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【第01講】 不等号
【第02講】 不等式の性質
【第03講】 1次不等式を解く
【第04講】 連立不等式
【第05講】 絶対値記号を含む不等式
$1<2$ と $1>2$ のどちらが正しいのだろうか。
数学では前者が正しいことに決められている。これは音楽のクレッシェンド(だんだん大きく)とほぼ同じ記号だ。
これは決まりなのであって、自明ではない。実際、$>$ は座標軸に付いている矢印(→)に似ている。座標軸の→の方向に進めば数は大きくなるので、「
$1>2$」の方が正しい式だという生徒がわずかながらいる。
これに似たものにエレベーターの矢印ボタン(下図)がある。
エレベーターの箱の中に入って、上の階に行きたいとき、人はどっちのボタンを押すのが自然だろうか。上に行くときエレベーターは上昇するロケットみたいだから、炎が下に向けて噴き出しているような
▽ のボタンを押すと上の階に行くと思う人がわずかながらいるだろう。
このようなユニバーサル・デザインに気を払わないと、数学が理解できない人の気持ちが分からないだろう。数学は歴史が古いから、ユニバーサル・デザインの立場から見たらとんでもない数学記号がワンサカある。
ところで「$1 \leq 2$」は「$1 < 2$ または $1 = 2$」のことであるので、正しい不等式である。ときどき「$x^2 \geq
0$ は正しい不等式だが、$1 \leq 2$ は間違い」と思う生徒がいるので一言した。「$x^2 \geq 0$」は真とも偽とも言えない。$x$
が不定だからだ。限定しないと真偽が決定できない。例えば、$x=-1$ なら真、$x=i$ なら偽、「任意の実数 $x$ に対し、$x^2 \geq
0$」なら真である。
【不等号の読み方】
のように読む。さすがにいまどき「小なり・大なり」とは言わない。イコールの「イ」は、以上・以下の「位」と覚えればよい。
【問題】 $0<x$ を日本語でどう読むか。---
【解】 数式を日本語で読むとき、左辺を主語にすることが多い。(例えば、$1+1=2$ は「1足す1は2」と読む。だから日本の小学校では$2=1+1$
という等式は出てこない。諸外国では小1からこの式が出てくる。) そうすると
「$0$ は $x$ より小さい」
となるが、$x$ は注目されるアイテムだから、これを主語にして
「$x$ は $0$ より大きい」
となる。(主語が変われば形容詞が変わる。主語が変われば「受賞」が「授賞」に変わるようなものだ。)
【公式】 $a<b$ と $b>a$ は同値である。(他の不等号も同様。)---
上記の「左辺・右辺の全とっかえ」は当たり前ではあるが、$a<b \Rightarrow a-b<0 \Rightarrow -b<-a \rightarrow b>a$ などとやる生徒がいるので、注意した。
【蛇足】 数学の記号は合理的にできている、と信じて疑わない教員がいるので、次の問題を提示する。
【問題】 命題 $p,q$ について $p \supset q$ が成り立つとき、$p$ は $q$ であるための何条件か。---
【解】 $\supset $ は矢印のようなもので、尖っている方に矢が向いている。だから、$\supset $ は $\Rightarrow$(ならば)と同じである。$p
\Rightarrow q$ が真だから、$p$ は $q$ であるための十分条件。…(答)
(命題の真理集合をそれぞれ $P,Q$ とすると、$P \subset Q$ だから、全然合理的な記号とは言えない。)
【問題】 次の式を計算せよ。---
(1) $ab \div ab$
(2) $2 \times 3 \div 2 \times 3$
【解】(1) 日本独特の数式。外国ではたぶん $ab/(ab)$ と書くのだろう。もしかしたら $a \times b /(ab)$ かもしれないが、いずれにせよ答は $1$ …(答)
ただし、与式を $ab \div a \times b$ と解釈したら、答は $b^2$
(2) 与式$=6 \div 2 \times 3=3 \times 3=3^2=9$ …(答) これ以外の正答はない。
(1)と(2)を比較して、数学記号の不合理を味わってほしい。
$ax+b=c$ が1次方程式であり、等号を不等号(4種類あった)に変えた、例えば $ax+b<c$ が1次不等式である。方程式を解くとき移項とかしたように、不等式でもそれをやりたい。で、それって不等式でもやっていいことなの? という疑問が生じる。それを解決しよう。
まず、移項だが、 $-3<-2<-1<0<1<2<3$ の各々に $2$ を加えると、$-1<0<1<2<3<4<5$
となる。(下図)
つまり大小関係が保存される($2$ を加えることによって、大小が逆転するようなことはない。) 理由は上図のように数直線全体が右へ(正数を足した場合)か左へ(負数を足すか、正数を引いた場合)移動するだけで、大小関係は保存されるからだ。
【性質 】 $A<B \Rightarrow A+C<B+C$. ---
定数、しかも正なる数を掛けた場合、例えば $-3<-2<-1<0<1<2<3$ の各々を $2$倍してみよう。$-6<-4<-2<0<2<4<6$
となり、大小関係は保存される。(下図)
その理由は、$0$ を(相似の)中心として、左右に相似拡大(縮小)しているだけだからだ。全校集会で「2年〇組を中心に全体、開け!」ってやつだ。正数
$a$ で割るときは $\frac{1}{a}$倍と考えればよいから、乗除はひとつにまとめて、次の性質が成り立つ。
【性質 】 $C>0$ のとき、$A<B \Rightarrow AC <BC$. ---
では、負数倍はどうか? $-2$ 倍だったら $-1$倍した後、続けて $2$倍と考えればよいから、$-1$倍だけ考えよう。$-3<-2<-1<0<1<2<3$
の各々を $-1$倍すると $3>2>1>0>-1>-2>-3$ と、$0$ を中心にして大小関係が反転してしまう。(下図)
