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内積って何ですか?
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§0. はじめに

数学Bの教科書では、2つのベクトル$\vec{a}=(a_{1},a_{2}),\vec{b}=(b_{1},b_{2})$ の内積を

$\vec{a} \cdot \vec{b} =|\vec{a} || \vec{b} |\cos \theta$ … (1)

で定義した後、公式

$\vec{a} \cdot \vec{b} =a_{1}b_{1}+ a_{2}b_{2}$ … (2)

を証明する。定義と公式がまるで違うので、「内積って一体何なのですか」という質問がよく出る。
ある人は「内積って要するに余弦定理のことだよ」と言った。そのとき私は「そりゃ、ないだろ」と思った。
その人は、余弦定理を使って公式(2)が証明できる、という意味ではなく余弦定理が内積の本質だと主張しているのである。
それに対し、私がおかしいと思ったのは内積は$n$次元空間でも考えられるのに、余弦定理は2次元平面だけにおける三角形の定理ではないか。内積=余弦定理という捉え方は狭すぎると思う。

§1. 空間の計量を決めるもの

私の考えは、発想を逆転させて

内積(2)は空間の計量(距離と角度)を規定する

というものである。公式(2)の方を内積の定義と考えるのである。$n$次元空間におけるベクトル

$\vec{a}=(a_{1},a_{2},\cdots,a_{n}),\vec{b}=(b_{1},b_{2},\cdots,b_{n})$

の内積を

$\vec{a} \cdot \vec{b} =a_{1}b_{1}+ a_{2}b_{2}+\cdots + a_{n}b_{n}$

と定義する。

§2. $n(>3)$次元空間では

$n(>3)$次元空間における距離は、目に見えないわけだがこれを

$\sqrt{a_{1}^{2}+ a_{2}^{2}+\cdots + a_{n}^{2}}=\sqrt{\vec{a} \cdot \vec{a}}$

と、内積で定義する。角度の方はコーシー・シュバルツの不等式

$(a_{1}b_{1}+ a_{2}b_{2}+\cdots + a_{n}b_{n})^{2} \leq (a_{1}^{2}+ a_{2}^{2}+\cdots + a_{n}^{2})(b_{1}^{2}+ b_{2}^{2}+\cdots + b_{n}^{2})$

が成り立つことから

$\cos \Theta =\frac{a_{1}b_{1}+ a_{2}b_{2}+\cdots + a_{n}b_{n}}{\sqrt{a_{1}^{2}+ a_{2}^{2}+\cdots + a_{n}^{2}}\sqrt{b_{1}^{2}+ b_{2}^{2}+\cdots + b_{n}^{2}}}$

(右辺は$-1$以上$1$以下である)により一意に決まる$\Theta,0 \leq \Theta \leq \pi$を$n(>3)$次元空間における角と定義する。つまり

$\cos \Theta = \frac{ \vec{a} \cdot \vec{b} }{ \sqrt{\vec{a} \cdot \vec{a}}\sqrt{\vec{b} \cdot \vec{b}}}$

のように角も内積で定義するわけだ。

§3. $n=2,3$の場合は

$n(>3)$次元空間は目に見えない世界だったが、$n=2,3$の場合は目に見える。このときこそ余弦定理

$\cos \theta = \frac{ |\vec{a}|^{2} + |\vec{b}|^{2} - |\vec{a} -\vec{b}|^{2} }{2|\vec{a}| |\vec{b}|}$

より

$= \frac{ \vec{a}\cdot \vec{a}+ \vec{b}\cdot \vec{b}-(\vec{a}- \vec{b})\cdot(\vec{a}- \vec{b})}{2|\vec{a}| |\vec{b}|}$
$= \frac{ 2\vec{a}\cdot \vec{b}} {2|\vec{a}| |\vec{b}|}$
$= \frac{ \vec{a}\cdot \vec{b}} {|\vec{a}| |\vec{b}|}$

だから、さきの私の定義による$\Theta$と2つのベクトルが実際になす角$\theta$が一致することが証明できた。($n>3$なら「定義」で、$n=2,3$なら「証明」だ。)
最後の等式の分母を払えば

$ \vec{a}\cdot \vec{b}=|\vec{a}| |\vec{b}|\cos \theta $

という、教科書では内積の定義式としているものが公式として導かれる。

§4. 内積から$\cos$が出る

私流の定義によれば、$\cos$を使って内積を定義するのではなく、内積の定義から自然と$\cos$が出てくる。(文献[1] では、内積の公理を導入し、内積を使って余弦を定義している。)
実際、角の定義式

$\cos \Theta =\frac{a_{1}b_{1}+ a_{2}b_{2}}{\sqrt{a_{1}^{2}+ a_{2}^{2}}\sqrt{b_{1}^{2}+ b_{2}^{2}}}$

において$\vec{b}=(1,0)$とすれば

$\cos \Theta =\frac{a_{1}}{\sqrt{a_{1}^{2}+ a_{2}^{2}}}$

となるが、これは原点から$r$の距離にあり、偏角($x$軸となす角)が$\Theta$の点$(x,y)$について

$\cos \Theta =\frac{x}{r}$

となる訳で、これはふつうの$\cos$の定義そのものだ。
内積があの式$a_{1}b_{1}+ a_{2}b_{2}+\cdots $になるように、$\cos$の定義を決めたとも解釈できるわけだ。

§∞. 文献

[1] 赤攝也著「現代の初等幾何学」(ちくま学芸文庫, 2019年1月刊)
   
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