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プリント教材の版下はExcelで作図する。でも作りにくい。上図のように三角形でなく、下図のような四角形にしてもよいのだ。
ところでコレって、格子状の街路を最短距離で行く経路の個数を表している。だから、パスカルに現れる数値は組合せの数(二項係数とも言う)なのである。

この「各交差点に、左にある数と上にある数を足したものを書く」というルールでやっていけば、次のような問題が解ける。

【問2-2】 下図のような街路がある。×印の通行止2ケ所のほかに冠水して通れない道があり、立体交差が1ケ所ある。
A地点からB地点に遠回りせずに行く経路の数を求めよ。---

【答】
22通り

このような問題は簡単に作ることができるので、生徒同士で作問して相手に解かせるのも楽しい。

パスカルの三角形をめぐっては、塗り絵の問題も面白い。

【問2-3】 パスカルの三角形において、偶数を赤、奇数を青で色塗りせよ。---

【答】

 これを発展させ、色数を増やすのもよい。

【問2-4】 整数を 3 で割ったときの余りは 0, 1, 2 のいずれかである。3 種類の余りに 3 色を割り当てて色塗りをせよ。---

【解】 逐一、二項係数の値を3で割ってもよいのだが、下図の [色塗りパターン] を作成しておいて、これをチラ見しながら塗るのが楽だ。この色塗りパターンは次図の [和の演算表] から作ることができる。これを(mod)が 3 の足し算と呼ぼう。

      [色塗りパターン]
上のパターンでは、同じ数字のところに同じ色が塗られている。
和の総当たりは $3 \times 3=9$ 通りだが、交換則が成り立つことから $_{3}H_{2}=6$ 通りの色塗りパターンとした。


 [和の演算表]
授業では、色数をさらに増やして mod.7 の足し算を計算させて、7 色の色鉛筆を使って塗り絵をさせたこともある。色数はここらへんが限界で、これより増やすと色弱でなくても色の区別がつかなくなる。

$mod.n$ の和ばかりじゃ面白くない。次節において、積の計算をしてみよう。
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§3. 合同式における乗除

【問3-1】 法が 6 の積の演算表を作れ。---

【答】
掛け算九九の表だ。0 の行と、0 の列は結果が 0 と明らかだから省略してある。しかしそれ以外にも掛けて 0 になるところがある。2×3 や 3×4 などである。これらを零因子と呼ぶ。なぜこうなるかと言うと、法が合成数だからだ。

では「法が素数なら零因子は生じないと言っていいかな」と、次の段階に進む。生徒の反応に対応して、証明させるもよし、具体的に法が素数の場合の積の演算表を作らせてもよいだろう。

零因子があったら除法ができないことが起きる。分母が零因子だと倍分して分母が 0 になってしまうからで、例えば
$\frac{5}{ 2}=\frac{5\times 3}{2\times3}=\frac{3}{0}=$?
は計算できない。2の段の九九を見ても分かることである。でも法が素数なら、零因子がないだけでなく除法が必ずできる(もちろん0で割ることを除く)。

【問3-2】 13 を法とするとき、$6\div7$ を計算せよ。---

【解】 7 の逆数が分かればよい。法 13 の積の演算表(または 7 の段の九九の表だけでもよい)を作ればよいのだが、そこまでしなくても
$7\times 1=7,  7\times 2=14=1, \cdots$
となるから、逆数は $1/7=2$ とすぐ分かる。よって
$6 \div7=6\times(1\div 7)=6\times2=12$ (答)


【問3-3】 105 を法とするとき、38 の逆数を求めよ。---

【解】 105 は合成数なのだが、38 と互いに素だから(38 は法 105 の既約剰余類に属すると言う)、逆数を持つ。【問1-2】の(答)より

$38\times 47-105\times 17=1$
だったから、法 105 の世界では
$38 \times 47=105\times17+1=1 (mod.105)$
となる。よって $\frac{1}{38}=47$ (答)
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§4. 循環小数

【問4-1】 下図・左をヒントに、$\frac{1}{2}$ を小数に直せ。---
「先生、商の 4 は 5 の間違いじゃないですか」
「4 でも 5 でもどっちも正解なんだよ」
「次の商は 10 ですよね」
「□の中には 1 桁の数しか入れられないよ」
「それじゃ、9 にするか。アレ、永久に割り切れなくなっちゃった」

【答】 答は上図の右。
$\frac{1}{2}=0.4999\cdots$
循環小数になる。つまり、有理数はすべて循環小数に直せる訳だ。

この答を信じがたいと言う生徒が多いので、
$x=0.4999\cdots$ とおいて、$10x=4.9999\cdots$ から引いて
$9 x=4.5$
$x=0.5$
と、有限小数にも直せることを示す。

あるいは $\frac{1}{3}=0.333\cdots$ の 3 倍が
   $1=0.999\cdots$
だから、
   $0.4999\cdots=0.999\cdots-0.5=0.5$
とやってもよい。

結局、既約分数において、分母が 2 と 5 以外の素因数を含まなければ、有限小数にも循環小数にも直せることが分かる。

次に、循環小数にしかならない分数を扱う。

【問4-2】 $\frac{1}{7}$ を循環小数に直せ。---
繰り返し 7 で割るのだが割り切れない。だから余りは 1〜6 の 6 種類のうちのどれか。だから循環節の長さは高々 6 になるのは確かなのだが、この場合は最長の 6 になる。