これをやった後、$2$ 倍しても大小関係は保存されるから、結局、負数倍すれば大小が反転する。
【性質 】 $C<0$ のとき、$A<B \Rightarrow AC >BC$. ---
$-3x \geq -6$
両辺に $-8x$ を加えた後、$-1$ を加えたと言ってもよい。この次は
$x \leq \frac{-6}{-3}$
左辺にあった $-3$ が右辺の下(分母)に移るのだが、これを移項とは言わない。(これを言い表す日本語がおそらく存在しない。) このとき不等号の向きが反転する点が最大の注意点である。なぜ逆向きになったかと言うと、両辺を負数 $-3$ で割ったからだ。(右辺の $-6$ は関係ない。)
不等号が逆向きになるのは、文字を左辺、定数項を右辺に移項したときに文字の係数が負の場合に限る。
答は $x \leq 2$
上に出てきた移項ではないが、移項によく似た操作についてまとめておこう。
【計算テクニック】 $\frac{ax}{by}=\frac{c}{d} \Rightarrow \frac{x}{b}=\frac{bc}{ad}
$. ---
左辺の上・下(分子・分母)にある数は、右辺の下・上に移動できる。たすきの形に移動できるわけだ。
2つの不等式を連立するということは、両方の不等式を同時に満たす値の範囲を求めることを意味する。つまり、共通集合 $A \cap B$ を求めるのである。共通集合を求めるには、図を描くのがよい。だけどベン図ではなく、数直線に図示するのがよい。
【問題】 次の連立不等式を解け。---
(1) $\left\{ \begin{array}{l} x<1 \\ x<2 \end{array} \right. $
(2) $\left\{ \begin{array}{l} x<1 \\ x>2 \end{array} \right. $
(3) $\left\{ \begin{array}{l} x>1 \\ x<2 \end{array} \right. $
(4) $\left\{ \begin{array}{l} x>1 \\ x>2 \end{array} \right. $
【解】 下図の赤いところが答だ。左から順に並べればよい。
(1) $x<1<2$ でも間違いではないが、$1<2$ の当たり前の部分は省いて、$x<1$
(2) 共通部分が空集合のときは、「解なし」とする。
(3) $1<x<2$ (読み方:$x$ は $1$ より大きく $2$ より小さい、$x$ は $1$ と $2$ の間、のように$x$を主語にする。)
(4) $2 <x$ ($x>2$でもよいのだが、答には「く」の字しか使わないと決めておくと間違いが減る。)
【問題】 連立不等式
$\left\{ \begin{array}{l} 3x-5<1\\ 1-2x \end{array} \right.$
を解け。(2010北海道工業大学)---
【解】 第1式から
$3x<6,x<2$
第1式から
$-2x<6,x>-3$
よって下図より $-3<x<2$ …(答)
実践的に、$<,>$ のときは白丸、$\leq,\geq$ は黒丸で表すというのが慣習である。
【蛇足】 等号付き不等号には、日本式の 「≦」 と欧米式の 「$\leq$」 がある。
次のような $A<B<C$ の形をした不等式をサンドイッチ型と呼んでおこう。これは2つの不等式から成る連立不等式
$\left\{ \begin{array}{}A<B \\ B<C \end{array} \right. $ …(答)
と同値である。
【問題】 不等式 $3x-5<x +1<2x+3$ を解け。(2010東京都市大学)---
【解】 次の連立不等式を解けばよい。
$\left\{ \begin{array} 3x-5<x+1 \\ x+1<2x+3 \end{array} \right. $
よって
$2x<6,x<3$,
$-x<2,x>-2$
したがって $-2<x <3$ …(答)
絶対値は符号(+、−)を外したものだから、例えば $|-3|=3,|3|=3$ である。つまり数直線上で原点からの距離($\geq 0$)を意味する。だから等式
$|x|=3$ を満たす $x$ は原点から左右に $3$ だけ飛んだ点が答になる。
不等式の場合は次のように、原点を中心として半径が $A$ より小さいか大きいかを判断する。
$A>0$ とするとき
$|x|<A \Leftrightarrow -A<x<A$
$|x|>A \Leftrightarrow x<-A,A<x$
$A \leq 0$ のとき(そんな問題はあまり出ないけど)は、$|x|<A $ が「解なし」で、$|x|>A$ の方は $A=0$
なら「$x \neq 0$」、 $A<0$ なら「すべての実数」である。
【問題】 $a$ は実数の定数とする。
(1) $|x-a|<2$ をみたす実数 $x$ の値の範囲を求めよ。
(2) $|x-a|<2$ をみたす正の実数 $x$ が存在するような $a$ の値の範囲を求めよ。
(3) $|x-a| <x+1$ をみたす実数 $x$ が存在するような $a$ の値の範囲を求めよ。
(4) $a$ の値が (3) の範囲にあるとき、$|x-a|<x+1$ をみたす実数 $x$ の値の範囲を求めよ。 (2010慶応大学・経済)---
【解】 (1) $-2 <x-a<2$ の各辺に $a$ を足して、$a-2<x<a+2$ …(答)
(2) 「存在」はたった1点であっても在ればよいのだ。だから(1) の答が正の領域に少しでも食い込めばよい。$0<a+2$ より $a>-2$
…(答)
(3) 与式を変形すれば、$-x-1<x-a<x+1 \Leftrightarrow \frac{a-1}{2}<x$ かつ
$a>-1$
ここで $a>-1$ でありさえすれば「解なし」にならずに済む。よって、答は $a>-1$
(4) $a>-1$ の方がクリアできれば、あとは $\frac{a-1}{2}<x$ …(答)