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"$X-E(X)$" の列は確率変数の値から平均を引いたもので、偏差と呼ばれる。それを2乗して確率を掛けた値が表の最右列である。その列の合計が $91500$ だから、

$V(X)=91500 (\mbox{円}^2)$

単位に注意してほしい。標準偏差 $\sigma(X)$ はこれの正の平方根だから

$\sigma(X)=\sqrt{91500}=10\sqrt{915}=302.5 (\mbox{円})$


分散に関する公式で有名なのが、「分散は2乗の平均がら平均の2乗を引いたもの」という公式だ。

【問題】 確率変数 $X$ について $V(X)=E(X^2)-E(X)^2$ を証明せよ。---

【証明】 $E(X)=\sum x_{i} P(X=x_{i})$ に留意しつつ、$V(X)$ の定義を変形していく。

$V(X)=\sum (x_{i}-E(X))^2 P(X=x_{i})$
$=\sum (x_{i}^2-2 E(X) x_{i} +E(X)^2)P(X=x_{i})$
$=\sum x_{i}^2 P(X=x_{i}) -2 E(X) \sum x_{i} P(X=x_{i}) +E(X)^2 \sum P(X=x_{i})$
$=\sum x_{i}^2 P(X^2=x_{i}^2) -2 E(X) E(X) +E(X)^2 \times 1$
$=E(X^2) -E(X)^2$

計算途中で難しいのは、$\sum x_{i}^2 P(X=x_{i})= \sum x_{i}^2 P(X^2=x_{i}^2) $ のところだろう。具体例を考えてみよう。

左辺$=(-2)^2 P(X=-2)+(-1)^2 P(X=-1)+0^2 P(X=0)+1^2 P(X=1)+2^2 P(X=2)$
$=0 P(X=0)+1 (P(X=-1)+P(X=1))+4 (P(X=-2)+P(X=2))$
$=0^2 P(X^2=0^2) +1^2 P(X^2=1^2)+2^2 P(X^2=2^2)=$右辺

でたしかに成り立っている。■

実はこの公式には実用的な価値がない。$E(X^2)$ も $E(X)^2$ も通常かなり大きな値になる。例えばともに12桁の整数で、上8桁まで同じ数だとしてみよう。それを引き算すると4桁の整数になるはずだが、使った電卓の精度が8桁だとしたら上9桁目以降は四捨五入されてなくなっている。だから12桁から12桁を引くとゼロになってしまうって訳だ。標準偏差を求める問題を出したら、どっちの公式を使うかで、答が2倍以上異なるなんてことはザラだ。


【問題】 袋の中に赤球5個と白球4個が入っている。この袋から球を1個ずつ取り出していき、赤、白どちらかの球が先に3個取り出されたところで終了する。ただし、取り出した球は袋に戻さない。終了時点で取り出されている球の総数を $X$ とするとき、次の問いに答えよ。
(1) $X=5$ となる確率を求めよ。
(2) $X$ の期待値を求めよ。---(2010学習院大学)

【解】 (1) 5セットマッチの試合で、3セット先取した方が勝ち。フルセットまでもつれるのは

(赤2個、白2個)×赤 + (赤2個、白2個)×白
$(_{4}C_{2}\cdot \frac{5}{9}\cdot \frac{4}{8}\cdot \frac{4}{7}\cdot \frac{3}{6} )\times ( \frac{3}{5}+\frac{2}{5})$
$=6 \cdot \frac{5}{63} \cdot 1=\frac{10}{21}$

(2) 4セットで勝負がつくのが

(赤2個、白1個)×赤 + (赤1個、白2個)×白
$(_{3}C_{2}\cdot \frac{5}{9}\cdot \frac{4}{8}\cdot \frac{4}{7} )\times\frac{3}{6}+(_{3}C_{2}\cdot \frac{5}{9}\cdot \frac{4}{8}\cdot \frac{3}{7} )\times\frac{2}{6}$
$=\frac{240+120}{3 \cdot 8\cdot 7 \cdot 6} $
$=\frac{5}{14}$

