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§1. グラフの移動
§2. 座標軸の移動
§3. 線形代数の世界では
§4. 3次関数の考察
2次関数の式である
一般形: $ y=ax^{2}+bx+c$ ……(1.1)
は、
標準形: $ y=a(x-p)^{2}+q$ ……(1.2)
に変形できる。ただし、
$p= \frac{-b}{2a}, \mbox{ } q= - \frac{b^{2}-4ac}{4a} $ ……(1.3)
である。
これが2次関数の最も特徴的な性質だと一般には考えられている。ところがそうではなく、後述する「原始形」(ここだけの用語)に変形できることこそが最大の特徴ではないのかというのが、拙稿で述べたい内容の1つである。
原始形の話に入る前に、(1.2)の解釈の仕方に、
の2通りがあることを指摘しておきたい。
筆者は後者の解釈の方が素直で分かりやすいと考えているのだが、現行の高校の教科書は周知のとおり前者を採用している。
前者だと、だいたい次のような展開になるだろう。
中学校で既習の
基本形: $ y=ax^{2}$ ……(1.4)
のグラフを $x$ 軸方向に $p$, $y$ 軸方向に $q$ だけ平行移動してみる。$y-q$ が $x-p$ の2乗に比例し、その比例定数が
$a$ であることから、
$ y-q=a(x-p)^{2} $
となり、$-q$ を移項して(1.2)に示した標準形が出る。展開して整理すれば
$ y=ax^{2} -2apx +(ap^{2}+q) $
で、一般形(1.1)と係数比較すれば
$ b=-2ap, \mbox{ } c=ap^{2}+q $
であるので、(1.3)に示したように $p,q$ を定めれば、「平方完成」できるわけだ。
標準形から2次方程式の解の公式を導いてみよう。
$ y=a(x-\frac{-b}{2a})^{2} - \frac{b^{2}-4ac}{4a} $
の両辺を $a$ で割って、
$ \frac{y}{a}=(x-\frac{-b}{2a})^{2} - \frac{b^{2}-4ac}{4a^{2}} $
に $y=0$ を代入して
$ x-\frac{-b}{2a}= \pm \frac{\sqrt{b^{2}-4ac}}{2a} $
となって、解の公式が得られる。
いま、両辺を $a$ で割ったが、それならば基本形(1.4)を出発点にするのではなく、
原始形: $ y=x^{2}$ ……(1.5)
からスタートするのが、解の公式とのつながりが緊密になってよいのではないだろうか。
原始形から始めると、次のようになる。
原始形 $y=x^{2}$ のグラフを原点を中心に相似拡大(縮小)すれば、基本形 $y=ax^{2}$ になりそうだが、何倍に拡大すればよいかを考える。
原始形 $y=x^{2}$ と直線 $y=x$ との交点は原点と
点 $(1, 1) $
であり、基本形 $y=ax^2$ と直線 $y=x$ との交点は、方程式 $ ax^{2}=x $ を解いて、原点と
点 $( \frac{1}{a}, \frac{1}{a} ) $
と分かる。ということは、原始形のグラフを $\frac{1}{a}$ 倍に相似拡大すれば基本形になるだろうと見当がつく。
実際、原点を中心に $1/a$ 倍に相似拡大して、点 $(x,y)$ が点 $(X,Y)$ に移ったとするならば、
$ X=\frac{x}{a}, \mbox{ } Y=\frac{y}{a} $
という関係が成り立つので、原始形 $y=x^{2}$ に $x=aX$, $y=aY$ を代入して $aY=a^{2}X^{2}$ となり、文字を小文字に置き換えて基本形
$y=ax^{2}$ が得られる。
したがって、$y=x^{2}$ のグラフを相似拡大し、平行移動すれば、
$ y=a(x-p)^{2}+q $
のグラフになることが言える。
上に述べたことを、見方を変えて、グラフの相似拡大・平行移動ではなく、座標軸の相似拡大・平行移動の考えで眺めるとどのようになるだろうか。
まず、同一の点の座標が $(1,1)$ から $(\frac{1}{a}, \frac{1}{a})$ に変わればいいのだから、物指しの目盛りを
$a$ 倍に粗くすればよいと見当がつく。だから、座標 $x$ の点の新座標は、$X=\frac{x}{a}$ であろう。
実際、上図より
$ 1 : x = \frac{1}{a} : X $
だから、
$ X=\frac{x}{a}$ (同様に $ Y=\frac{y}{a}$ )
を得る。すなわち、単位の長さ(基本ベクトル $\vec{e}$)を $a$ 倍すれば、座標は双対的に $\frac{1}{a}$ 倍に変換され、原始形の放物線の方程式
$y=x^{2}$ は$x=aX$, $y=aY$ を代入して基本形 $Y=aX^{2}$に変わる。ここで、変数を小文字に変えて、$y=ax^{2}$
になる。
このあと、座標軸を左に $p$, 下に $q$ だけ平行移動すれば、座標は旧座標 $(x,y)$ から新座標 $(X,Y)$ に
$ X=x+p, \mbox{ } Y=y+q $
の変換規則で置き換わるから、基本形 $y=ax^{2}$ は
$ Y-q = a(X-p)^{2} $
という標準形に変換される。
グラフではなく、それとは双対的に座標軸を変換する方が、分かりやすいと述べた。その具体例を上げよう。
落下の法則は、時間を $x [ \mbox{秒} ]$, 距離を $y [ m ]$ で表すと、
$y= 4.9 x^{2} $ ……(2.1)
である。ここで時間、距離の単位をそれぞれ $ [ \mbox{分}]$, $[cm]$ に変換してみよう。
$ x \mbox{秒} = X \mbox{分} $
とおいて、$x$ と $X$ の関係を求める。
$ 1 \mbox{分} = 60 \mbox{秒} $
を上式に代入し、
$ x \mbox{秒} = X \times 60 \mbox{秒} . $
両辺を $\mbox{秒}$ で割って、
$ x=60X $
を得る。同様に、距離について
$ y=\frac{Y}{100} $
を得る。
これらの単位換算の式を(2.1)に代入すれば、
$Y=100 \cdot 4.9 \cdot 60^2 X^{2} $,
