 本節冒頭に記したように、$\zeta$ の最小方程式は 6次式で

$x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1=0$

だから、$\zeta$ を代入して

$\zeta^6+\zeta^5+\zeta^4+\zeta^3+\zeta^2+\zeta+1=0$
$\Rightarrow \zeta^3+\zeta^2+\zeta+1+\frac{1}{\zeta}+\frac{1}{\zeta^2}+\frac{1}{\zeta^3}=0$
$\Rightarrow (\zeta+\frac{1}{\zeta})^3-3(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta+\frac{1}{\zeta})^2-2+(\zeta+\frac{1}{\zeta})+1=0$
$\Rightarrow t^3+t^2-2t-1=0$

よって $t$ の最小方程式は $x^3+x^2-2x-1=0$ (答)

最小方程式が 3次だから、$\mathbb Q(\zeta+\frac{1}{\zeta})$ は $\mathbb Q$ を係数とする 3次元のベクトル空間で、$\mathbb Q$ の 3次拡大体である。この $3$ という数は、ガロア群 $G$ の位数=6 を $H_{2}$ の位数=2 で割ったものなのである。

$\zeta$ の $\mathbb Q$ 係数の最小方程式が 6次(下図緑の数字)だったことに注意して、数体や群相互の関係を図にしてみよう。

図の左半分は数体同志の関係、右半分が群同志の関係を表している。拡大次数は下から見ると、3次、2次だが、これを掛けた 6次が 1番下の体($\mathbb Q$)から 1番上の体を眺めたときの拡大次数である。

どうして、拡大次数の掛け算になるのか、その理由を述べておこう。
$\mathbb Q(\zeta)$ は $\mathbb Q(t)$係数上の 2次元のベクトル空間で、その基底は最小方程式が $x^2-t x+1=0$ であったことから、$1,\xi=\frac{t+\sqrt{t^2-4}}{2}$ である。$\mathbb Q(\zeta)$ の元は

$a 1+b \xi$ $ (a,b \in \mathbb Q(t))$

と表せる。そして、この係数 $a,b$ は、$\mathbb Q(t)$ が $\mathbb Q$係数上の 3次元のベクトル空間で、その基底は、最小方程式が $x^3+x^2-2x-1=0$ であったことから、(3次方程式の解の 1つを $\eta$ として) $1,\eta,\eta^2$ である。したがって、$\mathbb Q(\zeta)$ の元は

$(a_{1} 1+a_{2} \eta+a_{2} \eta^2)1+(b_{1} 1+b_{2} \eta+b_{2} \eta^2)\xi$
$=a_{1} (1\cdot 1)+a_{2} (\eta 1)+a_{2} (\eta^2 1)+b_{1}(1 \xi)+b_{2} (\eta\xi)+b_{2} (\eta^2\xi)$

となるから、基底は $1\cdot 1,\eta 1,\eta^2 1,1 \xi, \eta\xi, \eta^2\xi$ の 6つで、$3\times 2=6$次元だ。

拡大の順序、 3次→2次 を逆にするとどうなるか。

【問題7.3
】 部分群 $H_{1}=\{ \sigma_{1},\sigma_{2},\sigma_{4}\}$ の不変元と不変体と、その不変元の $\mathbb Q$上の最小方程式、および $\zeta$ の今求めた不変体上の最小方程式を求めよ。---

【解】 不変元はべき指数を等比にした $s=\zeta+\zeta^2+\zeta^4$ である。実際、部分群の元で移動すると

$\sigma_{2}:s=\zeta+\zeta^2+\zeta^4 \mapsto \zeta^2+\zeta^4+\zeta^8=s$,
$\sigma_{4}:s=\zeta+\zeta^2+\zeta^4 \mapsto \zeta^4+\zeta^8+\zeta^{16}=s$

で不変である。よって求めるべき不変体は $\mathbb Q(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)$ ($\mathbb Q$ に $s$ を添加した体)である。$s$ を変形すると

$s^2=(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)^2$
$=(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)+2(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)$
$=2(\zeta+\zeta^2+\zeta^3+\zeta^4+\zeta^5+\zeta^6)-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)$
$=-2-s$
$\Rightarrow s^2+s+2=0$

だから、$s$ の$\mathbb Q$上の最小方程式は、$x^2+x+2=0$ (答)
最後に、$\zeta$ の体 $\mathbb Q(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)$ 上の最小方程式だが、$s^2=(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)^2$ を変形すれば、求まるはずだ。今の答が 2次式だったから、今度は $6\div 2=3$で 3次方程式だ。($H_{1}$ の位数=3 からも分かる。)

