[婆茶留高校数学科☆HP] Top pageに戻る このページを閉じる
探したい言葉はここへ→

「微分」を積分する

Copyright (C) virtual_high_school, 1997-2017

§1. 積分をどう理解するか
§2. 名詞の微分と動詞の微分
§3. 円の面積
§4. 球の表面積

§1. 積分をどう理解するか

【回転体の体積】
表題に記した「微分」とは、動詞ではなく、名詞の differential のことである。
微分を説明しよう。例えば、回転体($y$軸の回り)の体積なら、次のようになる。

回転軸に垂直に立体を輪切りにする。細分された立体は高さの低い小円柱で、その体積が $dV$ で、それが微分である。

図から分かるように、
   $ dV = \pi \{ x(y) \}^{2} dy $
である。これを寄せ集めれば全体の体積で
   $ V = \int_{0}^{V} dV = \int_{c}^{d} \pi \{ x(y) \}^{2} dy $
である。

ここのところを、断面積
   $ S(y) = \pi \{ x(y) \}^{2} $
を$y$ 方向に積分して、
   $ V =\int_{c}^{d} S(y) dy $
などと説明すると、訳が分からなくなる。なぜなら、

  1. 面積を積分すると、体積になるという次元(dimension)の食い違いが起きている。
  2. 断面と垂直な$y$軸に沿って積分すべきことがはっきりしない。

という弱点があるからだ。

さて、上の問題で微分をもう少し考えてみる。
$dy$ というのは、$y$軸を細分したもの(線素)であり、これは$\Delta y$ に等しい:
   $ dy = \Delta y $
一方、$dV$ の方は $\Delta V$ に等しくない。ただ、極微の世界で見ると、近似的に等しい:
   $ dV \approx \Delta V $
右辺は、
   $ \Delta V = V(y+\Delta y) - V(y) $
で、$V$ の増分であって、これは円柱でなく、疑似円柱の体積だから微分 $dV$ とは等しくない。

PageTopへ


§2. 名詞の微分と動詞の微分

【微分(differential)とは】
回転体の体積で考えたことを、関数 $ y = f(x) $ で調べてみる。

独立変数 $x$ の方で考えると、
   $ dx = \Delta x $
で、微分と増分は同じものである。一方、従属変数 $y$ の方で見ると
   $ dy \approx \Delta y $
で、両者は等しくはない。では、$dy$ とは何かというと、点$(x_{0}, y_{0})$ における局所近似正比例関数のことであるから、
   $dy = f'(x_{0}) dx $ …… (1)
である。$dx$-$dy$座標系は点$(x_{0}, y_{0})$ が原点になるように設定された局所座標系である。したがって、
   $ \left\{\begin{array}{rcl}dx & = & x - x_{0} \\dy & = & y - y_{0} \end{array}\right.$
という座標変換の式が成り立つ。
ところで、(1)を見ると、$f'(x_{0})$ は微分 $dx$ の係数になっている。それで、これを「微分係数」という訳だ。
$x_{0}$ を変数として見るときは、$x$ と書き換えて
   $ dy = f'(x) dx $
とすると見やすい。
この式は、$dx = \Delta x$ より
   $ dy = f'(x) \Delta x $
と書き直すこともできる。この式の形で覚えておくと、
   $ y = x $
のときは
   $ f'(x) = (x)' = 1 $
より、
   $ dx = (x)' \Delta x = \Delta x $
が出てくる。

【「微分する」の定義】
「微分する」とは、教科書では導関数 $f'(x)$ を求めることだと定義されている。そうではなく、微分$f'(x) dx$ を求めることを「微分する」と呼ぼう。そうすると、どんな違いが起きるだろうか。

(例1) 距離関数
   $ s(t) = v_{0}t - \frac{1}{2}gt^{2} $
を時間で微分すると
   $ ds = v(t) dt = (v_{0} -gt) dt $
で、これは $(\mbox{瞬間速度})\times(\mbox{微小時間})$ であるから、微小時間に移動した微小距離である。
つまり、距離 $s$ を微分すると、距離 $ds$ が得られるのだ。距離を微分しても距離なのであって、速度ではない。■
(例2) 曲線
   $ y =f(x) $
において、縦座標を微分すると、
   $ dy = f'(x) dx $
で、 $(\mbox{傾き})\times(\mbox{横の長さ})$ だから$dy$ は微小な縦の長さである。
$y$ を微分すると、やはり縦の長さになるのであって、傾きではない。■

