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デーデキント著、河野伊三郎訳『数とは何か』岩波文庫、1961年
や、それの別訳である、
デデキント著、渕野昌訳『数とは何かそして何であるべきか』ちくま学芸文庫、2013年
がお薦め。デデキントの切断により実数体を構築する話が書かれている。理論を構築するときの筆者のワクワク感が伝わってくる。
【問題】次の数体系が四則演算について閉じている(〇)か否(×)か、表を埋めよ。「除法」とある所はゼロ割を除いて考える。
マウスを置くと答が出ます。

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【第03講】 ルートの計算

有理数の体系$\mathbb Q(\sqrt{2})$は四則演算について閉じているのだが、それはどんな数の集合なのだろうか。
$1$と$\sqrt{2}$に対して、足したり引いたり掛けたりすれば

$a_{0}+a_{1}\sqrt{2}+a_{2}\sqrt{2}^2+a_{3}\sqrt{2}^3 +\cdots$

となるが、($(\sqrt{2})^2$と書くことが多いが$\sqrt{2}^2$も正しい) $\sqrt{2}^2=2$に注意すれば、上記の数は

$a+b\sqrt{2},a,b \in \mathbb Q$

となる。今度はこれで除法を行うと($(c,d) \neq (0, 0)$とする)

$\frac{a+b\sqrt{2}}{c+d\sqrt{2}}=\frac{(a+b\sqrt{2})(c-d\sqrt{2})}{(c+d\sqrt{2})(c-d\sqrt{2})}
=\frac{(ac-2bd)+(bc-ad)\sqrt{2}}{c^2-2d^2}=\frac{ac-2bd}{c^2-2d^2}+\frac{bc-ad}{c^2-2d^2}\sqrt{2}$

となって、結局四則に関して閉じていることが分かる。

以上で、$\mathbb Q(\sqrt{2})$という数体系は
   $a \cdot 1+b \cdot \sqrt{2}$
という$1,\sqrt{2}$ を基底(基本ベクトルのようなもの。同じではないが。)とし、有理数を係数に持つ数からなる集合である。

【述語】方程式$x^2-2=0$の解は$\sqrt{2},-\sqrt{2}$の2つだが、これらを互いに共役な解と呼ぶ。
$a+b\sqrt{2}$という数において$\sqrt{2}$をそれと共役な$-\sqrt{2}$で置き換えた数

$a-b\sqrt{2}$

をもとの数の共役数と呼ぶ。共役数同士を掛けると

$(a+b\sqrt{2})(a-b\sqrt{2})=a^2-2b^2$

のように有理数になるが、これを$a+b\sqrt{2}$のノルム(norm)と言う。

【問題】$a+b \sqrt{3}$($a,b$は有理数)からなる集合は四則演算について閉じていることを示せ。---
【証明】加減については
$(a+b \sqrt{3})\pm(c+d \sqrt{3})=(a\pm c)+(b\pm d)\sqrt{3}$
より、乗法については
$(a+b \sqrt{3})(c+d \sqrt{3})=(ac+3bd)+(ad+bc)\sqrt{3}$
より、除法については$(c,d) \neq (0,0)$として
$\frac{a+b\sqrt{3}}{c+d\sqrt{3}}=\frac{ac-3bd}{c^2-3d^2}+\frac{bc-ad}{c^2-3d^2}\sqrt{3}$
より、四則について閉じていると分かる。■

これでなぜ分母を有理化するのかが分かる。それは$a+b\sqrt{2}$という要素などからなる数体が除法について閉じていることを逐一具体的な数にあたって確かめる行為なのである。そんなの、閉じているのは知っているよ、というのであれば有理化しなくてよい理屈になる。実際、$\sin \frac{\pi}{4}=\frac{1}{\sqrt{2}}$と書くことが多いし、$\frac{1}{\sqrt{3}}$を$\frac{\sqrt{3}}{3}$に直していたら却って複雑になってしまう。(センター入試はすべて分母を有理化させた解答にさせていた。分母に√ が来ると解答欄に書くと、それがヒントになって簡単に解けてしまう問題があるのかもしれない。) 本当に分母を有理化して意味があるのは、$\frac{2}{\sqrt{2}}$のような問題だけだ。

そもそも、なぜ共役な無理数で分母が有理化できると分かったのかを振り返ってみよう。例えば

【問題】$3+\sqrt{2}$に何か無理数を掛けて有理数にせよ。---
【解答】
   

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