[婆茶留高校数学科☆HP] Top pageに戻る このページを閉じる 探したい言葉はここへ→
Copyright (C) virtual_high_school, 2022
§1. i と -i の区別
§2. 1 の立方虚根
§3. 有理数に√2 を添加する
§4. 有理数に√2, √3 を添加する
§5. 1の原始5乗根
§6. 1の原始6乗根
§7. 1の原始7乗根
§8. 正17角形の作図
§9. 2 の立方根
虚数単位 $i$ とは、$2$乗して $-1$ になる数のことだから、$i^2=-1$ である。このような数が他にもないかと言えば、方程式
$x^2=-1 \Rightarrow x^2+1=(x-i)(x+i)=0$
を解いて、$i$ と $-i$ が得られることから分かる。
では、$i$ と $-i$ はどうやって区別すればよいのだろうか。
両方とも 2乗すれば $-1$ であり(これだけでは区別できない)、片方を $-1$ 倍すれば他方になるけど、これでは片方が分からないと他方が分からないことになる。
ひょっとして両者は一致するかもと思うかもしれないけど、そんなことはない。実際、$i=-i$ だと移項して
$i-(-i)=2i=0 \Rightarrow \frac{2 i}{2}=\frac{0}{2} \Rightarrow i=0$
となり不合理。
$\sqrt{2}$ と $-\sqrt{2}$ だったら正数と負数だから、ハッキリ区別できる。でも、$i$ と $-i$ の場合は、無理に区別しなくてよいのである。
たとえ話をしよう。
$i$ と $-i$ のそれぞれを (A) と (B) の封筒に入れて、テーブルの上に置く。そこで、3秒間、目をつむってください。
さて、$i$ はどっちの封筒に入っているでしょうか。あなたが目をつむっている間に私が 2つの封筒をすり替えたかもしれない。
そこで第三者の C君に封筒の中を覗いてもらおう。
C君、いわく「両方とも2乗すると $-1$ になる数で、一方を $-1$倍すると他方になります。」
結局、分かることは (A) と (B) の位置はそのままか、入れ替えたかの 2つのどちらかだということである。
2元 $A, B$ に対し、
$A \mapsto A$,
$B \mapsto B$
のように対応させる(恒等写像と言う)か、
$A \mapsto B$,
$B \mapsto A$
のように対応させるかである。後者の写像を具体的に書くと
$i \mapsto -i$,
$-i \mapsto i$
なる写像である。これを複素共役写像と言う。もう少し正確に書くと、複素共役写像とは実数 $a, b$ に対し
$a+b i \mapsto a+b(-i)=a-b i$
なる写像のことである。実数と演算子の $+,\times$ は写像した後も変えずに、虚数単位 $i$ を $-i$ に変えるだけである。これを実数係数上の準同型の写像と言う。
教科書には「虚部 $b$ を $-b$ に変える」ことと書いてあるが、「虚数単位 $i$ を $-i$ に変える」ことと言うのが正しい。(結果的には同じだが。)
ここに現れた 2つの写像(恒等写像と複素共役写像)は、写像の合成に関して閉じた体系を作る。それを一般に群と呼ぶ。今の場合、より具体的に
$i$ のガロア群、
または
$x^2+1$ のガロア群
と呼ばれる。
【問題1.1】 恒等写像を $1$, 複素共役写像を $\sigma$ で表すとき、2つの写像の合成の結果を求めよ。---
【解】 2つの写像 $y=f(x), y=g(x)$ の合成 $f\circ g$ は、$f\circ g(x)=f(g(x))$ のことであるから、$g$
で写像した後 $f$ で写像することである。(順序を間違えないこと。) よって
$1 \circ 1: a+bi \mapsto a+bi \mapsto a+bi$
$1 \circ \sigma: a+bi \mapsto a-bi \mapsto a-bi$
$\sigma \circ 1: a+bi \mapsto a+bi \mapsto a-bi$
$\sigma \circ \sigma: a+bi \mapsto a-bi \mapsto a+bi$
(第4式は $\bar{\bar{z}}=z$ と表現したりする。)であるから、合成の演算結果は
$1 \circ 1=1,1 \circ \sigma=\sigma \circ 1=\sigma, \sigma \circ\sigma =1$
(←演算表)
1 の立方虚根とは、$3$乗して $1$になる虚数のことである。したがって方程式 $x^3=1$ を解けばよい。解き方は 2つあって、
$(x-1)(x^2+x+1)=0 \Rightarrow x=1, \frac{-1+\sqrt{3}i}{2}, \frac{-1-\sqrt{3}i}{2}$
と因数定理を使うやり方と、
$x=\cos \frac{2k\pi}{3}+i\sin \frac{2k\pi}{3}(k=1,2,3)$
とド・モアブルの定理を使う方法である。
いずれにせよ、1 の立方虚根のうちの 1つを
$\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}$
