$(3+\sqrt{2}) \sqrt{2}$ ではダメとはすぐ分かり、また$(3+\sqrt{2}) (3+\sqrt{2})$(図・中)でも√ が消えないことが分かる。ルートを消すには片方をマイナスにするしかないから、図・右のようになる。
【答】$(3+\sqrt{2})(3-\sqrt{2}=3^2-\sqrt{2}^2=7$
中学校の問題にこの方法を適用すると次のようになる。$\alpha =\frac{1}{\sqrt{2}}$の分母を有理化するには、理屈から言って、分母の共役数$-\sqrt{2}$を分母・分子に掛けて
$\alpha=\frac{-1 \sqrt{2}}{-\sqrt{2}\sqrt{2}}=\frac{-\sqrt{2}}{-2}$
とやるのが本筋ということになる。
では次の問題。
【問題】$2+\sqrt{3}+\sqrt{7}$に何か無理数を掛けて有理数にせよ。---
【解答】タイル図から試行錯誤的に解いてみよう。
⇒
図・左だとダメだからまず$\sqrt{21}$を消すために$2+\sqrt{3}-\sqrt{7}$を掛けてみよう。
$(2+\sqrt{3}+\sqrt{7})(2+\sqrt{3}-\sqrt{7})=(7+4\sqrt{3})-7=4\sqrt{3}$
となるから、さらに$\sqrt{3}$を掛ければ、12になる。
【答】$\sqrt{3}(2+\sqrt{3}-\sqrt{7})$を掛ければよい。
【別解】$2+\sqrt{3}+\sqrt{7}=(2+\sqrt{3})\cdot 1+1 \cdot \sqrt{7}$($1,\sqrt{7}$が基底)と考えて、共役数を掛けると
$(2+\sqrt{3}+\sqrt{7})(2+\sqrt{3}-\sqrt{7})=(7+4\sqrt{3})-7=4\sqrt{3}$
次は$\sqrt{3}=0 \cdot 1+4 \cdot \sqrt{3}$($1,\sqrt{3}$が基底)と考えて、共役数を掛けて
$4\sqrt{3} (-4\sqrt{3})=-48$
【別答】
$-4\sqrt{3}(2+\sqrt{3}-7)$を掛ければよい。……【答】
先の答とは少し違うが、本質的には同じだ。
新課程の有理化問題は2項程度となっているから教科書には今の問題は出てこず、出てくるのは次のものだ。
【問題】$\sqrt{7}+\sqrt{3}$に何か無理数を掛けて有理数にせよ。---
【解答】$\sqrt{7}-\sqrt{3}$を掛ければ$(\sqrt{7}+\sqrt{3})(\sqrt{7}-\sqrt{3})=4$になる。
【別解】共役3つを掛けてノルムを作ると
$(\sqrt{7}+\sqrt{3})(\sqrt{7}-\sqrt{3})(-\sqrt{7}+\sqrt{3})(-\sqrt{7}-\sqrt{3})=(\sqrt{7}+\sqrt{3})^2(\sqrt{7}-\sqrt{3})^2=16$
【別解】の方が数学の理屈に適っているのだが、高校では【解答】のようにタイル図などで試行錯誤的に求めるか、公式$(x+y)(x-y)=x^2-y^2$を当てはめて解く。
分母の有理化をもう少し練習してみよう。
【問題】$\frac{4}{3+\sqrt{5}} +\frac{1}{2+\sqrt{5}}$を計算せよ。(2010北海道薬科大学)---
【解答】与式$=\frac{4(3-\sqrt{5})}{(3+\sqrt{5})(3-\sqrt{5})} +\frac{(\sqrt{5}-2)}{(\sqrt{5}+2)(\sqrt{5}-2)}$
$=(3-\sqrt{5})+(\sqrt{5}-2)=1$ …(答)
コツは$2+\sqrt{5}$のように前項の方が後項より小さいときは、ひっくり返して$\sqrt{5}+2$とするところ。
√ と言えば近似値が話題になる。近似値は次の3つくらいは語呂合わせで覚えておくと、何かと便利だ。
$\sqrt{2}=1.41421356$(一夜一夜に人見頃),
$\sqrt{3}=1.7320508$(人並みに奢れや),
$\sqrt{5}=2.2360679$(富士山麓オウム泣く)
という話をしたら、どうやって算出したんですかと生徒から質問されたことがある。
