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テスト結果は正規分布か?

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§1. 「正規分布」伝説

定期テストをすれば、教師は必ず平均点を計算する。(標準偏差まで計算する教師は少ないけど) 度数分布表とか、点数順にソートした表、順位換算表を作ったりする教師もいるだろう。
それを生徒に公表するかはともかくとして、学期末に成績(評価、評定)をつける際にこのような表を活用したりするかもしれない。

そこで、度数分布表を見て、「正規分布にならないから、おかしい」と言い出す教師がいるものだ。
そもそも、定期テストや学力テスト(知能テストは除いておく) の得点分布は本来、正規分布になるものなのだろうか。
それを考えるのが本稿の趣旨である。


§2. どういうときに正規分布になるか

数学の教科書に出てくるのは、コインやサイコロを 100回投げて、何回オモテまたは 1の目が出たか、のような試行である。正確にはこれは二項分布になるのだが、回数を多くすれば正規分布に漸近する。
コインやサイコロには意思がない。オモテが出すぎたから、これからはウラを多めに出していこうとか、考えることがない。
テストだと、生徒には意思があって「アイツに負けないように勉強しよう」とか思ってしまうので、正規分布にならないだろうことが予見される。

人間が関与するような試行はすべて正規分布にならないかと言うと、そうでもなく、身長の度数分布は正規分布である。身長は意思の力ではどうにもならないからだ。一方、体重の方は人間がコントロールできるので正規分布にはならない。

正規分布はガウス分布とも呼ばれるように、正規分布はガウスが誤差の分布を研究していて出てきた概念だと言われる。
では、誤差分布と何か。

例えば天文観測をしていて(実際ガウスは天文台長だったことがある)、何かを測定したとき、人間の意思にかかわらずどうしても誤差を発生してしまう。
誤差と言っても、偶然発生する誤差と、観測者の癖(いつも少なめの数字にしてしまうとか、小数点の位置を間違える癖があるとか)がある。前者を偶然誤差、後者を系統誤差と言う。

系統誤差の方は、観測者が観測業務に熟練すればなくなると考えられる。そうすると、偶然誤差だけが残るが、これが正規分布に従うのである。

人間は努力すれば、系統誤差をなくし、偶然誤差も(なくすことは無理としても)その標準偏差を小さくすることができる。
このように、人間がコントロールできるものであっても、正規分布になるものがあるのでややこしい。


§3. テストなんて当て物だろ

テストなんてどうせ、当て物だろ、というテスト観がある。試験場で鉛筆を転がして選択肢を選べばいいんだという考え方である。

大学教授は定期試験の答案を階段の上からバラまいて、落ちた位置の上から優、良、可、不可をつけているという伝説があるが、このテスト観に立脚したものだろう。
生徒の「山を張る」もそうだろう。テスト範囲の後ろから四分の一の所が出そうとか、山を張りそこだけ暗記して、でも試験本番で暗記した中のどれを答案に書けばよいかは分からないので、そこは「どれにしようか神様の言う通り」のノリで当てずっぽうで解答を書くのである。
生徒全員が上のように考えていれば、サイコロの目に従って答案を書いているようなものだから、クラスの成績は正規分布になるだろう。

しかし実際には、このような「当て物」主義者は存在しない。伝説上の存在である。
実際の生徒は程度の差はあれ、テストに備え勉強するものであって、コインやサイコロとは異なる。


§4. どういうときに正規分布になるか

どうしてもテストの成績を正規分布にしたいと考える教師がいるものだ。彼は何をすればよいのか。

(1) 全生徒を熟練させる
天文観測を例に説明したが、熟練すれば偶然誤差だけが残り、正規分布になる。
そこで、全生徒に試験範囲の内容について隅々まで熟練させ、もうこれ以上不分明な所がないという境地まで学習させるのである。
ふつうに考えると全員が100点を取りそうなものだが、意地悪な教師が誰も解けない問題を10点分、混ぜておいたとしよう。
クラスの成績分布は 90点を平均として、釣り鐘状のグラフを描くであろう。90点未満の生徒はケアレスミスで減点された者で、90点を超えた者はできないはずの問題が当てずっぽうで正解したのである。
でも、生徒全員がほぼ同じ得点を取ると分かっているのであれば、テストをする意味はあまりない。(テストを欠席した者だけ落第点をつければよいから、テストが全面的に無意味という訳ではない。)

(2) 全員に零点を取らせる
上の方法は全員に満点を取らせることを目標にしたものだが、これを真逆にした方法も考えられる。
生徒にある項目について熟練させておいて、テストにはそれとまったく関係のない問題を出すのである。
生徒は当てずっぽうで答えるしかなく、コイン・サイコロ的存在になる。このように全員に零点を取らせることを目標にするのである。
実はその実例がいくつもある。1年間かけて枕草子を講義してきた教授が、期末試験に出した問題が「好色一代女について論述せよ」だった。文化勲章を受章したこともある数学の某教授が定期試験に出したのが、詰碁の問題だった。囲碁を知らない学生は零点を取らざるを得ない。ほぼ全員が単位を落としたのか、試験さえ受ければ単位はもらえたのか、その点は聞き逃してしまった。


§5. そもそも正規分布にはならんだろ

数学の試験をやるとして、数学だけは一生懸命に勉強するという生徒もいるし、反対に数学の勉強は最小限にとどめて受験しようという者もいる。そういった生徒の割合はクラスにより、マチマチだろう。

だから、生徒の得点分布は、上図・左のような山型になるかもしれない。しかしけっして正規分布 (縦軸、横軸を適当に縮尺すると $\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{1}{2}x^2}$ のグラフと同じ)になるとは、よほどのことがない限り言えないだろう。
上図・中はふたこぶラクダ(M 型)で実際にテストで多く現れるパターンである。
上図・右は L 型で、クラスの半分以上が赤点だというパターンで、ときどき発生するパターンである。
「正規分布、正規分布」と知ったかぶりに言ってる教師は、山型はすべて $\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{1}{2}x^2}$ になると勘違いしているだけかも知れない。
ちなみに正規分布のグラフは下図のようになり、釣り鐘型と呼ばれる。


§6. 社会学的力学

これで本稿を終わりにしようと思ったのだが、筆者の趣旨には反する論説も紹介しておこう。

働きバチはみな真面目に働くかと言うと、10%は一生懸命働き、10%はサボるのだという。そこで、真面目グループだけ集めて飼うと、やはりそのうちの10%は一生懸命働き、10%はサボるようになるらしい。
反対に、10%のサボりグループだけ集めて飼っても、やはり10%は一生懸命、10%はサボるようになるそうだ。
(特進クラスにも劣等生はおり、就職クラスにも優等生はいる。)
生徒を個人として見ると、一生懸命やるかサボるかはその子の特性のような気がするが、生徒が集団になると、社会学的な力学が働いて、10%は優等生を目指し、10%は赤点スレスレで満足し、その他大勢は目立たぬように(イジメに遭うから?)ほどほどにフツーに生きていく--というシステムが機能するという説である。学校カースト制のようで筆者は好きになれない説だが、本当なんだろうか?



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