とおくことにしよう。
【問題2.1】 $\omega$ を解とする方程式を作れ。---
【解】 教科書には、
$\omega+\bar{\omega}=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}+\frac{-1-\sqrt{3}i}{2}=-1$,
$\omega\bar{\omega}=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}\times \frac{-1-\sqrt{3}i}{2}=1$
より $x^2-(-1)x+1=0$
というやり方が載っているが、共役な複素数 $\bar{\omega}$ も解になるのは、実数係数の方程式の場合であって、今その場合に該当するか分かっていない時点でそのやり方は使えないはずだ。
そこで、次のようにやる。
$x=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}$
$\Rightarrow 2x+1=\sqrt{3}i$
$\Rightarrow (2x+1)^2=(\sqrt{3}i)^2$
$\Rightarrow 4x^2+4x+4=0$
$\Rightarrow x^2+x+1=0$
$\omega$ は $x^3-1=0$ の解であったのだが、それには実数解 $x=1$ という夾雑物が混ざっている。それより次数の低い方程式
$x^2+x+1=0$
の方が $\omega$ を特徴を表す方程式にふさわしい。この方程式を $\omega$ の最小方程式と言う。
別の見方に立って、
$\frac{x^3-1}{x-1}=x^2+x+1$
のように割り算して夾雑物を取り除くこともできる。これの右辺はもう (有理数係数の) 1次式で割り切ることはできない。言い換えると右辺は(有理数係数上で)因数分解できない($\mathbb
Q$上)既約であると言う。
【問題2.2】 $x^2+x+1=0$ の 1つの解を $\omega$ とするとき、もう 1つの解を $\omega$ で表せ。---
【解】 $\omega^2+\omega+1=0$ の複素共役をとって
$\overline{\omega^2+\omega+1}=\bar{0}=0$
$\Rightarrow \bar{\omega}^2+\bar{\omega}+1=0$
より残りの解は $\bar{\omega}$ である。
【別解】 $\omega$ は $x^3=1$ の解でもあったから
$\omega^3=1 \Rightarrow |\omega^3|=|\omega|^3=1 \Rightarrow |\omega|=1$
($|\omega|$ は $0$以上の実数であることに注意。) これを使って $\omega\bar{\omega}=|\omega|^2=1$ より ${\omega}=1/\bar{\omega}$ を方程式に代入して
$\frac{1}{\bar{\omega}^2}+\frac{1}{\bar{\omega}}+1=0$
$\Rightarrow \bar{\omega}^2+{\bar{\omega}}+1=0$
したがって残りの解は $\bar{\omega}$ である。
【さらなる別解】 残りの解を $\omega'$ として、解と係数の関係から
$\omega+\omega'=-1 \Rightarrow \omega'=-\omega-1$,
$\omega\omega'=1 \Rightarrow \omega'=\frac{1}{\omega}$
結局、3つの異なる答($\omega'=\bar{\omega},-\omega-1,1/{\omega}$)を得たが、$\omega$(絶対値 1, 偏角120度)から $\omega'$(絶対値 1, 偏角240度)を得るには
(1) $x$軸について対称移動、(2) 原点について対称移動して 1だけ左に移動、(3) $1$ から $120$度回転ではなく、$-120$度回転する、という3つの方法があることを意味する。
さて、ここで $\omega$ または $x^2+x+1$ のガロア群を考えよう。$\omega$ と $\omega'$ を 2つの封筒に入れて、「そのまま」か「入れ替える」かだから、§1 と同じく、ガロア群は
$G=\{ 1, \sigma \}$
になる。では 1(恒等写像)の方はよいとして、$\sigma$ はどのような写像なのだろうか。§1 のときは $a+bi \mapsto a-bi$ だったが、ここでは
$\sigma: a+b\omega \mapsto a+b\omega'=a+b\bar{\omega}(a,b$は実数$)$
となる。なんだ、やはり複素共役写像である。
でも厳密に言うと、§1 に出てきた複素共役写像と少し異なる。前節のは $i \mapsto -i$ と写像であったが、この節のは $\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\mapsto \omega'=\frac{-1-\sqrt{3}i}{2} \mapsto $, すなわち $\sqrt{3}i \mapsto
