よって、角速度ベクトルを$\vec{r}$と$\vec{v}$の外積であると定義しよう。すなわち
$\vec{\omega} = \vec{r} \times \vec{v}$
(円運動の場合は上の3つのベクトルのうちのどの2つをとっても垂直である。) このように定義すれば
$|\vec{\omega}| = r | \vec{v}| = r^{2} \omega $
で、たしかにスカラーの$\omega$に比例している。
速度の次に基本的な物理量として、
運動量$=$質量$\times$速度
や、
力$=$質量$\times$加速度
がある。実は、運動量(momentum)の時間微分が力になっていて、その事実を「運動量保存の法則」と呼ぶ。それを証明しよう。
【運動量保存の法則】
$\frac{dP}{dt} = F$
ただし、$P$は全運動量、$F$はすべての質点に働く力の和である。---
(証明)各質点の運動量
$p_{i} = m_{i} v_{i} $
を時間微分すれば
$\frac{d p_{i} }{ dt} = \frac{d (m_{i} v_{i}) }{dt} = m_{i} \frac{d v_{i} }{dt} = m_{i} \alpha_{i} =F_{i}$
したがって各質点にわたって合計すれば
$\frac{d \sum p_{i} }{ dt} = \sum F_{i} \Rightarrow \frac{dP}{dt} = F$■
力のモーメントをどう定義すればよいのかを、テコの原理から考えていこう。
上図のようなテコを考える。このとき、支点からなるべく遠いところを持って動かす方が楽に(小さい力で)石を動かせる。これは経験的に納得できる。
問題は、支点からの距離が $2\mbox{倍}, 3\mbox{倍}, \cdots$ になると、力は $1/2\mbox{倍}, 1/3\mbox{倍},
\cdots$ と反比例するかということだ。経験だけでは、正確に反比例というところまでは分からないだろう。
ここで、力学の知識を使う。テコを微小な角 $\Delta \theta$(ラジアン)だけ動かすことを考える。ある人は支点から $\vec{r}$
の位置にある点を持って、$\vec{F}$ の力で持ち上げたとしよう。この力がテコに対し行う仕事($=$力$\times$距離)を計算してみる。円の接線方向に
$ \mid \vec{r} \mid \Delta \theta $
だけの距離を動く。力$\vec{F}$ の円の接線方向の成分は、$\vec{r}$ と $\vec{F}$ のなす角を $\phi$ とすれば
$ \mid \vec{F} \mid \sin \phi $
だから、仕事は
$ \mid \vec{r} \mid \Delta \theta \cdot \mid \vec{F} \mid \sin \phi
$
となる。
テコのどの点を持って動かしたにしても、角 $\Delta \theta$ だけ動かすという同じ効果を与えるのならば、なされた仕事は等しい。従って、このとき
$ \mid \vec{r} \mid \Delta \theta \cdot \mid \vec{F} \mid \sin \phi
= \mbox{一定} $
ここで、$\Delta \theta$ は定数であるから、
$ \mid \vec{r} \mid \mid \vec{F} \mid \sin \phi = \mbox{一定} $
となる。これで、力のモーメント$\vec{N}$を 2つのベクトル$\vec{r}$ と $\vec{F}$ の外積、すなわち
$\vec{N} = \vec{r} \times \vec{F}$
と定義すればいいと察しがつく。これが力のモーメントである。ただし、$\vec{r},\vec{F},\vec{N}$の順に右手系をなす。
以上より、力のモーメントが一定なら、力と距離が反比例することが分かる。
回転運動で「運動量=質量×速度」にあたるものが
角運動量=質量×角速度
である。すなわち、角運動量(angular momentum)$\vec{L}$とは
$\vec{L}= m \vec{\omega} = m (\vec{r} \times \vec{v}) = \vec{r} \times
( m \vec{v})$
で、向きは角速度ベクトルと同じである。角運動量は運動量のモーメントでもある。
【例】
原点中心、半径$r$, 角速度$\omega$の円運動を考える。位置ベクトルは
$\vec{r} = \left( \begin{array}{c} r \cos(\omega t + \alpha) \\ r \sin(\omega t + \alpha ) \\ 0 \end{array} \right)$
で、速度ベクトルは時間微分して
$\vec{v} = \left( \begin{array}{c} -r \omega \sin(\omega t + \alpha) \\ r \omega \cos(\omega t + \alpha ) \\ 0 \end{array} \right)$
だから、その外積を計算すれば
$\vec{L} = m \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ r^{2} \omega( \sin^{2}(\omega t + \alpha)+\cos^{2}(\omega t + \alpha ) )\end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ m r^{2} \omega \end{array} \right) $
その絶対値は
$L=mr^{2} \omega$
である。あるいは、$\vec{r}$ と $m \vec{v}$ のなす角を $\phi$ とすれば、円運動では$\phi= \pi/2$なので
$ L = m \mid \vec{r} \mid \mid \vec{v} \mid \sin \phi = mr \cdot r \dot{\theta} \cdot 1 = m r^{2} \omega$
と計算してもよい。
次に、回転運動において、「運動量保存の法則」に相当する次の定理を証明しよう。
【角運動量保存の法則】
$\frac{dL}{dt}= N$
ただし、$L$は角運動量、$N$は質点に働く力のモ−メントである。---
(証明)角運度量ベクトルを時間微分すると、
$ \dot{\vec{L}} = \frac{d}{dt}( \vec{r} \times ( m \vec{v} ) ) $
だが、ベクトルの外積の微分には積の微分公式がそのまま使えて
$ = \dot{\vec{r}} \times ( m \vec{v} )+ \vec{r} \times ( m \dot{\vec{v}}) $
$ = \vec{v} \times ( m \vec{v} )+ \vec{r} \times (m \vec{\alpha} ) $
ここで、最後の式の第1項は同じ方向のベクトルの外積だから、$\vec{0}$(零ベクトル)である。よって、
$ \dot{\vec{L}} = \vec{r} \times \vec{F} = \vec{N} $
で、角運動量ベクトルの時間微分は力のモーメントであることが示された。■
最後に保留にしておいた問題1の解の続きを述べよう。
(解のつづき) 角運動量の和$L$を求めると
$L= x (m_{1}+m_{2})v -( x_{1} m_{1}v_{1} + x_{2} m_{2}v_{2})$
であるが、支点は固定されているので
$v=0$
また、天秤が静止していることから
$v_{1}=v_{2}=0$
であるので、角運動量は
$L=0$(定数)
である。角運動量保存の法則により
$\frac{dL}{dt}=N$
なので、力のモーメントの和は
$N=0$
となる。
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