$\zeta^4+\zeta^2+\zeta-s=0$ の変数を置き換えて
$x^4+x^2+x-s=0$ だが、左辺は (1次式)×(3次式)に因数分解でき、
$x^4+x^2+x-s=(x+s)(x^3-s x^2-(s+1)x-1)$
である。実際、右辺を展開すると
$x^4-(s^2+s+1)x^2-(s^2+s+1)x-s$
だが、$s^2+s+2=0$ より、$(s^2+s+1=-s-2+s+1=-1$ ゆえ、
$=x^4+x^2+x-s$
1次式から出てくる $x=-s$ は既に基礎体 $\mathbb Q(s)$ に含まれているから除外して、$\mathbb Q(s)$ 上の最小方程式は
$x^3-s x^2-(s+1)x-1=0$ (答)

【問題7.4】 正7角形は定規とコンパスで作図することはできないことを証明せよ。---

【解】 複素数平面上に作図できたとする。中心を原点とし、中心から頂点までの距離を $1$ として、1つの頂点を $1$ とする。このとき、$\zeta$ は $1$ の隣の頂点である。この点が作図可能なのだから、$\zeta$ の実部も虚部も有理数に四則演算と開平(ルート)を施して得られる数である。それは例えば

$\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3+\sqrt{4+\sqrt{5}}}}{6+\sqrt{-1}}$

のような数だが、これは $\mathbb Q$ に $\sqrt{a}$ を添加し、その添加した体にさらに $\sqrt{b}$ を添加し、$\cdots$ と繰り返せば得ることができる。ここで、$\sqrt{a}$ 添加することは、その最小方程式は $x^2-a=0$ で 2次だから、添加すべき数をすべて添加し終わった拡大体の $\mathbb Q$上の拡大次数は $2 \times 2 \times \cdots =2^N$ である。ところが、$\zeta$ の拡大次数は 6次だった($2$ 以外の素数を因子として含んでいる)
から不合理である。■
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§8. 正17角形の作図

正7角形は作図不能(§7参照)であったが、本節では作図可能の例として正17角形を扱う。以下の論理展開を仔細に追えば具体的な作図方法が得られるはずである。

正17角形を作図するには、複素数平面上に $1$の原始17乗根 $\zeta$ の最小方程式の次数が $2$ のベキであることが必要である。(今のところ、十分であるかは分からない。)

(1) $\zeta$ の最小方程式は

$\Phi_{17}(x)=\frac{x^{17}-1}{x-1}=x^{16}+x^{15}+\cdots +x+1=0$

で($16=2^4$ 次式だからうまくいく可能性あり。)、この相反方程式に $x=\zeta$ を代入して、真ん中の $\zeta^8$ で割れば、16項周期が

$(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+\cdots +(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})=-1$ … (8.1)

という等式を満たすことが分かる。

最小方程式の共役解は

$\zeta^k=\cos \frac{2k\pi}{17}+i\sin \frac{2k\pi}{17} (k=1,2,3,\cdots,16)$

で、それらの間の共役写像は

$\sigma_{i}:\zeta \mapsto \zeta^i (i=1,2,3,\cdots,16)$

の 16個である。これら 16個の元からなる集合が $\zeta$ のガロア群 $G$ である。そして、この群の不変体は $\mathbb Q$ である。有理数だけは、どの共役写像でも動くことはない。それ以外の数、例えば $2+3\zeta-4\zeta^2$ だと、移動させてしまうような共役写像が存在する。)

部分群 $G$ はどんな構造かと言うと、

$\sigma_{i}\sigma{j}:\zeta^k \mapsto (\zeta^j)^k \mapsto (\zeta^i)^{jk}=(\zeta^k)^{ij}$
$\Leftrightarrow \sigma_{i}\sigma_{j}=\sigma_{ij}$

だから、$mod.17$ の整数の乗法群(17で割ったときの余りが作る数体 $\mathbb Z/(17)$から零元を除いたもの) と同型である。

(2) $\frac{1}{17}$ を小数に直すと循環節の長さが $16=17-1$ になる。だから 10 は $mod.17$ の整数 $\mathbb Z/(17)$の原始根であるということだ。そこで 10 の累乗を作ると

$10,10^2\equiv 15,10^3\equiv 14,10^4\equiv 4,10^5\equiv 6,10^6\equiv 9,10^7\equiv 5,10^8\equiv 16$
$,10^9\equiv 7,10^{10}\equiv 2,10^{11}\equiv 3,10^{12}\equiv 13,10^{13}\equiv 11,10^{14}\equiv 8,10^{15}\equiv 12,10^{16}\equiv 1$