-\sqrt{3}i$ という写像($\sqrt{3}$ の付かない $i$ を写像することはできない)だから、厳密には異なる写像である。
したがって、§1 と§2 のガロア群は同一のものではないが、構造としては同じ。そういうものを同型と言い、記号 $\simeq$ を使って $G_{1} \simeq G_{2}$ のように表し、2つの群は同型と呼ぶ。
有理数全体が作る数体系を有理数体と呼ぼう。また、前にも出てきた記号だが有理数全体の集合を $\mathbb Q$ と書く。$\mathbb Q$ に $\sqrt{2}$ を添加した集合、すなわち
$\mathbb Q(\sqrt{2})=\{ a+b\sqrt{2} | a,b\in \mathbb Q \}$
について考えよう。
【問題3.1】 $a+b\sqrt{2} (a,b\in \mathbb Q)$ と表す方法は一意的(ユニーク)であること、すなわち
$a+b\sqrt{2} =a'+b'\sqrt{2} \Leftrightarrow a=a',b=b'$
であることを証明せよ。ただし、$\sqrt{2}$ が無理数である事実を使ってよい。---
【証明】 左辺の等式を変形すると
$(a-a')+(b-b')\sqrt{2} =0$
だが、もし $b\neq b'$ とすると
$\sqrt{2} =-\frac{a-a'}{b-b'}$
となり、$\sqrt{2}$ が無理数であることに反する。よって、$b= b'$ であり、したがって $a=a'$ も成り立つ。逆は明らか。■
平面上の任意のベクトル $\vec{v}$ は基本ベクトル $\vec{i}=(1,0),\vec{j}=(0,1)$ を使って $\vec{v}=a\vec{i}+b\vec{j}$ の形に一意的に表せるのと似ている。
そこで、$a+b\sqrt{2}= a\times 1+b\times \sqrt{2} $なる数の全体は、$1,\sqrt{2}$ を基底とし、有理数を係数(スカラー)とする(2次元の)ベクトル空間を作ると言う。
【問題3.2】 $\mathbb Q(\sqrt{2})$ は加減乗除について閉じていることを示せ。---
【証明】 加減と乗法は
$(a +b\sqrt{2})\pm(a' +b'\sqrt{2})=(a\pm a') +(b\pm b')\sqrt{2})$,
$(a +b\sqrt{2})(a' +b'\sqrt{2})=(aa'+2bb') +(ab'+a'b)\sqrt{2}$
から分かり、除法は $(a' +b'\sqrt{2}) \div (a +b\sqrt{2})$ だが、当然 $a +b\sqrt{2}\neq 0=0+0\sqrt{2}$, すなわち "$a=b=0$" ではないとする。このとき、$a -b\sqrt{2}\neq 0$ だから
$\frac{a' +b'\sqrt{2}}{a +b\sqrt{2}}=\frac{(a' +b'\sqrt{2})(a -b\sqrt{2})}{(a +b\sqrt{2})(a -b\sqrt{2})}$
$=\frac{(aa'-2bb') +(ab'-a'b)\sqrt{2}}{a^2-2b^2}$
$=\frac{aa'-2bb'}{a^2-2b^2} +\frac{ab'-a'b}{a^2-2b^2}\sqrt{2}$
より分かる。■
周知のように、上の除法の証明に出てきた変形を分母の有理化と言う。
【問題3.3】 $\sqrt{2}$ の最小方程式を求めよ。---
【解】 $x=\sqrt{2}$ とおいて
$x^2-2=0$ (答)
逆にこれを解くと、$x^2-2=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})=0$ から $x=\sqrt{2},-\sqrt{2}$ となる。$-\sqrt{2}$ と $\sqrt{2}$ は共役な数である。
先ほどのベクトル空間の話の続きをしよう。
多項式の世界だと、その要素は $a_{0}+a_{1}x+a_{2}x^2+a_{3}x^3+\cdots$ と表されるから、基底は $1,x,x^2,x^3,\cdots$
で $\infty$次元のベクトル空間である。
これと対比すると、いまの場合は $a_{0}+a_{1}\sqrt{2}+a_{2}\sqrt{2}^2+a_{3}\sqrt{2}^3+\cdots$
となるべきところが、$\sqrt{2}$ の 2乗以上の部分が定数項か 1次の項に繰り込まれるので、$a+b\sqrt{2}$ の形になってしまう訳だ。その原因は、最小方程式 $x^2-2=0$
により、$x=\sqrt{2}$ の2乗以上の部分は 1次以下に次数が低下するからだ。つまり、最小方程式が $n$ 次式だと基底が $0$ 乗から
$n-1$乗までで間に合うから、ちょうど $n$次元のベクトル空間になるのだ。
【問題3.4】 $\sqrt{2}$ または $x^2-2$ のガロア群を求めよ。---
【解】 §1, §2 と同様で、
$G=\{ 1, \sigma \}$
だが、ここで $1$ は恒等写像で、$\sigma$ は
$\sigma: a+b\sqrt{2} \mapsto a-b\sqrt{2}(a,b \in \mathbb Q)$
