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区分求積法とは何か
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第0章 4つの意味合い
第1章 取り尽くし法
第2章 数列の和の極限
第3章 あらゆる分割をわたる積和の極限
第4章 数値積分
第5章 結語---思想と方法
区分求積法には次のようないろいろな意味合いがあるようだ。
この4つについて、順次見ていこう。
三角形、台形や円ならその面積は簡単に計算できる。では、下図のような不定形 D の面積を求めるには、どうしたらよいかというのが最初の問題設定である。
一定の大きさ(1辺の長さを d とする)の正方形の集まりでできた網を上からかぶせる。図形 D を完全に覆う正方形が何個あるか、一部分を覆うものが何個あるかを数える。それぞれ、m個、n個だとしてみる。そのとき、D の面積 |D| はおよそ
$m \times d^2+n \times \frac{d^2}{2}$
となる。右辺第2項で d2/2 を使ったが、ここは 0 や 1 でも構わない。すなわち
$m \times d^2$
や
$(m+n)\times d^2$
でもよい。なんだったら、n 回、サイコロを振って d2 を面積に算入するかどうかを決めてもよい。
どのように決めたにしても、d をどんどん小さくして、限りなく 0 に近づければ |D| の近似値はある値に近づくであろう。その値が、この図形
D の面積だ。
これが区分求積法で、積分のアイデアのもとになっている。
このアイデアの欠点を考えてみよう。2次元の図形だから、小正方形の集まりの網になった。でも、我々がここで考える積分は、2次元の積分(重積分)ではなく、1次元の積分(単積分)である。
$\int \int_{D} \phi(x,y)dx dy$
なら、x 軸と y 軸は対等であるから、正方形の網の目を使うのは了解できる。
ところが、単積分
$\int_{a}^{b}f(x)dx$
だと、x 軸に直交するように、もう1つ、関数値を目盛る軸があると考えられる。これは x 軸と対等とは考えづらい。実際、単積分のイメージにおいては、下図のように小長方形の和の極限で表現することが一般的だ。長方形であって、けっして正方形にはならない。
網の目は、何も正方形や長方形に限定されることはないのだ。現に、小学校で円の面積が πr2 であることを、下図のように扇形に分割し、1つ1つの扇形は2等辺三角形で近似するという方法で学んでいる。
また、アルキメデスが行った取り尽くし法では下図のように、三角形分割で、三角形の個数を多くしていって、放物線の面積を求めたといわれる。
「図形の面積を求めよう」を問題設定の初めに持ってくると、正方形で近似のアイデアは必ずしも出てこない。y=x2
の面積を求めよ、という問題でも台形で近似するというアイデアが出てきてしまうことがある。生徒が自ら数値積分の台形公式を発明したようなものだが、長方形より、台形の方がよい近似値が得られるし、考え方としてもこちらの方が素直である。
それは、面積の求め方がそもそも、その図形固有の特徴的な形に目をつけて考える、という性格を持っているからではないだろうか。
取り尽くし法では、長方形(正方形)による近似が、生徒の間から出てこない危険性がある。
曲線 $y=f(x)$ 下の面積を求めるのに、$n$ 個の短冊
$\displaystyle \displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} f(x_{k})\Delta x$
で近似する。ここで、
$\Delta x=\frac{b-a}{n}$
に注意して、Σ の極限で面積(定積分)を求める。すなわち、
$\int_{a}^{b}f(x)dx=\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}\displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} f(a+k\times \frac{b-a}{n})\times\frac{b-a}{n}$ ……(1)
で計算する。いま、$x_{k}$ として各小区間の左端をとったが、右端をとって、
$\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}\displaystyle \sum_{k=1}^{n} f(a+k\times \frac{b-a}{n})\times\frac{b-a}{n}$
でも構わない。
ここに出てくる Σ を求めようとしたら、Σ の中味が、