だが、ここから 1つおきに取った平方剰余 $15,4,9,16,2,13,8,1$ の前半と後半で和のペアを作ると

$\zeta^{15}+\zeta^{2},\zeta^4+\zeta^{13},\zeta^9+\zeta^{8},\zeta^{16}+\zeta^{1}$

この 4数の和、すなわち 8項周期、

$t_{8}=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})$

($\zeta^{17}=1$ を使って、9乗以上の部分は分数に変えた。)を2乗してみよう。

$t_{8}^2=(\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})+(\zeta+\frac{1}{\zeta})+8$
$+2\{ (\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{3}+\frac{1}{\zeta^{3}})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})$
$+(\zeta^5+\frac{1}{\zeta^5})+(\zeta^{6}+\frac{1}{\zeta^{6}})+(\zeta^{7}+\frac{1}{\zeta^{7}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})$
$+(\zeta^3+\frac{1}{\zeta^3})+(\zeta^{5}+\frac{1}{\zeta^{5}})+(\zeta^{6}+\frac{1}{\zeta^{6}})+(\zeta^{7}+\frac{1}{\zeta^{7}}) \}$

ここで、(8.1) を使って

$t_{8}^2=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})+8$
$-2+2\{ (\zeta^3+\frac{1}{\zeta^3})+(\zeta^{5}+\frac{1}{\zeta^{5}})+(\zeta^{6}+\frac{1}{\zeta^{6}})+(\zeta^{7}+\frac{1}{\zeta^{7}}) \}$
$=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})+6$
$+2\{ -1-\{ (\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}}) \}\}$
$=-\{ (\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}}) \}+4$
$=4-t_{8}$

となって、$t_{8}$の $\mathbb Q$ 上の最小方程式

$t_{8}^2+t_{8}-4=0$ … (8.2)

を得る。これを解くと $\frac{-1\pm\sqrt{17}}{2}$ と解が 2つ出てくるが、(後述するが)複号が "$+$" の方が $t_{8}$ である。

$t_{8}=\frac{-1+\sqrt{17}}{2}$ … (8.2)'

では、複号が "$-$" の方の共役解は何かと言うと、16項周期から今の 8項周期を取り除いた、

$-1-t_{8}$
$=(\zeta^3+\frac{1}{\zeta^3})+(\zeta^{5}+\frac{1}{\zeta^{5}})+(\zeta^{6}+\frac{1}{\zeta^{6}})+(\zeta^{7}+\frac{1}{\zeta^{7}})$

である。実際、

$(-1-t_{8})^2+(-1-t_{8})-4=t_{8}^2+t_{8}-4=0$

となる。では複号をどうやって決めたかを述べておこう。共役複素数の和は実部の 2倍だから、

$t_{8}=2(\cos\frac{2\pi}{17}+\cos\frac{4\pi}{17}+\cos\frac{8\pi}{17}+\cos\frac{16\pi}{17})$
$=2(\cos\frac{2\pi}{17}+\cos\frac{4\pi}{17}+\cos\frac{8\pi}{17}-\cos\frac{\pi}{17})$

であり、

$-1-t_{8}=2(\cos\frac{6\pi}{17}+\cos\frac{10\pi}{17}+\cos\frac{12\pi}{17}+\cos\frac{14\pi}{17})$
$=2(\cos\frac{6\pi}{17}-\cos\frac{7\pi}{17}-\cos\frac{5\pi}{17}-\cos\frac{3\pi}{17})$

だから、両者の差を取ると

差$=2(-\cos\frac{\pi}{17}+\cos\frac{2\pi}{17}+\cos\frac{3\pi}{17}+\cos\frac{4\pi}{17}$
$+\cos\frac{5\pi}{17}-\cos\frac{6\pi}{17}+\cos\frac{7\pi}{17}+\cos\frac{8\pi}{17})$
$>2(-1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}$
$+\frac{1}{2}-\frac{1}{2}+0+0)$
$>1$

から、複号が決まる。

ついでに(作図問題の解決に直接は必要でないが)、8項周期を不変にする部分群を求めておくと、下添え字を平方剰余に取って

$H_{8}=\{ \sigma_{1}, \sigma_{2}, \sigma_{4},\sigma_{8}, \sigma_{9}, \sigma_{13}, \sigma_{15}, \sigma_{16} \}$

である。

(3) 平方剰余 $15,4,9,16,2,13,8,1$ をトビトビに取って、$4,16,13,1$ の前半・後半の和のペアで 4項周期、

$t_{4}=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^4+\frac{1}{\zeta^4})$