なる写像で、これを共役写像と呼ぶ。($a+b\sqrt{2}$ と $ a-b\sqrt{2}$ は互いに共役と言う。)
【問題3.5】 共役な数 $a+b\sqrt{2},a-b\sqrt{2}$ を解とする方程式を作れ。---
【解】 和と積が
$(a+b\sqrt{2})+(a-b\sqrt{2})=2a$
$(a+b\sqrt{2})(a-b\sqrt{2})=a^2-2b^2$
だから、求めるべき方程式は
$x^2-2ax+(a^2-2b^2)=0$ (答)
ここに出てきた、
$(a+b\sqrt{2})+(a-b\sqrt{2})=2a$,
$(a+b\sqrt{2})(a-b\sqrt{2})=a^2-2b^2$
をそれぞれ $a+b\sqrt{2}(a-b\sqrt{2})$ のトレース(trace)、ノルム(norm)と言う。$a\pm b\sqrt{2}$ は有理数ではないが、そのトレースとノルムはいずれも有理数である。しかもノルムは分母を有理化した後の分母である。
最近の教科書には $1/(\sqrt{2}+\sqrt{3})$ の分母を有理化せよ、の問題は載っているけど、$1/(1+\sqrt{2}+\sqrt{3})$
の分母を有理化せよ、は出てこなかったりする。(ルートの個数で分類している訳ではないのだ。)
【問題4.1】 $\sqrt{2}+\sqrt{3}$ の最小方程式を求めよ。---
【解】 $x=\sqrt{2}+\sqrt{3}$ とおいて
$(x-\sqrt{2})^2=\sqrt{3}^2$,
$x^2-2\sqrt{2}x-1=0$,
$(x^2-1)^2=(2\sqrt{2}x)^2$,
$x^4-2x^2+1=8x^2$,
$x^4-10x^2+1=0$ (答)
【問題4.2】 方程式 $x^4-10x^2+1=0$ を解け。---
【解】 $x^2$ をびんづめにして、2次方程式の解の公式を 1回使って
$x^2=5 \pm 2\sqrt{6}$
$\Rightarrow x=\pm \sqrt{5 \pm 2\sqrt{6}}$
$=\pm\sqrt{(\sqrt{3}\pm \sqrt{2})^2}$
$=\pm((\sqrt{3}\pm \sqrt{2})$
$=\sqrt{3}+ \sqrt{2}, \sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}+ \sqrt{2}$ (答)
これら 4つの数は互いに共役と言われる。
【問題4.3】 $a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6}=0 (a,b,c,d\in \mathbb Q)$ となるための必要十分条件は、$a=b=c=d=0$
であることを証明せよ。---
【証明】 問題3.1 によれば、"$x+y\sqrt{2}=0 \Leftrightarrow x=y=0$" である。同様に、"$x+y\sqrt{3}=0 \Leftrightarrow x=y=0$" が成り立つ。与式を変形して
$a+c\sqrt{3} +(b +d\sqrt{3})\sqrt{2}=0$ …(*)
が成り立つとする。もし $b +d\sqrt{3}\neq 0$ とするならば
$\sqrt{2}=-\frac{a+c\sqrt{3} }{b +d\sqrt{3}}=A+B\sqrt{3}$
中辺の分母を有理化した結果が最右辺$A<B\in \mathbb{Q}$)である。もし $B=0$ だと $\sqrt{2}$ が有理数になってしまうので $B\neq 0$ で、 2乗して
$2=(A^2+3B^2)+2AB\sqrt{3} \Rightarrow AB=0 \Rightarrow A=0$,
よって
$\sqrt{2}=B\sqrt{3}$
ここで $B$ は有理数だから、$B=\frac{B_{1}}{B_{2}}$ ($B_{1},B_{2}$は整数) とおいて、分母を払って 2乗すると
$2 B_{2}^2=3 B_{1}^2$
となるが、両辺を素因数分解したときに、左辺には $2$ の因子が奇数個あるのに、右辺は偶数個であるから矛盾である。したがって、
$b +d\sqrt{3}= 0 \Leftrightarrow b=d=0$
が言える。(*) から、$a+c\sqrt{3} =0 \Leftrightarrow a=c=0$ も言える。これで必要性が証明できたが、十分性の方は自明である。■
これで $\{ a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} | a,b,c,d\in \mathbb Q \}$ なる数体系は、$1,\sqrt{2},\sqrt{3},\sqrt{6}$
を基底とする 4次元のベクトル空間である。
【問題4.4】 $\sqrt{2}+\sqrt{3}$ のガロア群を求めよ。---
【解】 共役な数は、自分自身も含めて
$\sqrt{3}+ \sqrt{2}, \sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}- \sqrt{2},-\sqrt{3}+ \sqrt{2}$
であった。この 4数間の共役写像を求めればよい。