要するに、微分しても、量の種類は変わらないのである。
   $ \mbox{距離} \rightarrow \mbox{距離}, $
   $ \mbox{縦} \rightarrow \mbox{縦} $
なのであって、
   $ \mbox{距離} \rightarrow \mbox{速度}, $
   $ \mbox{縦} \rightarrow \mbox{傾き} $
とはならないのである。
積分は微分の逆操作で、そこでも量の種類は変わらない。面積$dS$ を積分した $\int dS$ はやはり面積であって、体積ではない。曲線下の面積の公式:
   $ S = \int_{a}^{b} f(x) dx $
の右辺で積分されているのは、面積$f(x)dx$ であって、面積を積分して面積になるという当り前の公式なのである。

これを「縦の長さを積分すると面積になる」などと理解しようとするから、おかしなことになる。長さをいくら寄せ集めたって、線には幅がないのだから、面積は 0 でしかありえないとなってしまうのだ。

【微積分の基本定理】
「微分する」「積分する」という言葉の定義を上述のように変えると、微分・積分しても量の種類は変わらないということが分かった。このことは単なる言葉の言い替えに過ぎないように見えて、そうではない。微積分に対する見方が変わる。
例えば、微積分の基本定理:
   $ \frac{d}{dx} \int_{a}^{x} f(x) dx = f(x) $
がある。これを、「両者の間に大きな溝のある、微分学と積分学を切り結ぶ重要な公式である」というように言う人がいる。たしかに重要には違いないが、これでは微分学と積分学が分断されていて当然というような物言いではないか。
数学史上では、接線影を求める微分学と、面積を求める積分学とはなるほど分断されていた。しかしそれは昔のことであって、現代数学においては違う。
現代においては、微積分の基本定理は当り前の公式だろう。左辺に出てきた
   $ \int_{a}^{x}f(x) dx $
というのは、グラフで言えば短冊形の微小面積
   $ f(x) dx $
を寄せ集めたものである:
   $ \int_{a}^{x}f(x) dx = f(x_{0}) dx + f(x_{1})dx + \cdots + f(x_{n-1})dx $
これを微分したものは
   $ d \left( \int_{a}^{x}f(x) dx \right) $
   $ = \{ f(x_{0}) dx + \cdots + f(x_{n-1})dx + f(x_{n})dx \} - \{ f(x_{0}) dx + \cdots + f(x_{n-1})dx \}$
   $ = f(x_{n}) dx $
で、短冊たちの中で一番右側にいる一片の面積である。

両辺を$dx$ で割れば、
   $ \frac{d}{dx} \int_{a}^{x} f(x) dx = \frac{f(x) dx}{dx} = f(x) $
となって、基本定理が納得できる。
もちろんここに述べたことは荒っぽくて証明にはならないが、理解のひとつのあり方と言えるだろう。
ところが、微分・積分すると量が変わるという把握をしていると、基本定理は「面積の傾きは縦の長さである」という意味になってしまう。これでは、「分かれ!」という方が無理だ。

PageTopへ


§3. 円の面積

【円を微分する】
上述した、微分・積分しても量は変わらぬという「量不変の法則」はどんなことの役に立つのか、を見てみよう。教科書にもよく載っている次の問題を考えてみよう。

(例3) 円の面積 $ S = \pi r^{2} $ を $r$ で微分するとどうなるか。
教科書で期待されている解答は、$ S'(r) = 2 \pi r $ で、円周の長さになっちゃった、というものであろう。ちなみにこの導関数は、「円の面積の、半径に対する変化率」である。(このように、変化率という言葉を使うときは、「○○の、□□に対する変化率」というように表現すべきだ。)
量不変法則でやると
   $ dS = 2 \pi r dr $
で、半径をチョビッと大きくすると$ \mbox{円環の面積} = \mbox{円周} \times \mbox{幅} $の分だけ、円の面積が増える、という認識になる。■

教科書流と量不変派の、どっちの流儀で理解しても似たように思われただろうか。では、次の問題はどうか。

(例4) 1辺$x$ の正方形の面積 $ S = x^{2} $ を $x$ で微分するとどうなるか。
教科書流だと、$ S'(x) = 2x $で、正方形の周長$4x$ の半分になってしまって、「なんだ、これッ」となってしまう。