が作れる。これの $\mathbb Q(t_{8})$ 上の最小方程式を求めよう。

$t_{4}$ は $t_{8}$ を半分にした片割れで、

$t_{8}=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})$
$=t_{4}+(t_{8}-t_{4})$ と 2つに分けて、
$(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})=t_{4}$,
$(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})=t_{8}-t_{4}$
ということになる。

分けた 2数を 各々 2乗すれば

$t_{4}^2=\{ (\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}}) \}^2$
$=(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+ (\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}}) +4+2\{ (\zeta^3+\frac{1}{\zeta^3})+ (\zeta^{5}+\frac{1}{\zeta^{5}})\} $

$(t_{8}-t_{4})^2=\{ (\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}}) \}^2$
$=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+ (\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}}) +4+2\{ (\zeta^6+\frac{1}{\zeta^6})+ (\zeta^{7}+\frac{1}{\zeta^{7}})\} $

この 2式を辺々足せば

$2t_{4}^2-2t_{8}t_{4}+t_{8}^2=t_{8}+8+2\{-1-t_{8} \}$
$\Rightarrow t_{4}^2-t_{8}t_{4}+\frac{1}{2}(t_{8}^2+t_{8}-6)=0$
$\Rightarrow t_{4}^2-\frac{-1+\sqrt{17}}{2}t_{4}-1=0$ … (8.3)
$t_{4}=\frac{1}{4}(-1+\sqrt{17}\pm\sqrt{34-2\sqrt{17}})$

(8.3) が $t_{4}$ の $\mathbb Q(t_{8})$上の最小方程式である。

またも複号決定問題に遭遇した。$t_{4}$ の共役解は 8項周期から 4項周期を取り除いた $t_{8}-t_{4}$ である。実際、(8.2)', (8.3) を使って

$(t_{8}-t_{4})^2-\frac{-1+\sqrt{17}}{2}(t_{8}-t_{4})-1$
$=t_{8}^2-2t_{8}t_{4}+t_{4}^2-\frac{-1+\sqrt{17}}{2}t_{8}+\frac{-1+\sqrt{17}}{2}t_{4}-1$
$=(\frac{-1+\sqrt{17}}{2})^2-(-1+\sqrt{17})t_{4}+t_{4}^2-(\frac{-1+\sqrt{17}}{2})^2+\frac{-1+\sqrt{17}}{2}t_{4}-1$
$=t_{4}^2-\frac{-1+\sqrt{17}}{2}t_{4}-1=0$

である。そして

$t_{4}=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})$
$=2(\cos\frac{2\pi}{17}+\cos\frac{8\pi}{17})$,

$t_{8}-t_{4}=(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})$
$=2(\cos\frac{4\pi}{17}+\cos\frac{16\pi}{17})$
$=2(\cos\frac{4\pi}{17}-\cos\frac{\pi}{17})$

で、両者の差を取ると

差$=2 \{ \cos\frac{\pi}{17}+(\cos\frac{2\pi}{17}-\cos\frac{4\pi}{17})+\cos\frac{8\pi}{17} \}$
$>2 \{ \cos\frac{\pi}{17}+0+\cos\frac{8\pi}{17}\}>0$

だから、$t_{4}$ の複号は "$+$" の方と確定し

$t_{4}=\frac{1}{4}(-1+\sqrt{17}+\sqrt{34-2\sqrt{17}})$ … (8.3)'

ちなみに $\mathbb Q(t_{4})$ を不変体とする部分群は

$H_{4}=\{ \sigma_{1}, \sigma_{4},\sigma_{13},\sigma_{16} \}$

である。

(4) 平方剰余からの選抜チーム "$4,16,13,1$" から、さらにトビトビにピックアップした "$16,1$" で作る 2項周期、

$t_{2}=\zeta^{16}+\zeta=\zeta+\frac{1}{\zeta}$

の $\mathbb Q(t_{4})$ 上の最小方程式を求めるには、$t_{2}$ と 4項周期から $t_{2}$ を取り除いた $t_{4}-t_{2}$ を2乗して