1つ目が恒等写像 $1$, 2つ目が $\sqrt{2}$ を $-\sqrt{2}$ に移す写像 $\sigma$ であるが、これは $\sqrt{6}=\sqrt{2}\sqrt{3}$
だったら $-\sqrt{2}\sqrt{3}=-\sqrt{6}$ に移すことになることに注意しよう。3つ目の共役写像は $\tau:\sqrt{3}
\mapsto -\sqrt{3}$ なる写像である。
このほかにどんな共役写像があるかと言うと、群は写像の合成という演算について閉じていなければならないから、$\sigma$ と $\tau$ の合成の
$\tau\circ\sigma$ が4つ目の写像だ。
これで、ガロア群の元はすべて尽くされた。4つを並べて書くと
$1:a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6}$,
$\sigma:a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a-b\sqrt{2} +c\sqrt{3} -d\sqrt{6}$,
$\tau : a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a+b\sqrt{2} -c\sqrt{3} -d\sqrt{6}$,
$\tau \circ\sigma: a+b\sqrt{2} +c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto a+b\sqrt{2} -c\sqrt{3} -d\sqrt{6} \mapsto a-b\sqrt{2} -c\sqrt{3} +d\sqrt{6} \mapsto $
この 4つの元からなるガロア群
$G=\{ 1,\sigma,\tau ,\tau \circ\sigma \}$ (答)
は次のように考えると分かりやすい。
上図のような赤いパイプ4本で組み立てて作った長方形を1個テーブルの上に置く。角に4つの数が示されているが、実際にこれらの数が書いてある訳ではない。(ばれてしまう。)さて、例によってあなたは 3秒間目をつむります。その間、私は長方形を動かします(または、何もしません)。目を開けても長方形の位置は変わってません。長方形はどのように移動されたでしょうか。答は
$1:$ 何もしない(そのまま)、
$\sigma: x$軸についての対称移動、
$\tau: y$軸についての対称移動、
$\tau\circ\sigma:$ 原点についての対称移動
となるであろう。この群はクラインの四元群と呼ばれる。
【問題4.5】 $\frac{1}{1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}}$ の分母を有理化せよ。---
【解】 分母をノルムにすればよい。ノルムとは、4つの共役数 $\alpha=1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6},\beta,\gamma,\delta$ の積である。これを求めるには、最小方程式を作ると楽だ。そこで
$x=1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}$,
$(x-1-\sqrt{6})^2=(\sqrt{2} +\sqrt{3})^2$,
$(x-1)^2-2\sqrt{6}(x-1)+6=5+2\sqrt{6}$,
$x^2-2x+2=2\sqrt{6}x$,
$(x^2-2x+2)^2=24x^2$,
$x^4-4x^3-16x^2-8x+4=0$
この 4次方程式のノルムは、解と係数の関係から求められる。ところで4次方程式の解と係数の関係は
$a(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)(x-\delta)=ax^4+\cdots+C(C$は定数項)
$\Rightarrow \alpha\beta\gamma\delta=\frac{C}{a}$
だから
$\alpha\beta\gamma\delta=\frac{4}{1}=4$
これが有理化した後の分母で、それを作るには分母・分子に $1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}$ 以外の共役を書ければよいから
$\frac{1}{1+\sqrt{2} +\sqrt{3} +\sqrt{6}}=\frac{(1-\sqrt{2} +\sqrt{3} -\sqrt{6})(1+\sqrt{2} -\sqrt{3} -\sqrt{6})(1-\sqrt{2} -\sqrt{3} +\sqrt{6})}{4}$
$=\frac{1}{4}\{ (1-\sqrt{2})(1+\sqrt{3})\cdot (1+\sqrt{2})(1-\sqrt{3}) \cdot (1-\sqrt{2})(1-\sqrt{3}) \}$
$=\frac{1}{4}\{ (-1)(-2)(1-\sqrt{2})(1-\sqrt{3}) \}$
$=\frac{1}{2}(1-\sqrt{2}-\sqrt{3}+\sqrt{6})$ (答)