のいずれかでなければならない。理論上は、多項式であれば、その数列の和は求まるのだが、高校では Σk と Σk2
しか習わないからだ。この方法は、適用範囲がかなり狭いのである。
でもこれは、受験問題によく出てくるものである。数列の和の公式が分からなくて、しかもその極限を求めるなんて、とても無理だと思わせておいて、実はうまく変形すると、
$\int_{a}^{b} f(x) dx$
と表現される。ここで $f$ は3次以上の多項式関数であったり、はたまた対数関数であったりするが、あとは微分積分の基本公式
$[ F(x)]_{a}^{b}$
で求まる。
理論上の問題で、生徒の頭を悩ます。すなわち、
教科書は、定積分を原始関数の値の差で定義している。
$\int_{a}^{b} f(x) dx=[ F(x)]_{a}^{b}$
これだと前者の解釈になり、この手の受験問題は定積分の"応用問題"となる。では、(1)式を定積分の"定義"だと習った生徒は、どう考えればよいのだろうか。後者のように考えればよいのだろうか。
実は、(1)式は、定積分の定義そのものではない。これを定義にすると、いろいろ不便なことが生じるからだ。例えば、積分区間に関する加法性
$\int_{a}^{b} f(x) dx=\int_{a}^{c} f(x) dx+\int_{c}^{b} f(x) dx$
の証明が面倒になる。例えば、
$\int_{0}^{2} f(x) dx=\int_{0}^{\sqrt{2}} f(x) dx+\int_{\sqrt{2}}^{2} f(x) dx$
を証明しようとする。左辺は、区間幅=2 が有理数だから、n で割っても有理数だ。しかし、右辺第1項、第2項はそれぞれ区間幅が
$\sqrt{2},2-\sqrt{2}$
と、いずれも無理数になっている。それを n で割っても無理数である。それで、例えば
$f(x)=\left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x \mbox{が有理数のとき})\\ 0 & (x \mbox{が無理数のとき})\end{array}\right. $
という関数 $f(x)$ について上の式を計算すると、
$2 = 0 + 0$
という奇妙な式が出てしまう。
もっともこの関数は連続でないから積分可能でないとするのがほんとなのだが、(1)式を定義式とする限り、連続でない関数は積分しないことにするということが説明できない。
また、次のような区分的に連続な関数も取り扱いに困る。
$f(x)=\left\{ \begin{array}{ll} 1 & (0 \leq x <1\mbox{のとき})\\ \frac{1}{\sqrt{2}} & (1 \leq x <1+\sqrt{2}\mbox{のとき})\end{array}\right. $
について、
$\int_{0}^{1} f(x) dx=1$
であることも
$\int_{1}^{1+\sqrt{2}} f(x) dx=1$
であることも定義式(1)より自明であるのに、
$\int_{0}^{1+\sqrt{2}} f(x) dx=1+1$
であることが自明でないのだ。区間 $[0,1+\sqrt{2})$ を $2n$ 等分したとき、区間 $[0,1)$ と区間 $[1,1+\sqrt{2})$ の両方が $n$ 等分される訳ではない。それで、積分区間に関する加法性の証明が厄介になるのである。
もちろん、ここで区分的に連続な関数の積分は考えない(連続関数だけに限定する)という立場もありうるが、それでは少し狭量であろう。
前節の欠点を補うために、$x_{k}$ が無理数になってもよいように、あらゆる分割を許容してしまおうと立場がある。さっきは、区間 $a\leq x \leq b$ を $n$ 等分したが、 $n$ 個の小区間に分けるだけでよい、等しく分けなくてもよいとする。また、小区間 $x_{k}\leq x \leq x_{k+1}$ の分点として、前節では $x_{k}$ または $x_{k+1}$ を採用したが、
$x_{k} \leq \xi_{k} \leq x_{k+1}$
なる $\xi_{k}$を採用すればよいとする。そして、積和の極限
$\displaystyle \lim_{n\rightarrow \infty}\displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} f(\xi_{k})\times (x_{k+1}-x_{k})$
を定積分の定義とするのだ。ここで $\lim$ は分割
$\Delta : a=x_{0} \leq x_{1} \leq \cdots \leq x_{n-1} \leq x_{n}=b$