$t_{2}^2=\zeta^2+\frac{1}{\zeta^2}+2$,

$(t_{4}-t_{2})^2=( \zeta^4+\frac{1}{\zeta^4})^2$
$=\zeta^8+\frac{1}{\zeta^8}+2$

となるから、これを使って $t_{8}$ を書き下すと

$t_{8}=(\zeta+\frac{1}{\zeta})+(\zeta^{2}+\frac{1}{\zeta^{2}})+(\zeta^{4}+\frac{1}{\zeta^{4}})+(\zeta^{8}+\frac{1}{\zeta^{8}})$
$=t_{2}+(t_{2}^2-2)+(t_{4}-t_{2})+((t_{4}-t_{2})^2-2)$
$=2t_{2}^2-2t_{4}t_{2}+(t_{4}^2+t_{4}-4)$

これより、$t_{2}$ の $\mathbb Q(t_{4})$上の最小方程式が次のように得られた。($t_{8}$ は $\mathbb Q(t_{4})$ に含まれていることに注意。)

$t_{2}^2-t_{4}t_{2}+\frac{1}{2}(t_{4}^2+t_{4}-4-t_{8})=0$,
$t_{2}^2-\frac{1}{4}(-1+\sqrt{17}+\sqrt{34-2\sqrt{17}})t_{2}+\frac{1}{16}\{-4-4\sqrt{17}+(1+\sqrt{17})\sqrt{34-2\sqrt{17}} \}=0$ … (8.4)

この 2次方程式を解いたときの複号問題だが、$t_{2}$ とその共役解は、

$t_{2}=\zeta+\frac{1}{\zeta}=2\cos \frac{2\pi}{17}$,

$t_{4}-t_{2}=\zeta^4+\frac{1}{\zeta^4}=2\cos \frac{8\pi}{17}$

で、前者の方が大きいから、$t_{2}$ の複号は "$+$" である。したがって

$t_{2}=\frac{1}{2}(-B+\sqrt{D})$,
ただし
$B=-\frac{1}{4}(-1+\sqrt{17}+\sqrt{34-2\sqrt{17}})$,
$C=\frac{1}{16}\{-4-4\sqrt{17}+(1+\sqrt{17})\sqrt{34-2\sqrt{17}} \}$,
$D=B^2-4C=\frac{1}{8}\{34+6\sqrt{17}-(3+\sqrt{17})\sqrt{34-2\sqrt{17}} \}$
だから
$t_{2}=\frac{1}{8}( -1+\sqrt{17}+\sqrt{34-2\sqrt{17}} ) +\frac{1}{8}\sqrt{ 68+12\sqrt{17}-(6+2\sqrt{17})\sqrt{34-2\sqrt{17} }} $ … (8.4)'

パソコンでこの値を計算すると

$t_{2}=1.8649444588087116091462317836431267725251755558902338564967000237\cdots$

以上で作図問題は解決である。なぜなら、$t_{2}$ は有理数の加減乗除と開平だけで得られ、その半分は $\cos \frac{2\pi}{17}$ だから、$\zeta$ の実部が作図できるので、単位円との交点として正17角形の頂点が求まるからである。

ちなみに $t_{2}$ を不変とする部分群は

$H_{2}=\{ \sigma_{1}, \sigma_{16} \}$

である。

この節の最後に、数体と部分群の関係図を示しておく。

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§9. 2 の立方根

いままで 1の累乗根ばかり扱ってきたが、最終節では 2の累乗根を調べてみよう。
$2$ の実の立方根は $\sqrt[3]{2}$ であり、これは有理数ではない。

【問題9.1】 $\sqrt[3]{2}$ が有理数でないことを証明せよ。---

【証明】 有理数であるとするならば、$\sqrt[3]{2}=\frac{b}{a}(a,b$は整数) とおける。3乗して分母を払えば

$2a^3=b^3$

両辺とも素因数分解したすると、左辺には $2$ の因子が $1$個または ($3$の倍数+$1$)個含まれるのに対し、右辺は $0$個または ($3$の倍数)個だから、矛盾。■

有理数全体の集合 $\mathbb Q$ に無理数 $\sqrt[3]{2}$ を添加した数体、 $\mathbb Q( \sqrt[3]{2})$ に含まれる元は

$a+b \sqrt[3]{2} +c \sqrt[3]{4}\mbox{ } (a,b,c$は有理数)

の形になる。その理由を考えよう。まず、 $d\sqrt[3]{8},e \sqrt[3]{16},f \sqrt[3]{32},\cdots$ は上に示した 3項に繰り入れられる。次に割り算した場合だが、その結果は

$\frac{*}{a+b \sqrt[3]{2} +c \sqrt[3]{4}}$

となるから、これの分母を有理化できることを示せばよい。それは

$(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)=x^3+y^3+z^3-3xyz$ … (9.1)