3セットのストレート勝ちは

(赤3個) + (白3個)
$ \frac{5}{9}\cdot \frac{4}{8}\cdot \frac{3}{7}+\frac{4}{9}\cdot \frac{3}{8}\cdot \frac{2}{7}$
$=\frac{60+24}{9\cdot 8 \cdot 7}=\frac{1}{6}$

これらより、期待値は

$E(X)=3 \times \frac{1}{6}+4 \times \frac{5}{14}+5 \times \frac{10}{21}$
$=\frac{3\times 7+4\times 15+5\times 20}{42}=\frac{181}{42}$ …(答)

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【第06講】 変数変換

サイコロを1個振って出た目の数だけ賞金 $X$ をあげよう。例えば1の目が出たら 1円あげる。いや、これでは少なすぎる。$X+1000$ 円あげよう。でもこれでは、1の目でも 6の目でも余り変わらない。そこで出た目の数を 100倍してそれに1000円足した金額、すなわち $100X+1000$ (円)が賞金だ。このように 確率変数は $X$ から $100X+1000$ に変換された。もっと一般化して $aX+b$ ($a,b$ は定数) の期待値や分散(こういった量を統計量と呼ぶ)はどうなるだろうか。
平均は、例えばテストの点数を $a$ 倍して、全員に $b$ 点の下駄を履かせれば、平均点も $a$倍プラス$b$ になるだろうし、散らばり具合を表す $\sigma(X)$ は全体に $b$だけシフトしても影響はなく、ただ $a$ 倍されるだけだろう。

【問題】 確率変数 $Y=aX+b$ の期待値、分散、標準偏差を求めよ。---

【解】 期待値は

$E(Y)=\sum y_{i} P(Y=y_{i})= \sum (a x_{i}+b) P(aX+b=a x_{i}+b)$
$=\sum (a x_{i}+b) P(X= x_{i})$
$=a \sum x_{i} P(X= x_{i})+b \sum P(X= x_{i})$
$=a E(X)+b$

分散は

$V(Y)=\sum (y_{i}-E(Y))^2 P(Y=y_{i})= \sum (a x_{i}+b-aE(X)-b)^2 P(aX+b=a x_{i}+b)$
$=a^2 \sum (x_{i}-E(X))^2 P(X= x_{i})$
$=a^2 V(X)$

これの平方根をとって

$\sigma(Y)=\sqrt{V(Y)}=|a| \sqrt{V(X)}$
$=|a| \sigma(X)$


模擬テストなどの偏差値とは何かと言うと、得点から平均点を引いて(これを偏差と言う)、この値を標準偏差で割って、それを 10倍して 50点を足した点数である。10 倍して50を足すのは値が小さすぎたり、負になっては気持ちが悪いためで、本質的ではない。だから、よく出て来る変数変換は

$Z=\frac{X-E(X)}{\sigma(X)}$

というものである。この値を $X$ の z値と言う。

【問題】 あるテストの平均点は 62.5 点で、標準偏差は 7.2 点であった。得点 $x$ の z値と、それの平均、分散、標準偏差を求めよ。---

【解】 z値は

$z=\frac{x-62.5}{7.2}$

であり、その各種統計量は

$E(Z)=\frac{1}{7.2}(E(X)-62.5)=\frac{0}{7.2}=0$,
$E(Z)=(\frac{1}{7.2})^2 V(X)=\frac{7.2^2}{7.2^2}=1$
$\sigma(Z)=\sqrt{V(Z)}=1$

このように 確率変数 $X$ を正規化すると、平均 0, 分散 1 になる。
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【第07講】 確率変数の和

サイコロ1個とトランプ1組52枚を用意し、サイコロを振ったのちトランプを1枚めくる。賞金はサイコロの出た目の100倍の金額とめくったトランプに書かれた数字(A=1,J=11,Q=12,K=13) の50倍の金額を合計したものを貰えるとしよう。賞金の期待値を求めよ。---などという問題があったとしよう。確率変数は、サイコロの出目を $X$, トランプの数字を $Y$ とすれば、賞金 $Z$ は $Z=100X+50Y$ のように確率変数の和になる。

