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集合の二項関係について述べておこう。実数間には、$a<b, a=b,a>b$の関係のうちどれか1つ、しかも1つだけが成り立つ。
集合の場合も似ていて

のうちのどれかが成り立つか、どれも成り立たない。「どれかが成り立つ」と言ったが、どれか1つのみではない。$A \subset B$と$A \supset B$が同時に成り立つことがあり、この場合には$A=B$も成り立つので、3つの関係がすべて成り立つ訳である。

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【第02講】 命題

命題とは、真(True) か 偽(False) かどちらか一方に決まる文章のことである。だから、次の文章はいずれも命題ではない。

「あP*9#」(無意味)、
「うさぎさん、こんにちは」(有意味だが真偽が決まらない)、
「うさぎは可愛い」(人により真偽が変わる)

きわどいのは

「$x+1=0$」、
「$(x+1)^2 \geq 0$」

である。この2文は厳密に言うと命題ではない。($x$が何を指しているか分からないから。これらを命題関数と唱える。$x$に何かを代入すると真偽が決定される。)上の文章は

「$x+1=0$となる実数$x$が存在する」(⇒だからそれを求めよ)、
「任意の実数$x$に対して$(x+1)^2 \geq 0$が成り立つ」(⇒だからそれを証明せよ)

の文において「存在する」や「任意の」といった限定詞が省略されていると見て、大目に見てやって命題であるとすることが多い。

さて、後者の命題は

「$x$が実数であるならば、$(x+1)^2 \geq 0$が成り立つ」

と書き直せる。数学では「ならば」を「$\Rightarrow$」で表す。だから

($x$が実数) $\Rightarrow$ ($(x+1)^2 \geq 0$)

これを集合の記号で表現すると

$x \in \{x| x \mbox{は実数} \} \Rightarrow x \in \{ x| (x+1)^2 \geq 0 \}$

左辺の集合を$P$, 右辺の集合を$Q$ とすれば

$P \subset Q$

ということである。つまり、全体集合$U$を例えば複素数全体の集合とか適当に決めておいて、命題関数$p(x),q(x)$を真ならしめる要素$x \in U$全体の集合をそれぞれ$P,Q$とすれば、

(任意の$x \in U$について)$p(x) \Rightarrow q(x)$

という複合命題には

$P \subset Q$

が対応する。

代表的な命題の演算には次のものがある。

(1) かつ(and) … $p \wedge q$ … $P \cup Q$に対応

(2) または(or) … $p \vee q$ … $P \cap Q$に対応

(3) 〜でない(not) … $\bar{p}$ … $\bar{P}$に対応

(4) ならば(if then) … $p \Rightarrow q$ … $P \subset Q$に対応

この中で間違いやすいのは「または」だ。日常語で「夕飯は和食かフランス料理にしよう」と言ったら、どちらか片方のみを食べることを意味するが、数学的には両方とも食べることを許容する。どちらか片方のみを取ることは ORではなく XORと呼ぶ。

ところで$p \Rightarrow q$ が成り立つ(真である)とき、$p$を$q$であるための十分条件、$q$を$p$であるための必要条件と呼ぶ。十分かつ必要であれば 、$p$($q$)を$q$($p$)であるための必要十分条件と言い、$p \Leftrightarrow q$と書く。

【問題】 実数$x$についての条件

$p: (x-2\sqrt{3})(x-\sqrt{11})>0$,
$q: x$は整数である

について、$p$は$q$であるための何条件か。(2015センター追試)---

【解】 2次不等式を解くと$x<\sqrt{11},\sqrt{12}<x$ である。

$3=\sqrt{9}<\sqrt{11}<\sqrt{12}<\sqrt{16}=4$

より、$\sqrt{11},2\sqrt{3}$はともに$3.***$という数である。この手の問題ではベン図でなく数直線(問題によっては座標平面)を描く。

命題に対応する集合は$P$が図の赤線部分で、$Q$は目盛りの部分だから、$P \supset Q$だから、$p \Leftarrow q$. $p$は矢印の終点だから必要条件である。…(答)
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【第03講】 真理表

複合命題では真理表(真偽表とも言う)が役に立つ。真を〇、偽を×で表すことにする。(アメリカ人はT=true, F=false と頭文字で表すことが多い。)

(1) 「かつ」

$p$$q$$p \wedge q$〇〇〇〇×××〇××××

(2) 「または」

$p$$q$$p \vee q$〇〇〇〇×〇×〇〇×××

(3) 「〜でない」

$p$$\bar{p}$〇××〇

(4) 「ならば」
真理表を書くのが難しいのがこれだ。「$p$ならば$q$」というのは、「$p$であるのにもかかわらず$q$にならないことは、起こらない」と同じだから、「$p$であり、かつ$q$でない」の否定と同値である。すなわち、

$"p \Rightarrow q" = "\overline{p \wedge \bar{q}}"$

$p$$q$$\bar{q}$$p \wedge \bar{q}$$p \Rightarrow q$〇〇××〇〇×〇〇××〇××〇××〇×〇

表の最右列を見ると、やたら〇が多い。偽になるのは、$p$(仮定)が真で、$q$(結論)が偽のときである。だから、命題が偽であることを証明するには、$p$が真で$q$が偽である例(反例と言う)を1つ示せばよい。

【問題】 「すべてのカラスは黒い」という命題を反証するにはどうすればよいか。---

【解】 命題を「$x$がカラスならば、$x$は黒い」と解釈する。反例は$x$はカラスなのに、$x$が黒くない、すなわち黒くないカラスである。黒くないカラスをたった1羽でよいから捕まえてきて見せれば命題が偽であることが示される。