の展開公式を使って、

$({a+b \sqrt[3]{2} +c \sqrt[3]{4}})$
$\times (a^2+b^2\sqrt[3]{4}+2c^2\sqrt[3]{2} -ab\sqrt[3]{2} -2bc-ca\sqrt[3]{4})$
$=a^3+2b^3+4c^3-6abc$

となるから、可能である。以上により、$\mathbb Q( \sqrt[3]{2}$)$ は有理数係数上の 3次元のベクトル空間であり、その基底は

$1,\sqrt[3]{2} , \sqrt[3]{2}^2=\sqrt[3]{4}$

である。高校の問題集にはそのことを既知と仮定した問題が載っている。

【問題9.2】 $(\sqrt[3]{2} -\sqrt[3]{4})^3$ を計算せよ。---

【解】 $\sqrt[3]{2}(1-\sqrt[3]{2})$ の 3乗と考えて

与式$=\sqrt[3]{2}^3(1-\sqrt[3]{2})^3$
$=2(1-3\sqrt[3]{2}+3\sqrt[3]{2}^2-2)$
$=-2-6\sqrt[3]{2}+6\sqrt[3]{4}$ … (答)

なのだが、3次元ベクトル空間になることを(ウスウスでいいから)知らないと、これをもっと変形しようと悩んでしまうだろう。

【問題9.3】 $1,\sqrt[3]{2} , \sqrt[3]{2}^2=\sqrt[3]{4}$ が $\mathbb Q$ 上1次独立であること、すなわち $a,b,c$ を有理数とするとき

$a+b\sqrt[3]{2} +c \sqrt[3]{2}^2=0 \Leftrightarrow a=b=c=0$

であることを証明せよ。---

【証明】 $\Rightarrow$) $a+b\sqrt[3]{2} +c \sqrt[3]{2}^2=0$ かつ "$a=b=c=0$" でないとする。$a,b,c$ の3つの分母(正数の場合は分母は $1$ とする)を両辺に掛ければ、係数はすべて整数になる。その後、それらの係数の最大公約数(例えば3つの係数が$-6,9,0$ならその最大公約数は $3$ である。)で両辺を割って出来る係数を改めて $a,b,c$ とする。$(a,b,c\neq (0,0,0)$だから$a,b,c$ は互いに素(最大公約数が $1$)になる。そうすると $a\neq 0$ と分かる。なぜなら、$a=0$ だと$\sqrt[3]{2}$で割って$b+c \sqrt[3]{2}=0$ となるが、$\sqrt[3]{2}$が有理数でないことから $b=c=0$ だから仮定に矛盾。
次に、例の展開公式を使うと

$a^3+(b\sqrt[3]{2})^3+(c \sqrt[3]{4})^3-3abc\sqrt[3]{8}=0$
$ \Rightarrow a^3+2b^3+4c^3=6abc$

右辺が $2$ の倍数だから、$a=2a'$ とおけば

$8a'^3+2b^3+4c^3=12a'bc$

今度は右辺が $4$ の倍数だから、$b=2b'$ とおけば

$8a'^3+16b'^3+4c^3=24a'b'c$

今度は右辺が $8$ の倍数だから、$c=2c'$ となってしまい、$a,b,c$ はいずれも $2$ で割れる。これは $(a,b,c)\neq(0,0,0)$ が互いに素だったことに矛盾する。
したがって、$(a,b,c)=(0,0,0)$である。
$\Leftarrow$) 明らかである。■

【問題9.4】 $\sqrt[3]{2} $ の最小方程式を求め、それを解け。---

【解】 $x^3=2=0$ … (答) を解くと、絶対値が $|x|=\sqrt[3]{|x^3|}=\sqrt[3]{2}$ より

$x=\sqrt[3]{2}(\cos \frac{2k\pi}{3}+i\sin \frac{2k\pi}{3})\mbox{ } (k=0,1,2)$ … (答)
または、$\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}$ ( §2参照 )とおけば
$x=\sqrt[3]{2}, \sqrt[3]{2}\omega,\sqrt[3]{2}\omega^2$ … (答)

さて、ここで困ったことが起きる。共役解を他の共役解(または自分自身)に移すのが共役写像だが、もし $\sigma$ が $\sqrt[3]{2}$ を $\sqrt[3]{2}\omega$ に移す写像だとすると、実数のみからなる集合 $\mathbb Q( \sqrt[3]{2})$ からその外へ飛び出してしまう。(下図参照) $\mathbb Q( \sqrt[3]{2})$ が不変体になるどころの話じゃなくなる。

この「共役写像の結果が新しく拡大した数体からはみ出ない」という性質を正規拡大と言うのだが、ガロア群を作るにはこの性質が必要だ。(十分条件ではない。)