分母が素数 $p$ だったら、循環節の長さはいつでも $p-1$ になるかというと、そうでもない。分母= 7 のときの上の割り算を分析すると
   $10=3 (mod. 7)$,
   $10^2=3\times10=30=2$,
   $10^3=2\times10=20=6$,
   $10^4=6\times10=60=4$,
   $10^5=4\times10=40=5$,
   $10^6=5\times10=50=1$
というように、10 の累乗を計算すると(0以外の) 1〜6 のすべてが出てくるので、循環節が最長となるのである。

ということは、10 進法の 10(=3) が法 7 の原始根になっていることを意味する。


【問4-3】 法 11 において、10 は原始根になるか。---

【解】 
   $10^1=-1 (mod. 11)$
   $10^2=-10=1$
2 乗でもう 1 になってしまう。($10=-1$ だから 2 乗で 1 になるのは当たり前ではある。) 循環節の長さは 2 であって、実際

$\frac{1}{11}=0.090909\cdots$
である。(答)原始根ではない。


【問4-4】 法11における原始根を探せ。---

【解】 2 の 1 乗、2 乗、3 乗、…、10 乗を計算すると
  $2, 4, 8, 5,10, 9, 7, 3, 6, 1$ (*)
と 0 以外のすべての数を亘るから、2 は原始根だ。(答) 2

ちなみに、(*)において偶数番目の数 4, 5, 9, 3, 1 を 11 の平方剰余(略して剰余)と呼び、奇数番目の 2, 8, 10, 7, 6 を平方非剰余(非剰余)と呼ぶ。文法的には「非平方剰余」ではないかと思うが、歴史的にこのような術語になったのだろう。

2 以外でも原始根になるかと言うと、必ずしもそうはならず例えば 3 だと(*)より

$3=2^8, 3^5=2^{40}=1^4$
と 5 乗で 1 になってダメ。2 以外で原始根になるのは 6, 7, 8 だけである。それを知るには下図の円盤を描けばよい。
ここには 1 の(複素)10乗根
   $\cos \frac{2k\pi}{10}+i \sin\frac{2k\pi}{10}$
が描かれている。そして原始根は1の原始10乗根(10乗未満ではダメで、10乗で初めて1になる複素数のこと)に対応する。だから、(*)の10個の数のうち、〇印を付けた指数が10と互いに素である、
   1乗(=2),3乗(=8),7乗(=7),9乗(=6)
が原始根だ。(答)2,6,7,8


原始根を探すには実は Excel を使えば楽勝だ。例えば mod.7 の場合、2〜6 を各々 2 乗、3 乗、… した結果を作ると下表のようになる。

最下行を見ればどれでも 6 乗で 1 になること (フェルマーの小定理) が見て取れるが、6 乗するまで 1 が出てこないのは 3 と 5($=3^5$ ) のみなので、この 2 数が原始根と分かる。法が変わっても Excel なら即座に原始根が見つかるし、10 の累乗の列を見れば循環節の長さが $p-1$ になる分母 $p$ もたやすく見つかる。

でも情報科でなく数学の授業でパソコンを使えるのはよほど条件のよい学校だろう。

では、Excel を使わずに原始根を求めるにはどうすればよいか。

【問4-5】 法 17 の原始根をすべて求めよ。---

【解】 小さい数から試す。初めは 2 だ。(小さい数から試す流儀の他に、10 に近い数から試す流儀もある)
2 の 1 乗、2 乗、3 乗、4 乗を計算すると
   $2$,
   $2^2=4$,
   $ 2^3=8$,
   $ 2^4=16=-1$
4 乗が $-1$ だから 8 乗で 1 になる。だから 2 は原始根ではない。ちなみに 5 乗〜 8 乗は
   $-2=15$,
   $-4=13$,
   $-8=9$,
   $-16=1$
ここに出てきた 8 個の数は原始根になりえない。原始根の候補になるのは残りの 8 個の、
   $ 3, 5, 6, 7, 10=-7, 11=-6, 12=-5, 14=-3$
である。
今の場合、原始根は 16 乗して初めて 1 になる数のことだから、8 乗では $-1$ になる。(素数を法とする世界では、2次方程式 $x^2=1$ の解は高々 2 個であるという性質が成り立つ。)
$-1=16(mod.17)$ だから、4 乗では$\pm 4$ になればよい。
そこで上の候補のすべてに当たってみると
   $(\pm 3)^4=81=13=-4$,
   $(\pm5)^4=25^2=8^2=64=13=-4$,
   $(\pm6)^4=36^2=2^2=4$,
   $(\pm7)^4=49^2=(-2)^2=4$
なんとすべてが生き残る。
したがって法 17 の原始根は
   $\pm3, \pm5, \pm6, \pm7$
で、円盤を描くと下図になる。3 を
   $\cos \frac{2\pi}{16}+i \sin\frac{2\pi}{16}$
に対応させている。16と互いに素な数はすべての奇数だから、図中8個の〇印が原始根になる。

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