これに反して「すべてのカラスは黒い」が真であることを立証するのは大変で、(論理的には)世界中のすべてのカラスを捕まえてきて色を調べなければならない。カラスだからいいけど、「すべてのフグには毒があって、食べたら死ぬ」だったらいくら命があってもたまらない。
そこで、次のような疑問を持つ生徒がいるだろう。万有引力の法則はすべての物体に対して実験を施して得た結果でないのに、なぜ林檎が落ちるのを見ただけで正しいと立証できたのかという問題である。これは科学哲学、認識論の問題であって語れば1冊の本になってしまう。(イデオロギーとか、パラダイムが関与しているとだけ言っておこう。)

ところで、表の$p$の列を見ると、$p$が偽でありさえすれば命題は真になる。だから「もし陽が西から上れば、ヘソが茶を沸かす」は論理的に正しい。
こんな例をいくら考えても下らないと思うのは早計だ。
数学的帰納法の第2段で「$n$のとき正しいと仮定すれば、$n+1$のときも正しい」を証明するのだが、そんなの証明できる訳ない、という生徒がいる。例えば$n=100$だとしてみよう。$n=1$のときに正しいことは第1段で示したが、$n=100$のときは現時点ではまだ正しいことが示されていない。それでも「$n$のとき正しいと仮定」してよいのか、という疑問なのだ。「$n$のとき正し」くないと仮定が偽だから、結論の真偽にかかわらず第2段の証明は正しいのから、なんら問題はないのである。

さて、昔は帰謬法と言うことが多かったけど、漢字の関係で今は背理法と呼ばれる証明法について述べる。誤謬(矛盾)に帰着させるという意味だ。「$p$ならば$q$」の真理表を見れば、偽の場合が決して起きないことを言えばよいことが分かる。偽になるのは「$p$真かつ$q$偽」の場合だから、$q$が偽であると仮定して論を進め、最後に$p$が真であることを仮定していたから、それらを合わせて矛盾($x$や$n$の値にかかわらず常に偽であること。論理的に不合理なこと)を導けば証明が完了する。

【問題】 (1) 有理数と無理数の和は無理数であることを証明せよ。 (2) 命題「有理数と無理数の積は無理数である」は偽である。なぜか。---

【証明】 (1) 有理数を$x,y$, 無理数を$\alpha$で表す。結論を否定して和が有理数になったと仮定する。$x+\omega=y$となるから、$\omega=y-x$ だが、有理数は加法について閉じているから右辺は有理数。しかるに左辺は無理数であったから、矛盾。■
(2) 初めから偽だと分かっているから、いきなり反例が思いつければそれに越したことはない。もし$x \omega=y$ならば、$\omega=\frac{y}{x}$ となり、矛盾のように見えるが、先と違って有理数が閉じているのはゼロ割を除く除法だから、$x=0$であってはならない。これでやっと反例に辿り着いた。例えば$x=0$で$\omega=\sqrt{2}$とすればよい。この2つは有理数と無理数だが、積は0で有理数。これが反例となって、命題は偽。■
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【第04講】 命題の演算

命題と集合には対応関係があったから、命題の演算について、例えば次の公式が成り立つ。

最も大事な公式は前講で挙げた

であろう。

右辺を変形してみよう。

$\overline{p \wedge \bar{q}}=\overline{\bar{q} \wedge p }=\overline{(\bar{q}) \wedge \overline{(\bar{p}}) }$
$=( \bar{q} \Rightarrow \bar{p}) $

ということは、

である。これを日本語で言うと、「ならば形式の命題は、仮定と結論を入れ替えて両方ともそれを否定した命題と同値」ということになる。この「仮定と結論を入れ替えて両方ともそれを否定した命題」のことを元の命題の対偶と言う。同値とは、真偽が一致することである。


【例】 「火のないところに、煙は立たぬ」(=「火がない $\Rightarrow$ 煙は立たない」)の対偶は、「煙が立つ $\Rightarrow$ 火がある」だから

「煙が立つところには、必ず火がある」(=煙を見たら火事の可能性があると思え。)

となる。この諺が正しければ(間違いなら)、それの対偶も正しい(間違いだ)。


対偶によく似たものに、逆がある。は、ならば形式において仮定と結論を入れ替えただけの命題である。

【例】 「偶数同士の積は偶数」(=「$a,b$がともに偶数 $\Rightarrow ab$は偶数 」の逆は、

「$ab$が偶数なら$a,b$はともに偶数」

元の命題は真だが、逆は偽である。(反例:$a=1,b=2$) 元の命題と逆は、同値であることもそうでないこともある。それを言い表した諺が「逆は必ずしも真ならず」である。

【問題】 $c$を$c \geq 4$なる整数とする。整数$n$に関する2つの条件、

$p:n^2-8n+15=0$
$q:n>2 \wedge n<c$

がある。「$p \Rightarrow q$」の (1) 逆と、 (2) 対偶を求めよ。

【解】 (1) $q \Rightarrow p$ のことだから、「$(n>2 \wedge n<c) \Rightarrow n^2-8n+15=0$」 …(答)
(2) $\bar{q} \Rightarrow \bar{p}$ のことだから、「$(n \leq 2 \vee n\geq c) \Rightarrow n^2-8n+15 \neq 0$」 …(答)

ところで、仮定と結論を入れ替えずに両者を否定した命題:「$\bar{p} \Rightarrow \bar{q}$」のことを元の命題のと言う。私はいまだかつて数学の本でこの言葉に出くわしたことがない。
裏は対偶の逆と同じだから、逆と同様に元の命題の真偽とは無関係である。
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