では、ガロア群を先に確定して、それの不変体を決めるという順序で攻めていこう。
共役解 3つ $\sqrt[3]{2}, \sqrt[3]{2}\omega,\sqrt[3]{2}\omega^2$ は、複素数平面上の半径が $\sqrt[3]{2}$ の円周上に 120度間隔で並ぶ。これらに関する置換だが、次の 6つが考えられる。

(1) 恒等写像、$1$
(2) 120度回転 $\sigma$, これは複素数 $\omega$ を掛けることに当たるから、

$\sqrt[3]{2} \mapsto \sqrt[3]{2}\omega$,
$\sqrt[3]{2}\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega^2$,
$\sqrt[3]{2}\omega^2 \mapsto \sqrt[3]{2}$

(3) $\sigma$ 2つの合成、$\sigma^2$ は $\omega^2$ 倍だから

$\sqrt[3]{2} \mapsto \sqrt[3]{2}\omega^2$,
$\sqrt[3]{2}\omega \mapsto \sqrt[3]{2}$,
$\sqrt[3]{2}\omega^2 \mapsto \sqrt[3]{2}\omega$

この (2), (3) の写像で実数が虚数のある世界にはみ出てしまう。しかし、共役写像には他に馴染みの複素共役写像がある。それを $m_{1}$ とすれば、

$\sqrt[3]{2} \mapsto \sqrt[3]{2}$,
$\sqrt[3]{2}\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega^2$,
$\sqrt[3]{2}\omega^2 \mapsto \sqrt[3]{2}\omega$

という対応で、上図で直線 $m_{1}$ についての鏡映に相当する。上図の正三角形を「ダルマさんが転んだ」の間に動かす方法は(裏返しも可として)「何もしない」、「回転」(2種類)、「直線に関する鏡映」(3種類)の計 6つである。結局、ガロア群は

$G=\{ 1, \sigma,\sigma^2,m_{1},m_{2},m_{3} \}$

という群である。(群論では「3次対称群 $S_{3}$」と呼ばれる。) 3つの数の行き先を示した表を下に掲げる。

この群が今までと異なるのは、可換でない(交換法則が成り立たない)という点だ。実際、例えば

$\sigma m_{1}:\sqrt[3]{2} \mapsto \sqrt[3]{2} \mapsto \sqrt[3]{2}\omega$,
$m_{1}\sigma :\sqrt[3]{2} \mapsto \sqrt[3]{2}\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega^2$

となって(詳しくは $\sigma m_{1}=m_{3},m_{1}\sigma =m_{2}$)、同じ数の行き先が異なってしまう。(大学生へのコメント:可換群でないと、部分群は正規部分群になるとは限らない。そして、正規部分群でないと正規拡大にならない。)

可換でないガロア群ができてしまったのだが、その位数(元の個数)は 6個だから、最小方程式も問題 9.4 のような 2次でなくて、6次でなくてはならない。

【問題9.5】 有理数体 $\mathbb Q$ にある 1つの数 $\theta$ を添加してできる体が $\sqrt[3]{2}$ を含んでいて、$\theta$ の最小方程式が 6次であるものを得たい。$\theta$ (原始要素と言う)は求めよ。---

【解】 $\mathbb Q$ の 6次拡大体(それを $K$ と名付ける。)を作る訳だ。$K$ は $\sqrt[3]{2}$ を含むのは当然として、先の共役写像を見て分かるように $\omega$ も含まねばならない。体は加減乗除について閉じているから、$\sqrt[3]{2}+\omega$ も含む。これを $\theta$ としてみよう。最小方程式は

$x=\sqrt[3]{2}+\omega$
$\Rightarrow (x-\omega)^3=2$
$\Rightarrow x^3-3\omega x^2+3\omega^2 x-1=2$

ところで、$\omega^2=-\omega-1$ ( §2参照 )だったから

$x^3-3x^2\omega-3x\omega-3x-3=0$
$\Rightarrow 3x(x+1)\omega=x^3-3x-3$
$\Rightarrow \omega=\frac{x^3-3x-3}{3x(x+1)}$

最後の式を $\omega^2+\omega+1=0$ に代入して

$\frac{(x^3-3x-3)^2}{9x^2(x+1)^2}+\frac{x^3-3x-3}{3x(x+1)}+1=0$
$\Rightarrow (x^3-3x-3)^2+3x(x+1)(x^3-3x-3)+9x^2(x+1)^2=0$
$\Rightarrow (x^6-6x^4-6x^3+9x^2+18x+9)+(3x^5+3x^4-9x^3-18x^2-9x)+(9x^4+18x^3+9x^2)=0$
$\Rightarrow x^6+3x^5+6x^4+3x^3+9x+9=0$ … (答)

