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大数の法則実験のウソ

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§1. 大数の法則と実験の授業
§2. ある実験授業の不思議
§3. 接着コインの種明かし
§4. この解答、おかしくない?
§5. あるある、こんな授業
§6. 文献

§1. 大数の法則と実験の授業

大数の法則を表現する公式にはいろいろなバージョンがある。別のページでも紹介したところであるが、有名なのは次の 2つである。強法則が成り立てば弱法則が成り立つことが証明できる(その逆はダメ)ので、この名がある。

独立な確率変数 $X_{1},X_{2},\cdots,X_{n}$ が同一の確率分布(平均$\mu$)に従うとき、$ \overline{X} = \frac{X_{1}+X_{2}+\cdots+X_{n}}{n} $ について次の等式が成り立つ。
【定理1】(大数の弱法則)
   $\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} P(\{ \mid \overline{X} - \mu \mid \leq \varepsilon \}) = 1 $

【定理2】(大数の強法則)
   $\displaystyle P(\{\lim_{n \rightarrow \infty} \overline{X} = \mu \}) = 1 $

例えば、サイコロを $n$ 回振って $i$ 回目に 1 の目が出たら $X_{i}=1$(そうでなければ $=0$)とするなら、$\bar{X}$ は $n$ 回中に 1 の目が出た相対度数を表す。

2つの定理を次のように言い換えてもよい。ただし、$\frac{r}{n}$ は $n$ 回繰り返した試行のうち所期の事象が起こった相対度数である。

(大数の弱法則)
   $\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} P(\{ \mu-\varepsilon \leq \frac{r}{n} \leq \mu + \varepsilon \}) = 1 $

(大数の強法則)
   ほとんど確実に $\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{r}{n} = \mu $


1 の目が $\frac{1}{6}$ の確率で出ることを実証する実験を、授業としてデザインすると次のようになる。

(弱法則を確証する実験)
生徒各自(または各班に)実験をさせ、各自(各班)ごとの結果を棒グラフにし、いくつかの例外を除いて相対度数が $p$ に近いことを見る。


(強法則を確証する実験)
1つの実験を数多く繰り返し行い、結果を折れ線グラフにし、相対度数が $p$ に漸近することを見る。

ここでパラドックスだなと感じるのは、弱法則の方が必ずしも簡単に示せるわけではないということだ。

厳密に言えば、1 個のサイコロだけで実験しなければならないから、弱法則の実験であっても 1 回振るのに 1 秒かかるとして、1 人 100 回ずつ振れば 40 人で 4000秒かかってしまう。
サイコロを 40 個用意して、生徒に配ればたった 100 秒で結果が集約できると考えるのは、勘違いである。異なるサイコロを使ってしまっては、1 の目が出やすいのと出にくいのが混在する可能性が排除できないからだ。

だったら、1 人の生徒に 4000 回振らせて強法則を実験するのと、時間的には変わらない。(残り 39 人の生徒は寝てしまうかも、だが。)

このように弱法則の方がゆるい命題なのに、実験が簡単にできる訳でないのが、パラドックスと称した由縁だ。

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§2. ある実験授業の不思議

次のような授業のどこに誤りがあるか、探してみてほしい。

「教科書の次の問題を解いてみよう。」

2 枚の 10 円硬貨を同時に投げるとき、表が出る確率を求めよ。---

「『同時に投げる』というのは、実際にはどうやればいいんですか。2 枚のコインを手に握って、セーノとやっても上に持ってる方が先に飛び出してしまって、厳密には『同時』と言えないと思うんです。」

「たしかに問題文に『同時』という言葉があると、気になって解けない生徒が結構いるよね。そこで、こういうコインを用意してきたよ。」と、言いながら生徒に 1つずつ用意してきたものを配る。

「何ですか? コレ」

「瞬間接着剤でくっつけたんだよ」(配られたものは 2 枚の 10 円玉を貼り合わせたものだった。)

「では各自、このコインを 10 回投げて表が出たかウラが出たかを記録してください。」

上の Excel の表が 16 人の生徒のデータ(表の出た回数が多い順にソートしてある)を集計したものである。右側の折れ線グラフのように、表の相対度数が 0%, 50%, 100% のところに 3 つの山ができた。(したがって弱法則は成立しない。)

「1 つの山にならなくて、結論が出ないですね」

「そんなことは、ないよ。16 人の結果を総計すると、$16\times10=160$ 回中、表が $78$ 回出ているから、相対度数は 43.1%だ。もっと回数を増やせば 50% になるだろう。(したがって強法則は成り立つ。)」

~~~ 結論 ~~~
 3 つ山ができて弱法則を立証することはできなかったが、強法則は成立するという、十分条件と必要条件が逆転するという摩訶不思議なことが起きてしまった!!!
~~~~~~~~~
もちろん「したがって強法則が成り立つ」としたところが間違いである。
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§3. 接着コインの種明かし

前節のコインは次のようにして作られた。

10 円玉を必要な枚数だけ用意し、そこからランダムに 2 枚取り出し、何も考えずに瞬間接着剤で貼り合わせる。上図の最も左のように、表と表を接着させればウラしか出ないコインができ上がる。中 2 つの写真は表とウラを貼り合わせたもので、表もウラも出せるコインであり、最も右の写真はウラ同士の接着で表しか出ない。『ランダムに何も考えずに』行ったので、上図のようなパーセンテージで3種類のコインができた訳である。

前節の Excel シートで No.1~4 の生徒は表しか出ないコイン、 No.5~12 の生徒は表もウラも出るコイン(25%+25%で半数のコインがこれだ)、 No.13~16 の生徒はウラしか出ないコインを使用したという訳だ。

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§4. この解答、おかしくない?

