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ビュッフォンの針と推定・検定
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次のような授業の失敗例がある。
【例】
ビュッフォンの針は、厳密に言うと無限試行(根元事象が無限個あること)の問題だが、一様分布なので高校生でも理論値を計算することができる。三角関数の積分を使って確率が計算できるのである。
平行線の間隔を適当に設定(間隔=針の長さの2倍)すると、確率が$1/\pi \mbox{≒} 0.318$になる。
こうして、積分の計算をフォローさせた後、教室で爪楊枝による実験を行なった。1000本投げたところ、実験値は理論値と比べて小数第1位しか合わなかった。すなわち$0.3$までしか出なかった。
そこで、「実験は理論通りにいかぬものだ」と結論づけて、授業をお開きになった。
以下に確率の計算方法を記す。
針の長さを $2L$ とすれば、平行線の間隔は $4L$ である。針の中心から一番近い平行線までの距離(の絶対値)を $y$, 針と平行線のなす角(鋭角の方)を $\theta$ とする。
針と平行線が交わるための条件は
$y \leq L \sin \theta$
である。ただし、$0 \leq y \leq 2L, 0 \leq \theta \leq \frac{\pi}{2}$である。
よって、交わる確率は次のグラフの作る面積の比から分かる。
全事象に相当する面積が$2L \times \frac{\pi}{2} =\pi L$であり、交わる事象に相当する面積は
$\int_{0}^{\pi/2} L \sin \theta d\theta=L [ -\cos \theta ]_{0}^{\pi/2}
=L$
だから、求めるべき確率$p$は
$p= \frac{ L} { \pi L} = \frac{1}{\pi}$
となるのである。
【例】の実験のように小数第1位しか求まらないとき、その実験が成功だったのか失敗だったのかは、実は統計の推定・検定理論まで学習しないと分からないのである。それには次の定理を使う。
【定理】
独立な確率変数$X_{1},X_{2},\cdots,X_{n}$が同一の確率分布(平均$p$)に従うとき、$n$が十分大きければ、$X_{1},\dots,X_{n} $の平均$ \overline{X} = \frac{X_{1}+X_{2}+\cdots+X_{n}}{n} $に対し、$\frac{\overline{X}-p}{\sqrt{p(1-p)/n}} $は正規分布$N(0,1)$に従う。言い換えれば、
$ P(\{a \leq \frac{\overline{X}-p}{\sqrt{p(1-p)/n}} \leq b \}) \mbox{≒}\int_{a}^{b} \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} e^{- \frac{x^{2}}{2}} dx $
である。---
95%の信頼度で信頼区間を作ると、$p=1/\pi,n=1000$だから
$-1.96 \leq \frac{\overline{X}-p}{\sqrt{p(1-p)/n}} \leq 1.96$
となる確率が95%である。分母を払って移項すれば
$p -1.96 \times \sqrt{\frac{p(1-p)}{n}} \leq \overline{X} \leq p +1.96
\times \sqrt{\frac{p(1-p)}{n}}$
すなわち
$0.289 \leq \overline{X}\leq0.347$
実験が正しく行われても小数第1位は2か3までしか求まらない。【例】の実験は相対度数が$0.3$台の前半なら十分成功と言ってよい。以上が推定理論である。
一方、検定の論理を使えば次のようになる。
実験の結果が上記の信頼区間内に落ちなければ(範囲外に出れば)、「この実験は成功だった」という仮説は5%の危険率で棄却される。要するに「失敗でした」ということで、成功であったのにもかかわらず「失敗」と誤判断してしまう危険が5%ということである。
もし、上記の信頼区間内に落ちれば「実験は成功」の仮説は棄却されない。つまり「失敗」とは言えないのだが、じゃあ成功だったと言えるかというとそうではない。失敗であったのにもかかわらず「成功」と誤判断する危険率(第2種の危険率をいう)は何%なのかまったく分からないからだ。
このように仮説検定は棄却することを目指して行う。「その実験、おかしいじゃないの」というようにイチャモンをつけるのが目的で、弁護することをめざしてはいない。
さて、最初の【例】に戻ると、失敗であったと断言はできないが、さりとて成功だったとも言えない。検定はイチャモンが目的だから、推定で確率を求めようとする方がよいだろう。
それにしても、針を投げて$\pi$の値を求めるのなら、1000回くらいでは回数が少ないと言わざるをえない。
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