【問題9.6】 前問で求めた最小方程式を解け。---

【解】 先の計算を逆に辿ればよい。

$x^6+3x^5+6x^4+3x^3+9x+9=0$,
$\Rightarrow (x^6-6x^4-6x^3+9x^2+18x+9)+(3x^5+3x^4-9x^3-18x^2-9x)+(9x^4+18x^3+9x^2)=0$,
$\Rightarrow (x^3-3x-3)^2+3x(x+1)(x^3-3x-3)+9x^2(x+1)^2=0$

これは $t^2+At+A^2=0 \Leftrightarrow t=\frac{-A\pm i\sqrt{3}{A}}{2}=A\omega,A\omega^2$ のパターンだから

$x^3-3x-3=3\omega x(x+1),3\omega^2x(x+1))$,
$\Rightarrow x^3-3\omega x^2-3(1+\omega)x-3=0; x^3-3\omega^2 x^2-3(1+\omega^2)x-3=0$,
$\Rightarrow x^3-3\omega x^2+3\omega^2 x-3=0; x^3-3\omega^2 x^2+3\omega x-3=0$,
$\Rightarrow (x-\omega)^3+\omega^3-3=0; (x-\omega^2)^3+\omega^6-3=0$,
$\Rightarrow (x-\omega)^3=2; (x-\omega^2)^3=2$,
$\Rightarrow x-\omega=\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{2}\omega,\sqrt[3]{2}\omega^2; x-\omega^2=\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{2}\omega,\sqrt[3]{2}\omega^2$
$\Rightarrow x=\sqrt[3]{2}+\omega,\sqrt[3]{2}\omega+\omega,\sqrt[3]{2}\omega^2+\omega, \sqrt[3]{2}+\omega^2,\sqrt[3]{2}\omega+\omega^2,\sqrt[3]{2}\omega^2+\omega^2$

結局、6つの解は

$x=\sqrt[3]{2}\omega^i+\omega^j \mbox{ } (i=0,1,2;j=1,2)$ … (答)

原始要素 $\theta=\sqrt[3]{2}+\omega$ を $\sqrt[3]{2}\omega^i+\omega^j$ に移す共役写像を $\tau(i,j)$ と表すことにしよう。これら 6つの写像は先の表に出てきたどれと一致するのだろうか。表と見比べながら、調べてみよう。

(1) $\tau(0,1)$

これは明らかに恒等写像。
$\tau(0,1)=1$

(2) $\tau(0,2)$

$\sqrt[3]{2}+\omega \mapsto \sqrt[3]{2}+\omega^2$ より
$\sqrt[3]{2}$ は変えずに、$\omega$ と $\omega^2$ を交換するから、
$\tau(0,1)=m_{1}$

(3) $\tau(1,1)$

$\sqrt[3]{2}+\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega+\omega$ より
$\sqrt[3]{2}$ を120度回転するから、$\sqrt[3]{2}\omega$ なら $\sqrt[3]{2}\omega\times \omega=\sqrt[3]{2}\omega^2$ に移す。
$\tau(0,1)=\sigma$

(4) $\tau(1,2)$

$\sqrt[3]{2}+\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega+\omega^2$ より
$\sqrt[3]{2}$ の120度回転と、$\omega$ と $\omega^2$ の交換だから、$\sqrt[3]{2}\omega$ なら $\sqrt[3]{2}\omega\times \omega^2=\sqrt[3]{2}$ に移す。よって
$\tau(1,2)=m_{3}$

(5) $\tau(2,1)$

$\sqrt[3]{2}+\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega^2+\omega$ より
$\sqrt[3]{2}$ を240度回転するから、$\sqrt[3]{2}\omega$ なら $\sqrt[3]{2}\omega^2\times \omega=\sqrt[3]{2}$ に移す。
$\tau(0,1)=\sigma^2$

(6) $\tau(2,2)$

$\sqrt[3]{2}+\omega \mapsto \sqrt[3]{2}\omega^2+\omega^2$ より
$\sqrt[3]{2}$ の240度回転と、$\omega$ と $\omega^2$ の交換だから、$\sqrt[3]{2}\omega$ なら $\sqrt[3]{2}\omega^2\times \omega^2=\sqrt[3]{2}\omega$ に移す。よって
$\tau(1,2)=m_{2}$

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