量不変則だと、$ dS = 2x dx $だが、
   $ dS = 2x dx = 4 x \times \frac{dx}{2} $

と考えれば、正方形を上下左右にそれぞれ$dx/2$ だけ拡大すると、面積は
   $ \mbox{周長} \times \mbox{幅} $
だけ大きくなるということで、つじつまが合う。(蛇足ながら、四隅の部分は$dx$ より高位の無限小だから無視した。)■

ところで、教科書が円の問題でうまくいったかのように見えたのは、円の面積が半径で表されていた、という偶然によるものである。円の面積を半径で表すのは、多分に歴史上の偶然であって、直径で表したっていい筈だ。そのときは、
   $ S = \frac{\pi}{4} D^{2} (D:\mbox{直径})$
だが、これの導関数は
   $ S'(D) = \frac{\pi}{2} D $
となって、円周の長さ$\pi D$ にはなってくれない。

もちろん量不変則なら
   $ dS= \frac{\pi}{2} D dD = \pi D \times \frac{dD}{2} $
で、うまくいく。■

【円の面積を求める】
前節で、教科書に載っていた、円を微分する問題を紹介した。これを逆にして積分の問題にすれば、円周の長さを前提にして円の面積を求める問題になる。
円の面積が $\pi r^{2}$ であることを証明してみる。

(証明1) 円を同心円状に細分する(バウムクーヘン型微分)。

円環1つの面積は、縦が円周$2 \pi r$ で、横が$dr$ の長方形の面積で近似できる。だから
   $ dS = 2 \pi r dr $
これを積分して
   $ S = \int_{0}^{r} 2 \pi r dr = \left[ \pi r^{2} \right]_{0}^{r} = \pi r^{2} \mbox{■} $

ところで、小学校では円の面積を扇形への細分で求めている。

(証明2) 円を放射状に細分する(デコレーションケーキ型微分)。扇形1つの面積は、高さが$r$ で、底辺が$r d\theta$ の二等辺三角形の面積で近似できる。

だから
   $ dS = \frac{1}{2} r^{2} d \theta .$
これを積分して
   $ S = \int_{0}^{2\pi} \frac{1}{2} r^{2} d \theta = \left[ \frac{1}{2} r^{2} \theta \right]_{0}^{2\pi} = \pi r^{2} \mbox{■} $

このように2つの証明法が出てくることを少し考えてみよう。元来、面積は重積分で求めるものである。例えば、曲線下の面積なら
   $ S = \int \! \! \! \int_{D} dxdy $
ただし、領域$D$ は
   $ D = \{ (x,y) \mid a \leq x \leq b, 0 \leq y \leq f(x) \} $
である。

この重積分を$y$ から先に積分すると、
   $ S = \int_{a}^{b} \left( \int_{0}^{f(x)} dy \right) dx $
   $= \int_{a}^{b} \left( \left[ y \right]_{0}^{f(x)} \right) dx = \int_{a}^{b} f(x) dx $
と、$x$ の単積分で求まるのであった。

(証明3) 円の面積なら
   $ D = \{ (r,\theta) \mid 0 \leq r \leq R, 0 \leq \theta \leq 2\pi \} $
として、座標変換の式は
   $ \left\{\begin{array}{rcl}x & = & r \cos \theta \\y & = & r \sin \theta\end{array}\right.$
だから、ヤコビアンは
   $ \frac{\partial (x,y)}{\partial(r,\theta)} = \det \left( \begin{array}{rr}\cos \theta & -r \sin \theta \\\sin \theta & r \cos \theta \end{array}\right) = r \cos^{2}\theta + r \sin^{2}\theta = r $
である。よって
   $ S = \int \! \! \! \int_{D} dxdy = \int \! \! \! \int_{D} \left| \frac{\partial (x,y)}{\partial(r,\theta)} \right| dr d\theta = \int \! \! \! \int_{D} r dr d\theta $
となり、これを$\theta$ から先に累次積分すれば、
   $ S = \int_{0}^{R} \left( \int_{0}^{2\pi} r d\theta \right)dr = \int_{0}^{R} 2\pi r dr = \pi R^{2} $
で同心円状の積分になる。一方、$r$ から先に積分すると
   $ S = \int_{0}^{2\pi} \left( \int_{0}^{R} r dr \right)d\theta = \int_{0}^{2\pi} \frac{1}{2}R^{2} d \theta = \pi R^{2} $
で、放射状の積分だ。■

