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天秤の支点(力のモーメント)

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§1. モーメントとは何か
§2. 天秤問題は重心では解けない
§3. 天秤問題は力のモーメントで
§4. 速度と角速度
§5. 運動量保存の法則
§6. 力のモーメントの定義
§7. 角運動量保存の法則

§1. モーメントとは何か

天秤の問題において、力のモーメント(moment of force または toruque という)=長さ×力、すなわち
   $x_{1} f_{1} + x_{2} f_{2} + \cdots + x_{n} f_{n} = x_{1} m_{1}g + x_{2}m_{2}g +\cdots +x_{n} m_{n}g $
($m_{i}$ は質量、$g$ は重力加速度)が登場する。天秤が釣り合う点が重心になることは、力のモーメントを使って解明しないと分からないからである。このことはけっして自明ではない。

ここでモーメント(moment)本来の定義を述べておこう。
   $x_{1} f_{1} + x_{2}f_{2} + \cdots + x_{n}f_{n} $ ……(1)
を、原点のまわりの$f_{i}$の1次のモーメントという。一見すると内積に似ているが、 $x_{i}$ と $f_{i}$ は異種の量だから、これは内積ではない。
   $x_{1}^{2}f_{1} + x_{2}^{2}f_{2} + \cdots +x_{n}^{2} f_{n} $ ……(2)
は、原点のまわりの$f_{i}$の2次のモーメントという。
   $ (x_{1}-a)^{2}f_{1} +(x_{2}-a)^{2}f_{2} + \cdots +( x_{n}-a)^{2}f_{n} $ ……(3)
は、点$a$のまわりの$f_{i}$の2次のモーメントという。

そういえば、確率論で出てくる期待値や分散とは、「確率のモーメント」のことである。期待値とは
   $E(X)= x_{1}p_{1} + x_{2}p_{2} + \cdots + x_{n}p_{n} $
であり、分散とは
   $V(X)= (x_{1}-\mu)^{2} p_{1}+ (x_{2}-\mu)^{2}p_{2} + \cdots +( x_{n}-\mu)^{2} p_{n}$
であるから、それぞれ(1),(3)と同じ式である。なお、確率論の本でこのモーメント$ E(X^{k}) = \displaystyle \sum_{i=1}^{n} x_{i}^{k} p_{i} $のことを「積率」と和訳しているものがある。確率との積だから「率積」の方がいいかなという気もしてくる。
ところで、ニュートンは moment を微分の意味に使っている。歴史的に見ると、モーメントという用語には紆余曲折があるようだ。

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§2. 天秤問題は重心では解けない

具体的な問題を使って論じよう。

【問題1】 下図の天秤は、どこに支点を置けば、釣り合うか。

よく「重心に支点を置くと、天秤は釣り合って静止する」と言うが、厳密に言うとそれはウソである。その理由をいくつか挙げてみる。

  1. 重心で天秤を支えても、静止するとは言えない。下図のように重心のまわりを突然クルクルと天秤が回転しだすかも知れない(まさか!)。でも、止まっている扇風機の羽を考えてみてください。

    扇風機の回転軸は羽の中心すなわち重心を貫通している。そして、指でこの羽を勢いよく回してみてください。クルクルと長いこと回っていることでしょう。ですから、重心で天秤が釣り合うことは、理論上はそう明らかではないのです。
  2. もう一つの難点は、重心で支えることが物理的に不可能の場合があることだ。
    下図を見てください。今度は重心が図中の × 印のところにあり、空中で支える訳にいかなくなるのです。

    実際的な例で、やじろべえを考えてみましょう。

    上図のように重心は×印のところにありますが、図のように指で支えると、重心でないにもかかわらず釣り合います。のみならず、この位置関係からやじろべえを傾けても、やじろべえはユラユラと揺れて、元の体勢に復元するのです。
  3. 下図のような状態で静止していれば、「釣り合っている」と言ってよいでしょう。

    では、下図のような状態で静止している場合は「釣り合っている」と言ってよいのでしょうか。

    このようなことは起きないのでしょうか、それとも必ず起きるものなのでしょうか。実験してみたら、こういうことは起きないというのはダメです。問題文にははっきり述べていませんが、ここでは天秤のさおの部分の質量は、無視できるとして解いているのですから、質量のないさおを作れない限り、実験しても無駄です。

結局は、天秤は力のモーメントを使わないと解け得ない問題なのである。

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§3. 天秤問題は力のモーメントで

先述の問題1は、正しくは力のモーメントを使って次のように解く。

(解) 支点$x$にて、この天秤を支えるとする。すると、支点には鉛直上向きに
   $(m_{1}+m_{2})g$
($g$は重力加速度)の垂直抗力が働く。

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