上記の接着コインのような問題が何の役に立つのかと、思われたかもしれない。
実は、これとよく似た問題の解き方があるのである。

例えば、こんな問題がある。(文献 [1] の p.26 より引用。)

ある国では、男の子を欲しがる傾向が強く、多くの家で男の子が生まれるまで子どもを産みつづけたそうです。最初の子どもが男の子ならそこで終わりにしますが、女の子ならもう 1 人産み、2 人めも女の子だったらもう 1 人、3 人めも女の子ならさらに 1 人…と産みつづけていき、結果的に国じゅう、ますます女の子が増えていきました。

この文章に述べられていることは正しいか、というのが問題である。この文献では次のような図を使って説明されている。


簡単にするため母親の人数が 16 人とする。最初の赤ちゃんは女の子か男の子かというと、半々の 8 軒ずつだ。No.1~8 は2人めを産むが、それが女の子であるのは No.1~4 である。No.1~4 は 3 人めを産むが、それが女の子であるのは……。以下同様。
そうすると、生まれてくる赤ん坊の総数は
   $16+8+4+2+\cdots$、すなわち
   $N \times (1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots)=2 N$
このうち、女の子はその半分だから
   $8+4+2+1+\cdots$、すなわち
   $N \times (\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\frac{1}{2^4}+\cdots)= N$
よって、全赤ちゃんに占める女の子の割合は
   $\frac{8+4+2+1+\cdots}{16+8+4+2+\cdots}=\frac{1}{2}$、または
   $\frac{N}{2 N}=\frac{1}{2}$

結局、こんな変な産児制限があっても、男女の生まれてくる割合は半々のままだ、というのがこの文献による説明である。

この文献では暗黙の裡に、すべての母親は男女を半々の割で産むということが前提とした解答となっている。それ自体には文句はない。
私が言いたいのは、この前提を外したら上記の解答はチャンチャラおかしなものになる、ということである。

§2. に出した例は、表しか出ないコイン、ウラしか出ないコイン、表裏半々に出るコインと色々あら~ね、というものであった。そう言えば子どもの男女比もそうなのではないだろうか。
「○○さんちは男の子ばかりの 5 人兄弟だよ(女の子が欲しかったんだろうな)」とか
「3 人姉妹の家って、よく聞くね」とかって話はないだろうか。
つまり接着コインのように、女の子しか生まれてこない母親や、逆に男の子しか生まれない母親、男女半々に生む母親がいたって不思議ではない。
(ときどき「男子が生まれる確率は 55% に決まっているんではないですか」と言う人がいるが、それは全体としてみた場合で、1 人一人の母親を見たら誰でも 55% になるとは言えないだろう。)

そこで、接着コインと同様に
   女の子しか生まれてこない母親 25%,
   男女半々に生む母親 50%,
   男の子しか生まれない母親 25%
として、作表したのが下図だ。(No.5~12 は乱数で男女を決定した。)
右側の折れ線グラフは例によって弱法則の確認用だが、母親によって確率分布が異なるのだから、弱法則は成り立たなくて不思議はない。( 0% のところと 100% のところに 2 コブができている。意外と 3 つ山にならなかった。)

No.1~4 の母親は永久に女の子を産みつづけることになる。∞人の女の子を産むとしてもよいのだが、計算上 1万人の女の子を産むとしてみよう。(1 人で 1万人を産むという仮定をナンセンスと思うかもしれないが、そもそも世の中の母親はすべて、男の子が生まれるまで何人でも産みつづけると考えている、という仮定もありそうもない。)
赤ん坊の総計は、
   $10000 \times 4+5+3+3+2+1 \times 8=40021$(人)
で、そのうち女の子は
   $10000 \times 4+4+2+2+1=40009$(人)
だから、女の子の相対度数は
   $\frac{40009}{40021}=100.0%$
でほぼ百パーセントだ。ここでは強法則も成り立たないのがハッキリしている。(成り立つなら 50% になるはず。)
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§5. あるある、こんな授業

ながながと何を言いたかったかというと、次のような授業に気をつけようということだ。すなわち、

生徒の人数分、サイコロを買ってきて、これを 1 個ずつ生徒に配って、各自 60 回振って 1 の目が何回出たか、数えさせる。
クラス全員分を総計する(40 人だったら計 2400 回振ったことになる)と、相対度数が約 $\frac{1}{6}$ になる。
という授業だ。

読者はこの授業のおかしさがもうお分かりだろう。サイコロには 1の目が出やすいもの、出にくいもの、そこそこ出るもの、と色々ある。色々なお母さんがいるのと同様だ。それを総計して相対度数が約 $\frac{1}{6}$ になっても何の意味もない。

「サイコロだからおかしなことが起きるが、サイドタならそんなことはない」と考えるのも間違っていることを最後に指摘しておこう。


上のような立方体ではない多面体の木片を生徒全員に配る。
「各自 60 回振って 1 の目が何回出るか、数えてください」
「どこが 1 の目ですか?」
「何も書いてなかったね。自分の好きなところにマジックで 1 と書いてください。ただし 1 箇所だけですよ。2 箇所以上を 1 の目にしないように。」
これで授業をやっても、総計すれば相対度数が約 $\frac{1}{6}$ になるだろう。でも、それに意味はない。

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§6. 文献

[1] 野崎昭弘 「まるさんかく論理学-数学的センスをみがく」中公文庫、2021年

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