PageTopへ


§4. 球の表面積

【球の表面積】
微分(differential)の威力を試す問題として、最後に球の表面積を求めることにしよう。
円の面積の導関数が円周の長さになるように、球の体積の導関数は表面積である。

(解1) 球の体積は、回転体の体積の公式より
   $ V = \frac{4}{3}\pi r^{3} $
と求まる。これから
   $ V'(r) = 4 \pi r^{2} $
で、これが球の表面積である。■

表面積を求めるのに、それより次元の高い体積が分かっていないとならないというのは、順序が逆のようで、理論的には美しくない。体積の公式を仮定しないで、この問題を解いてみよう。

(解2) $x$-$y$平面上に原点中心、半径$r$ の上半円
   $ y = \sqrt{r^{2} -x^{2}} $
を描く。これを$x$軸の回りに回転して、表面積を求める。$x$軸を細分して、$dx$の回りを回転してできる帯の表面積 $dS$ を考える。

そのために、次図の円錐台の側面積 $s$ を$a,b,c$ で表す式を出しておく。母線の長さが $a$ の円錐の側面を展開すると、中心角が
   $ 360^{\circ} \times \frac{2\pi c}{2\pi a} = 360^{\circ} \times \frac{c}{a} $
の扇形になる。よって
   $ s = \{ \pi(a+b)^{2} - \pi a^{2} \} \times \frac{c}{a} = \pi(2ab+b^{2})\times \frac{c}{a} = \pi(2bc + \frac{b^{2}c}{a} ) $ ……(*)
である。

円錐台の側面積の公式を適用するために、$a,b,c$ を求めよう。まず
   $ c = \sqrt{r^{2}-x^{2}} .$

三角形の相似から$ a : c = r : x $だから、
   $ a= \frac{rc}{x} = \frac{r\sqrt{r^{2}-x^{2}}}{x} .$
もう1組の三角形の相似から$ b : dx = r : c $だから
   $ b= \frac{r dx}{c} = \frac{r dx}{\sqrt{r^{2}-x^{2}} } $
が言える。これをさきほどの $s$ の式に入れる。(*)に出てくる$b^{2}$ は
   $ \frac{r^{2} (dx)^{2}}{r^{2}-x^{2}} $
で、$dx$ より高位の無限小になるので、無視する。すると
   $ s = \pi \times 2bc = 2\pi r dx .$
あとは $dS=2\pi r dx$ を積分すればよい。
   $ S = \int_{-r}^{r} 2\pi r dx = 2\pi r \left[ x \right]_{-r}^{r} = 4 \pi r^{2} \mbox{■} $

$x$-$y$座標系で計算したので、面倒くさくなってしまった。やはり、円や球は極座標と相性がよいようだ。極座標で計算すると、以下のようなずっと簡単な別解ができあがる。

(解3) 上半円を $\theta$ 方向に細分する。線素は、半径$r$、中心角$d\theta$の扇形の弧長だから $ r d\theta $ である。

これは$x$軸から $r \sin \theta$ だけ離れたところにある。よって、線素を$x$軸の回りに回転すると、長さ$2\pi r \sin \theta$、幅$r d\theta$の細長い長方形の帯ができる。したがって、面素は
   $ 2\pi r \sin \theta \cdot r d\theta = 2\pi r^{2} \sin \theta d \theta $
で、これを積分して
   $ S = \int_{0}^{\pi} 2\pi r^{2} \sin \theta d \theta = 2\pi r^{2} \left[ - \cos \theta \right]_{0}^{\pi} = 4 \pi r^{2} $
を得る。■

今の例では、線素$r d\theta$ が$x$軸に対して斜めに傾いていたが、微分(diffrential)の考えにのっとればちゃんと正しい答に到達する。微分の考えを使わずに、この計算をするのはきわめて困難だろう。

PageTopへ



[婆茶留高校数学科☆HP] Top pageに戻る このページを閉じる
探したい言葉はここへ→