そこで確率変数の和 $aX+bY$ ($a,b$ は定数) の統計量を調べよう。

【問題】 次の等式を証明せよ。---
(1) $E(aX+bY)=aE(X)+bE(Y)$
(2) $X,Y$ が独立のとき $V(aX+bY)=a^2V(X)+b^2V(Y)$

【証明】 (1) 左辺$=\displaystyle \displaystyle \sum_{i,j} (a x_{i}+b y_{j})P(X=x_{i},Y=y_{j})$
$=\displaystyle a \displaystyle \sum_{i,j} x_{i} P(X=x_{i},Y=y_{j}) + b \displaystyle \sum_{i,j} y_{j} P(X=x_{i},Y=y_{j})$
$=\displaystyle a \displaystyle \sum_{i} x_{i} \displaystyle \sum_{j} P(X=x_{i},Y=y_{j}) + b \displaystyle \sum_{j} y_{j} \displaystyle \sum_{i} P(X=x_{i},Y=y_{j})$
$=\displaystyle a \displaystyle \sum_{i} x_{i} P(X=x_{i},-\infty <Y<\infty) + b \displaystyle \sum_{j} y_{j} P(-\infty <X<\infty,Y=y_{j})$
$=\displaystyle a \displaystyle \sum_{i} x_{i} P(X=x_{i}) + b \displaystyle \sum_{j} y_{j} P(Y=y_{j})$
$=aE(X)+bE(Y)$
(2) 第1式の左辺$=E((aX+bY)^2)-E(aX+bY)^2$
$=E(a^2X^2+2ab XY+b^2Y^2)-(aE(X)+bE(Y))^2$
$=a^2E(X^2)+2ab E(XY)+b^2E(Y^2)-a^2E(X)^2-2abE(X)E(Y)-b^2E(Y)^2$
$=a^2\{E(X^2)-E(X)^2\}+2ab \{E(XY)-E(X)E(Y)\}+b^2\{E(Y^2)-E(Y)^2\}$
$=a^2V(X)+2ab \{E(XY)-E(X)E(Y)\}+b^2V(Y)$
あとは

$E(XY)=E(X)E(Y)$ $(X,Y$は独立)

を示せばよい。独立だと積の法則が成り立つので
左辺$=\displaystyle \displaystyle \sum_{i,j} x_{i} y_{j}P(X=x_{i},Y=y_{j})$
$=\displaystyle \displaystyle \sum_{i,j} x_{i} y_{j}P(X=x_{i})P(Y=y_{j})$
$=\displaystyle \displaystyle \sum_{i} x_{i} P(X=x_{i}) \displaystyle \sum_{j} y_{j} P(Y=y_{j})$
$=E(X)E(Y)$ ■


【問題】 1個のサイコロを振って出た目 $X$ の100倍の金額と、1組52枚トランプの中からめくった1枚に書かれた数字(A=1,J=11,Q=12,K=13) $Y$ の50倍の金額を合計したものを賞金としよう。賞金の期待値を求めよ。---

【解】 公式から出てくる $E(100X+50Y)=100E(X)+50E(Y)$ を利用する。
そこで $E(X)=\frac{1+2+3+4+5+6}{6}=\frac{21}{6}=\frac{7}{2}$, $E(Y)=\frac{1+2+3+\cdots+13}{13}=\frac{91}{13}=7$ を当てはめて、

$100 \times \frac{7}{2}+50 \times 7=700$ (円) …(答)

サイコロとトランプの平均を出すところで、等差数列の和の公式から出てくる、

$(1\times \frac{1}{n}+2\times \frac{1}{n}+\cdots+n\times \frac{1}{n}=\frac{n(n+1)}{2} \times \frac{1}{n}=\frac{1+n}{2}$

という公式を使った。例えば、サイコロの最小の目が 1 で最大の目が 6 だから、平均は足して2で割って 3.5 である。
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