数学Aで順列・組合せを既習であるとして、以下の定理を提示しよう。
【問題】$(a+b+c)^7$の展開式において、$a^3b^2c^2$の係数を求めよ。---
【解】$a+b+c$は定数項のない1次式だが、これを1次同次式または1次形式と呼ぶ。これの$n$乗を展開しても$a^ib^jc^k, i+j+k=n,$ のような$n$次式しか出てこない。
そこで$a^3b^2c^2$という$7$次式はいくつ出てくるだろうか。ここでひとまず交換法則が成り立たないとしてみる。
上図のように括弧が@からFまで7つあり、各括弧から$a,b,c$のいずれか1つを選んで掛け合わせればよい。すると例えば
$bacaabc$
が作られる。交換法則が成り立つのならば$a^3b^2c^2$になるが、これは全部でいくつ作られるかと言うと、aaabbccの「同じものを含む順列」だから
$\frac{7!}{3!2!2!}=210$個、一般には$\frac{n!}{i! j! k!}$個
である。よって$a^3b^2c^2$の係数は210 ……(答)
上に出てきた事実をまとめると、多項定理が出てくる。交換法則が成り立つならば「同じものを含む順列」を同類項として整理して、展開式はいろいろな同類項の和になる。よって
【公式】$(a+b+c)^n=\sum \frac{n!}{i! j! k!} a^ib^jc^k$
ただし$\sum$は$0 \leq i,j,k \leq n,i+j+k=n$となるすべての$(i,j,k)$をわたる和を意味する。
各同類項の係数$\frac{n!}{i! j! k!}$を多項係数と言う。
【問題】上の展開式で同類項は何種類出てくるか。---
【解】3種類の文字$a,b,c$から重複を許して$n$個を選ぶ重複組合せだから
$_{3}H_{n}=_{n+2}C_{n}=\frac{(n+)(n+2)}{2}$種類 ……(答)
今扱ったのは括弧の中が$a,b,c$の3項であったが、2項であれば二項定理となる。
【公式】$(a+b)^n=\sum \frac{n!}{i! j! }a^ib^j$
ただし$\sum$は$0 \leq i,j \leq n,i+j=n$となるすべての$(i,j)$をわたる和を意味する。
係数$\frac{n!}{i! j! }$を二項係数と言う。数Aで学んだようにこれは「$n$個から$i$個を選ぶ組合せ」$_{n}C_{i}=_{n}C_{j}$に等しい。実際問題として二項係数の値を求めるのに$\frac{n!}{i!
j! }$で階乗を使って計算するより、パスカルの三角形
←
パラパラまんが
を書いて、$_{n}C_{i}$だったら左から2番目に$n$と書かれた行に注目して、$n$という数字を1として、そこから右へ$2,3,4,\cdots,i$と数えていけば所期の値が得られる。$n<10$くらいだったら、階乗を使うより早く求められる。
パスカルの三角形を作る要領は隣り合う2項を足すと次の行の値が計算できる(下図参照)--ということだ。そうやって計算しても、$_{n}C_{r}=\frac{n!}{r!
(n-r)! }$の公式で計算しても結果は一致する。
実際、
$_{n}C_{r-1}+ _{n}C_{r}=\frac{n!}{(r-1)! (n-r+1)! } +\frac{n!}{r! (n-r)! }=n! \{\frac{r}{r!(n-r+1)!} +\frac{n-r+1}{r! (n-r+1)!} \}$
$=n! \times \frac{n+1}{r!(n-r+1)!} =\frac{(n+1)!}{r! (n-r+1)!}= _{n+1}C_{r}$
となるし、意味を考えて$n+1$個から$r$個を選ぶときに、ある1個を特別視してこの1個を含む組合せが$_{n}C_{r-1}$通りで、この1個を含まない組合せが$_{n}C_{r}$通りだから
$_{n+1}C_{r}=_{n}C_{r-1}+ _{n}C_{r}$
としてもよい。
【問題】 $(x+\frac{1}{x})^{10}$ を展開したときの $x^4$ の係数を求めよ。(2010大阪薬科大学)---
【解】 二項定理により、展開したときの各項は
$_{10}C_{k} x^k (\frac{1}{x})^{10-k}=_{10}C_{k} \frac{x^k}{x^{10-k}} =_{10}C_{k}
x^{2k-10}$
だから、$2k-10=4$ より $k=7$ と決まり、係数は $_{10}C_{7} =\frac{10 \cdot 9 \cdot 8}{3
\cdot 2 \cdot 1}=120$ …(答)
二項定理を使えば、次の公式を得る。
【公式】 $ (1+x)^n=\sum \frac{n!}{i! j!}1^i x^j \displaystyle = \displaystyle \sum_{k=0}^{n}
{_{n}C_{k} } x^k$
この公式を $x=1$ を代入すれば $2^n=\displaystyle\displaystyle \sum_{k=0}^{n} 1^k$ より
【公式】 $_{n}C_{0} + _{n}C_{1} + _{n}C_{2} + \cdots +_{n}C_{n}=2^n$
また、$x=-1$ を代入すれば $0^n=\displaystyle\displaystyle \sum_{k=0}^{n} (-1)^k$ より
【公式】 $_{n}C_{0} - _{n}C_{1} + _{n}C_{2} - \cdots +(-1)^n _{n}C_{n}=0$
または移項して
【公式】 $_{n}C_{0} + _{n}C_{2} + \cdots = _{n}C_{1} + _{n}C_{3} +\cdots
$
【問題】 $n \geq m$ のとき、次の等式が成り立つことを証明せよ。---
$_{m}C_{m}+_{m+1}C_{m}+_{m+2}C_{m}+\cdots +_{n}C_{m}=_{n+1}C_{m+1}$,
すなわち $\displaystyle \displaystyle \sum_{k=m}^{n} {_{k}C_{m}}=_{n+1}C_{m+1}$
【証明】 左辺は和だから、和の法則(場合分け)を使えばよい。
右辺は、$n+1$個の空所のうち $m+1$ヶ所に〇(残り$n-m$ヶ所に×)を入れる組合せ(同じものを含む順列)だが、これを次のように場合分けする。
[ア] 左端に〇を入れ、残り $n$ヶ所のうち $m$ヶ所に〇を入れるから、$_{n}C_{m}$通り。
[イ] 左端に×〇を入れ、残り $n-1$ヶ所のうち $m$ヶ所に〇を入れるから、$_{n-1}C_{m}$通り。
[ウ] 左端に××〇を入れ、残り $n-2$ヶ所のうち $m$ヶ所に〇を入れるから、$_{n-2}C_{m}$通り。
[中略]
[エ] 左端に×××…〇を入れ、残り $m$ヶ所のうち $m$ヶ所に〇を入れるから、$_{m}C_{m}=1$通り。
したがって
$_{n+1}C_{m+1}=_{n}C_{m}+_{n-1}C_{m}+_{n-2}C_{m}+\cdots+_{m}C_{m}$ ■
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