そこで$\sqrt{5}=2.2360679$を例にとって、その算出法(開平法という)を図を使って説明しよう。
(1) 整数の平方数で5に内輪で最も近い$r$は$2^2=4$で、$r=2$である。残差は$z=5-r^2=1$
(2) $z$を$r$の2倍で割った数$\frac{z}{2 r}=\frac{1}{4}=0.25$に内輪で最も近い小数1位の数は$0.2$だから、$r=2+0.2=2.2$である。残差は$z=5-r^2=0.16$
(3) $z$を$r$の2倍で割った数$\frac{z}{2 r}=\frac{0.16}{4.4}=0.036\cdots$に内輪で最も近い小数2位の数は$0.03$だから、$r=2.2+0.03=2.23$である。残差は$z=5-r^2=0.0271$
(4) $z$を$r$の2倍で割った数$\frac{z}{2 r}=\frac{0.0271}{4.46}=0.0060\cdots$に内輪で最も近い小数3位の数は$0.006$だから、$r=2.23+0.006=2.236$である。残差は$z=5-r^2=0.000304$
(5) 以下繰り返し
この求め方は原理的なもので実際的なものではない。電卓で√ の計算ができるが計算機の内部でこのような開平法が使われている訳ではない。(微分を応用したアルゴリズムで求めている。)
実数を表すには小数を使うという手がある。小数には
(ア) 有限小数(長さが有限)……$1.23$など、これは明らかに有理数。
(イ) 有限小数にならない循環小数……$1.232323\cdots$など、後述するようにこれも有理数。
(ウ) 循環しない無限小数……$0.101001000100001000001\cdots$など、これは無理数(後述)。
の3種類がある。(これ以外にないことは明らかだろう。)これらはいずれも実数である。逆に、実数は(ア)、(イ)、(ウ)のどれか一つになる。なぜならば、もしある有限小数に等しくならなければ、この実数と有限小数の間に別の有限小数を取ることができる。(有理数の稠密性!)
つまり所与の実数に対し、それにいくらでも近い有理数(近似有限小数)が取れるので、この操作を必要な回数だけ繰り返せば、望みの近似値が得られる。(所与の実数はこの近似有理数の列の極限値である。)
有理数$\frac{a}{b}$を小数に直すには分子を分母で割ればよい。
例えば$\frac{1}{2}=0.5$, $\frac{3}{5}=0.6$である。いま両方とも有限小数になったが、分母の素因子が2または5のみならば有限小数になる。実際、$\frac{c}{2^a
\cdot 5^b}$において$a \geq b$ならば
$\frac{c}{2^a \cdot 5^b}=\frac{c \cdot 5^{a-b}}{2^a \cdot 5^a}=\frac{c \cdot 5^{a-b}}{10^a}$
小数点がずれるだけだから有限小数である。($a<b$のときも同様。) 逆に、有限小数は$\frac{c}{10^a}$に直せるが、約分したところで分母には2,5以外の素因子は現れない。
次は循環無限小数になる例である。$\frac{1}{3}=0.333\cdots=0.\dot{3}$は、このようにドット$\dot{}$を使って表す。
$\frac{1}{7}=0.\dot{1}4285\dot{7}$は
のように6個(この6を循環節の長さと言う)の数字の繰り返しになる。そして循環節の長さは必ず、(分母-1)以下である。なぜなら、何回も7で割っていったたときにその余りに0が出なければ永久に割り切れない訳だが、割り切れないときのありうる余りは1から6までの6通り以下だからである。
この割り算のコツはかつて何処かに出てきたのと同じ余りが出たら、そこで計算を中止する。それ以後は繰り返しになるからだ。そして同じ余りが出るまでに何回割ったかに注意して循環節(どこからどこまでの繰り返しなのか)を決定することだ。
分母が素数$p$なら循環節の長さは$p-1$になるかと言うと、そんなことはなくて、例えば$\frac{1}{11}=0.\dot{0}\dot{9}$と循環節の長さはたったの2である。