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コイン・サイコロの確率のウソ

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§1.イカサマを誘発するコイン投げ実験


コイン投げの実験を体験させる授業の失敗例をいくつか挙げよう。

【例1】
「コインを10回投げましょう。10回とも表、または10回ともウラになることはしばしば起こることでしょうか。」---



(実践結果)
理屈の上では、
   $ (\frac{1}{2})^{10} \times 2 = \frac{1}{512} \mbox{≒} 0.2\% $
でめったに起こらないことであるのだが、それを教えるのは後回しにし、まずは教室で生徒たちに実験をさせたところ、何分か後には、数人の生徒がこれを達成してしまった。「理論上は、めったに起こらない筈だが、現実は違うんだね」といった話で終わってしまった。■



なぜ、0.2%の事象がそんなに起こるのか。端的に言えば、生徒はイカサマ(無意識であるかも知れないが)をしたのである。その方法を具体的に述べる。


1つは、都合の悪いデータは抹消することである。例えば、1回目が表で2回目がウラだったら、もう駄目だから、3回目以降を省略して、次の実験へ移る。要するに、この実験はあっという間に、「連続10回表またはウラを出せ」という問題にすり代わってしまうのだ。問題を、「10個のコインを同時に投げる」とした方がよかったのだろうか。


第2のトリックは、だんだん慣れると表とウラを自由に出せるようになる。初めこそ、「コインを投げろ」と言われて、天井に向かって投げるが、受け損ねてお金がどこかに行ってしまったりする。早く実験結果を出したいという気持ちもあって、コインを投げる高さがだんだん低くなってくる。そうすると、表・ウラを自由に出すことが容易になる。また、両手をおにぎりを握るときの形にして、その中にコインを入れてよく振ってから投げるようにして、自在の結果を出す生徒もいる。(振っているときの感触で表・ウラが分かるのだろう。)これをやられると、10個のコインを同時に投げさせても意味がない。


こういうイカサマを無意識にやってしまうのがほとんどだから、イカサマと呼ぶのも気の毒なのだが、取り敢えずそう呼んでおく。
イカサマを惹起せしめたのは、問題文にも責任がある。そこで少し問題文を変えてみよう。

【例2】
「コインを10回投げましょう。10回中、表になる回数は何回の場合が最も多いでしょうか。」---



(実践結果)
これならば、生徒はみな5回が最も多いと思うに違いないから、「ちょうど5回になりました」という実験結果を頻出させるだろう。それで実験は成功したかというと、理論値の
   $_{10}C_{5} \times (\frac{1}{2})^{5} \times (\frac{1}{2})^{5} = \frac{252}{1024} \mbox{≒} 24.6\% $
を大幅に上回って、例えば「半分以上5回表になりました」などという報告が続々と出されるのである。■



イカサマを誘発しないためには、次のように言えばよい。


【例3】
「今からとにかく文句を言わずに、コインを10000回投げなさい。そして、表かウラかの結果はすべてノートに取りなさい。では、実験はじめ。」---



問題点は、これで高校生がコイン投げをしてくれるだろうかという点である。


§2.不備なサイコロ振り実験
イカサマが出来るのは、コインだけではない。サイコロも練習すれば、自由に思った目が出せる。麻雀では2個同時にサイコロを投げるが、このとき麻雀牌にぶつけるように投げる決まりになっている。そうしないと、自由な目が出せるからである。


サイコロで思い通りの目を出すには、サイコロの持ち方にコツがあるのだろう。例えば、1の目が上を向くようにして持って振るとか、するのだろう。
すると、こんなことが考えられる。


例えば1の目を上にしてサイコロを投げると、上にした1の目が出やすくなる。すると、実験の結果、1から6までのどの目も出る確率は$1/6$となっても、それは投げるときに上に向ける目が何であるかが1から6まで等確率であったからではないかという疑いが起こる。つまり、目の出方がランダムなのでなく偏りがあっても、初期条件がバラバラであるために一見ランダムに目が出ているように見えるだけ、なのかもしれない。


このようなクレームがつかないようにするためには、投げるときは必ず1の目を上に向け、2の目は北を向けて投げるというように決めておかなくてはならない。しかも何かに何度もぶつけるように投げなくてはならない。ESP(超能力)でサイコロの出る目を変えられるかの実験では、何百段かの小さな階段(その段数も決まっている)を作り、そこを転がり落とす間に念力をかけさせ、本当に念力が生じているのかを検証するようにしている。


