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§1. ある生徒の発言
§2. 掛け算の分析から
高校1年生にたすき掛けを教えているとき、ある生徒が次のように言った。
先生、こんなメンドくさいこと(たすき掛けのこと)しなくても、暗算でできます。
$ 3x^{2}+5x-2= (x+ \Box)(3x+\triangle) $
とやって、$\Box$ と $\triangle$ のうち、どちらかが $\pm 1$ で他方が $\mp 2$ だが、
$ 3x^{2}+5x-2= (x \pm 1)(3x \mp 2) $
としてしまうと、1次の項が
$ \pm 3x \mp 2x $
で$5x$ にはならないからダメ。
$ 3x^{2}+5x-2= (x \pm 2)(3x \mp 1) $
として、
$ \pm 6x \mp x =5x $
となればいいのだから、
$ 3x^{2}+5x-2= (x + 2)(3x - 1) $
と分かってしまう。
と言うのだ。だから、たすき掛けは覚えなくてよいと言うのだが、さらに別の生徒から
解の公式を使えば、どんな問題でも因数分解できるんじゃないですか
との発言があった。聞いてみると、そんなことは中学校で習っているということであった。ますます、たすき掛け不要論に拍車がかかってしまった。
今の高校生がたすき掛けをやりたくない理由はなんとなく分かる。
2次3項式の因数分解には
の2タイプがある。40年前の教育課程では、両タイプともたすき掛けでやると中学3年で習っていたのだ。(両方を教わるから、たすき掛けが統一的方法として重宝されたわけだ。
ところが、ゆとり教育導入後、前者の因数分解は中学、後者は高校というように分断された。前者は「足していくつ、掛けていくつ」方式でやれるのに、後者ではその手は使えない。かといって、「たすき掛け」という新たな方法なんて今更覚えたくない。こんな気持ちが今の高校1年生にはあるのではないだろうか。
たすき掛けを使わないでも因数分解ができるというのならそれでもいい。では、あの「たすき掛け」の方法はどこから出てきたのだろうか、そのルーツを探ってみよう。以下に述べるのは、たすき掛けはこのように発明されたのではないかという仮説である。
因数分解は展開の逆の操作だ。そこで、$(ax+b)(cx+d)$ の展開をどのように行なうかを分析することによって、たすき掛けに迫ってみよう。展開の方法には次の3つがある。
である。
まず、 バラバラ方式で展開をしてみよう。このやり方は新入生が好む方法である。中学ではこれでやるのが主流なのだろう。次図のように、前項の積が2次の項、後項の積が定数項である。そして、1次の項は、内項の積と外項の積の和である。
これを逆用すれば、因数分解ができる。手順は次のようになる。
これが、先ほど生徒が「暗算でできます」と言った方法である。このバラバラ方式では、内項の積$+$外項の積を求める部分で「たすき」にならない。線が交錯しないのだ。でも、本質的にはたすき掛けと同じなので、これでちゃんと因数分解ができてしまう。この方法なら、たしかにたすき掛けは不要だ。
では、たすき掛けの、線をクロスさせるあの方法はどこから来たものなのだろうか。それは筆算の仕組みを逆用したものかもしれない。掛け算の筆算をよく見ると(次図参照)、たしかに内項の積と外項の積を計算する部分に、「たすき掛け」が現れている。
掛け算の筆算の1次の項の計算部分に注目した図を作ると、下図のようになる。
これをあと一歩進めれば、たすき掛けの図ができ上がる。
これがたすき掛けのルーツ(起源)ではないだろうか。
掛け算と因数分解の仕組みを一望の下に俯瞰するには、直積表が最適だろう。なぜなら、直積表は、掛け算と因数分解の両方に使えるからである。掛け算を逆用すれば因数分解できるので、これこそ半分の労力で両方の計算法をマスターできるやり方である。
直積表が優れているのは、1次式同志の積---当然、2次式になる---を2次元的に表現しているからだろう。筆算も2次元的と言えなくはないが、直積表では
$ax+b$ と $cx+d$ を垂直に書くことによって、2次元化が徹底していると言える。
ところで直積表を細かく見ると、この中にも「たすき掛け」が現れている。$ax$ と $d$, $cx$ と $b$ を各々線分で結べば、その2つの線分は交わる。すなわちたすき掛けになる。もっとも直積表が(バラバラ方式でなく)筆算に近しいことを考慮すれば当り前かもしれない。
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