のうちの最大の小区間幅
$| \Delta |=\displaystyle \max_{0\leq k\leq n-1} (x_{k+1}-x_{k})$
を限りなく 0 に近づけたときの極限を意味する。
上述のやり方を区分求積法と名づけ、これを基本に(これを定積分の定義に採用して)積分を考えればよいというやり方があるであろう。それはもっともな主張である。
だが、これはリーマン積分の定義そのものである。大学の数学で教わる積分の定義となんら変わるところがない。それならば、これを区分求積法と名づけることは余分なことではないか。
「大学で教わるように、あらゆる分割をわたるときの積和の極限を定積分の定義としよう」といえばよいではないか。なにも、区分求積法と呼ぶ必要はない。区分求積法という名は,他の概念のためにとっておくべきだと思う。
例えば
$S=\int_{0}^{1} x^2 dx$
は
$\displaystyle \displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} x_{k}^2 \Delta x=\displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} (\frac{k}{n})^2 \times \frac{1}{n}$
の極限であるから、n=10 のときの近似値は以下の表を手計算またはパソコンを使って作る。
x | f(x) | f(x) Δx |
0 | 0 | 0 |
0.1 | 0.01 | 0.001 |
0.2 | 0.04 | 0.004 |
0.3 | 0.09 | 0.009 |
0.4 | 0.16 | 0.016 |
0.5 | 0.25 | 0.025 |
0.6 | 0.36 | 0.036 |
0.7 | 0.49 | 0.049 |
0.8 | 0.64 | 0.064 |
0.9 | 0.81 | 0.081 |
計 | 0.285 |
上の 0.285 という値は、不足和である。過剰和は 0.385 になる。いま10分割 ( n=10 )
でこの程度の精度だが、n=100, 1000, …… と分割数を増やせば、精度はよくなる。
n |
不足和 | 過剰和 |
10 |
0.285 | 0.385 |
100 |
0.32835 | 0.33835 |
1000 |
0.3328335 | 0.3338335 |
上表で、分割数を増やすとどうなるかを示した。(表計算ソフトで、n=10000 を計算するのは無理だった。)
真の値 S は、
0.332 < S < 0.334
ということは分かる。小数第2位までは求まったわけだ。近似値を求めるときには、このように上と下の両方から評価するか、もしくは誤差の評価をしておくのがよい。
近似値計算をすることによって、積分の理解が得られるという主張である。
上に述べたのは、「数値積分」と呼ばれるものである。これが、積分の理解にプラスになることは認めてよいが、これを「区分求積法」と呼んでよいのかは、私には疑問だ。
また、今のように結果が
$\frac{1}{3}$
となることがなんとか分かるのならよい(これでも少し苦しいかもしれないが)。でも、
$\int_{1}^{2} \frac{1}{x} dx$
を数値積分しても、それが
$\log 2$
の近似値だとは気づかれまい。
積分の考えの基礎にあるのは、
細かく分けて、掛けて足す。分け方をどんどん細かくしていけば、その積和の値はある値に近づく。それを求めるのが積分である。
というものであろう。このアイデア自体を「区分求積法」と言う人も中にはいるかもしれない。
でもこれは区分求積の「考え」であって、区分求積「法」と呼ぶほどの方法論ではない。方法論を度外視して、アイデア(考え方)だけを追求するのは、問題があると思う。学習指導要領では、積分ではなく「積分の考え」を教えるとなっている(数学
II の部分。数 III では、さすがに「積分法」を教えることになっている)。
方法論の背景に思想があるのであって、その思想だけ取り出して教えようとしたり、その反対に思想を抜きに方法だけを教えることは、まずいと思う。思想家カタログのような倫理の教科書は前者の例だし、それをする目的も分からずとにかくやらせる理科の実験は後者の好例だろう。このようなものは、それを学んだところで博覧強記にはなっても、生きてはたらく知力にはならないだろう。
以上、区分求積の「考え」が、どういう区分求積「法」という方法論に実現されるのかを見た。
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