また、1個のサイコロを投げるのではなく、大量のサイコロを買ってきて一気に振って確率を調べるというミスを犯す教師もいる。そこらへんのおもちゃ屋で売っているサイコロなど、いいかげんだろう。1の目が$1/6$より多めに出るサイコロとか、2の目が出やすいサイコロとかいろいろある。いろんなサイコロを買ってきて、各班に配って、実験させて、集計すれば、1の目の出る相対度数はならされて$1/6$くらいになるかもしれない。しかし、そこから1の目の出る確率が$1/6$だと結論を出すのは、間違っている。


§3.イカサマ・サイコロの確率


正しい方法で実験をするのもよいが、いっそのことイカサマの実験をするとどうなるかを考えてみるのも面白そうだ。イカサマ・サイコロを振り続ける試行を例に、大数の法則に対する誤解を分析してみよう。


【例4】
サイコロ賭博に使うサイコロの中には金属が仕込まれていて、床には電磁石が埋め込んであることがある。これで任意の目を出すことができる。実際にその方面の人(賭博師)たちが使う方法である。そこで、1個のサイコロを何度も振って、目を
   1,2,3,4,5,6,1,2,3,4,5,6,1,2,3,4,5,6,$\cdots$
というように出してみよう。このとき、1~6の目がランダムに出ると言えるか。(もちろんNOです。)---



(分析) 
確率変数$X_{1},X_{2},\cdots $は独立である。意外であるが、計算してみるとたしかに独立だ。(例えば、$P(\{ X_{1}=1,X_{2}=2\})=P(\{X_{1}=1\}) \times P(\{X_{2}=2\})$というように積の法則が成り立つ。)
ところが、各$X_{i}$は同一の分布に従わない。例えば、$n$が6の倍数のときは、分布は$ P(\{ X < 6 \}) =0 , P(\{X = 6\})=1 $だが、6の倍数でないときは別の分布に従う。
この状況では前提条件が満たされないので、中心極限定理も大数の法則も使えない。でも、イカサマ賭博だと見抜けない人は、使ってしまうだろう。そうすると、どんな結論が出るか。最初の10個の$X_{i}$の実現値を見ると
   1,2,3,4,5,6,1,2,3,4
だから、1の目の出る相対度数は$2/10=0.2$である。最初の50個($n=50$)では、相対度数は$9/50= 0.18$となる。$n=100$なら、相対度数$=17/100=0.17$である。なんと、$n$を大きくすると、相対度数が$1/6=0.1666\cdots$に近づくではないか。同様に、2~6の目も均等に出る。すなわち1~6の目がランダムに出る。(この推論は当然マチガイです。)■



もう一つイカサマを考えてみよう。


【例5】
丁半賭博(2個の目の和が偶数=丁、奇数=半)のイカサマである。電磁石を操作して、次のように出してみる。
   丁,半,丁,半,半,丁,丁,半,丁,半,半,丁,丁,半,$\cdots$
どんな規則かと言うと、$2i-1$回目はランダムに出す。そして、次の$2i$回目は$2i-1$回目の実現値でない方を電磁石で出す。例えば、5回目はデタラメにまかせて半が出たら、6回目は電磁石で丁を出すのである。---



(分析)
確率変数$X_{i}$はいずれも同一の分布に従う。(丁と半では実数でないので、丁=0,半=1とすると、$P(\{ X_{i}=0\})=1/2,P(\{X_{i}=1\})=1/2$) しかし、$X_{1},X_{2},\cdots$は独立とはならない。(例えば、$P(\{ X_{1}=0,X_{2}=0\})=P(\{X_{1}=0 \}) \times P(\{X_{2}=0\})$とすると、$0=1/4$になってしまう。)
$X_{1},X_{2},\cdots$は独立であるという、大数の法則の前提条件が成り立たないので、大数の法則を使って丁になる相対度数は$1/2$に近づくという結論が出すのは誤りである。■



大数の法則が難しいところは、逆が成り立たないことである。イカサマでもたしかに、1~6の目は均等に出るし、丁が出るのは2回に1回の割だ。結論が言えても、確率変数たちが同一分布に従うとも、独立であるとも言えない。大数の法則が適用できない試行に対しては、確率の存在を措定することはできないのである。(人為的に結果を操作できるものについては、そこに確率があると思うのはおかしい。)


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