多項式の除法や代入したときの値を求めるときに便利な計算法がホーナー(数学者の名前)の方法で、組立除法と呼ばれる。ただし、除法といっても除数は$x-\alpha$あるいは1次式に限られる。
被除数が3次式のときの計算法を証明しておこう。
まずふつうの筆算でやると下図である。
これを参考にしながら、組立除法をすると
で、たしかに計算が合っている。これで証明終わりだ。
筆算で$-\alpha$と書いていたところを$\alpha$にしたから、引くべきところが足すことになる訳だ。
この証明ですぐ分かるのは、余り(組立除法の右下部分)がちょうど被除数の多項式に$\alpha$を代入した値になっていることだ。これから分かることは
である。被除数が3次の場合は以上だが、次数が変わっても同様である。
【問題】 $x^3+ax^2+bx+1$ を $x-1$ で割ると余りは $4$ であり、$2x-1$で割ると余りは $\frac{3}{2}$
である。定数 $a,b$ の値を求めよ。(2010東北学院大学)---
【解】 除数が$2x-1$のとき、被除数$=(2x-1) Q(x)+R$ になったら $=(x-\frac{1}{2})\times 2Q(x)+R$とも書けるから、$x-\frac{1}{2}$で割った余りと同じだ。
より、$b=2-a$となるから、次の割り算はこれを使って
よって、$-\frac{1}{4}a+\frac{17}{8}=\frac{3}{2}$から$a$, 続いて$b$が求まる。
【答】 $a=\frac{5}{2},b=2-a=-\frac{1}{2}$
【問題】 $2x^3-3x^2+4x-5$ に $x=2$ を代入したらいくらになるかを関数電卓で厳密に計算したい。どのように計算したらよいか。---
【解】 関数電卓には累乗[$x^y$]のキーが付いている。$2^3$を計算すると、一見 8 と画面に出るが、電卓内部では 8 にはなっていないのである。「厳密に」と言ったのでそれではダメだ。なぜ
8 にならないかと言うと、電卓内部では$3 \log 2$ を計算して、さらに $e^{3 \log 2}$ を計算するという複雑な過程を経て計算したものを四捨五入しているので厳密に言うと
8 にはならないだ。
では、どのように計算するか。それに対し組立除法がヒントになる。
組立除法のアルゴリズムは、下ろす、掛ける、足す、掛ける、足す、… だったから、答の 7 を出すには
$((2 \times 2-3) \times 2+ 4) \times 2-5$
とやればよい。これなら掛け算と加減しか使っていないので、電卓でも計算誤差が生じない。
【蛇足】 電卓やパソコンが計算を間違えることはあるのかと、疑問に思う生徒がいるかもしれない。例えば Excel をパソコンで走らせて計算していると
"$1+1=1$" などとなることがある。筆者は今までに2回経験した。あちこちのセルをいっぱい参照して、その中に INT
関数などがあったりしたら、内部の数値(小数)を四捨五入するため、桁落ちしてこのようなことが起きる。このため最近の電卓では内部では12桁で計算し、表示は四捨五入して8桁にするなどの工夫をしている。
【問題】 $x^2-x-1=a(x-1)^2+b(x-1)+c $ が常に成り立つように定数 $a,b,c$ の値を定めよ。---
【解】 下図のように組立除法を2回やる。