$Y=1764000 X^{2} $ ……(2.2)
が得られる。
数の世界プロパーで見れば、(2.2)は(2.1)と異なる関数である。しかし、物理法則として考えれば、(2.1)と(2.2)は同一の法則を見方を変えて見ただけで、あくまで同一の「関数」を表していると言ってよかろう。だから、この場合、「(2.1)のグラフを変形したら(2.2)になった」と言うより、「(2.1)に座標変換を施したら(2.2)になった」と言う方が自然である。
ところで、(2.1)を(2.2)に変換するにあたって、$x$軸、$y$軸は別々の比率で相似拡大した。これは、前節で放物線の原始形を基本形にするとき両座標軸を同じ率に相似拡大したのとは異なっている。この点について、次節で考える。
座標系の変換には、独立変数の空間($x$軸)と従属変数の空間($y$軸)を
の2種類があることが分かった。このことを線型代数の世界に一般化してみよう。
$n$次元ベクトル空間 $U$ から $m$次元ベクトル空間 $V$ への1次写像 $f$ があったとする。$U$ の基底が $ \vec{e}_{1}, \cdots, \vec{e}_{n} $ であり、$V$ の基底が$ \vec{f}_{1}, \cdots, \vec{f}_{m}$ であるとき、写像 $f$ の行列が $A$ であったとする。すなわち
$\left(
\begin{array}{c}
y_{1} \\
\vdots \\
y_{m}
\end{array}
\right)
= A
\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right)$ ……(3.1)
となったとする。
このとき、次のような基底の変換を施してみる。すなわち
$ ( \vec{e'}_{1}, \cdots, \vec{e'}_{n} )
= ( \vec{e}_{1}, \cdots, \vec{e}_{n} ) P, $
$ ( \vec{f'}_{1}, \cdots, \vec{f'}_{m} )
= ( \vec{f}_{1}, \cdots, \vec{f}_{m} ) Q $
である。ここで $P,Q$ はそれぞれ $n$次と$m$次の正方行列である。すると前者からは、
$ ( \vec{e}_{1}, \cdots, \vec{e}_{n} )
\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right) =
( \vec{e'}_{1}, \cdots, \vec{e'}_{n} )
\left(
\begin{array}{c}
x'_{1} \\
\vdots \\
x'_{n}
\end{array}
\right) $
の右辺に基底変換の式を代入して、
$ ( \vec{e}_{1}, \cdots, \vec{e}_{n} )
\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right) =
( \vec{e}_{1}, \cdots, \vec{e}_{n} )P
\left(
\begin{array}{c}
x'_{1} \\
\vdots \\
x'_{n}
\end{array}
\right) $
となり、これより
$ \left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}
\end{array}
\right)
=
P
\left(
\begin{array}{c}
x'_{1} \\
\vdots \\
x'_{n}
\end{array}
\right), $
すなわち
$ \vec{x} = P \vec{x'} $
という座標変換の法則が得られる。同様にして、後者(従属変数側)の座標変換の法則も
$ \vec{y} = Q \vec{y'} $
と分かる。
これらの座標変換の式を(3.1)に代入すれば
$ Q \left(
\begin{array}{c}
y'_{1} \\
\vdots \\
y'_{m}
\end{array}
\right)
= A P
\left(
\begin{array}{c}
x'_{1} \\
\vdots \\
x'_{n}
\end{array}
\right)
$
となって、新基底による1次写像の行列 $B$ は
$ B = Q^{-1} A P $
となることが導かれる。
一般に写像元のベクトル空間 $U$ と写像先のベクトル空間 $V$ は次元が異なるから、2つの行列 $P$ と $Q$ は等しくない。ところが、$U$
と $V$ の次元が等しいときには、$P=Q$ と座標変換の規則を同一にとることができる。(この場合は1次写像と言わずに、1次変換と呼ばれる。)このとき、変換の行列の関係式は
$ B = P^{-1}AP $
である。
このように、座標変換の規則を独立変数、従属変数の両者で異なるものとするか、同じものにするかで
の2つができる。
落体の法則の場合は、独立変数が時間、従属変数が距離というように両者は異なる空間だから前者の扱いとなる。放物線というグラフを分析するのが主眼なら、独立変数も従属変数もともに長さの世界だから後者の扱いが自然となるだろう。
3次関数の基本形と原始形は何であるかを考えてみよう。
まず、基本形である。3次関数はどんなものでも、平行移動によって単純化できる。3次関数のグラフをいくつも描けばウスウス気づくことであるが、3次関数のグラフには変曲点に関して点対称であるという性質がある。
$ y=f(x)= ax^{3}+bx^{2}+cx+d $
の2階導関数は
$ y'' =6ax +2b $
だから、変曲点の座標を $(x_{0}, y_{0} )$ とすれば、
$ x_{0}= -\frac{b}{3a}, $
$ y_{0}=f(x_{0}) =-\frac{bc}{3a}+\frac{2b^{3}}{27a^{2}}+d $
である。この $x=-\frac{b}{3a}$ をヒントに $f(x)$ を「立方完成」(?)してみると
$ y=ax^{3}+bx^{2}+cx+d $
$ = a(x^{3}+\frac{b}{a}x^{2})+cx+d $
$ = a\{ (x+\frac{b}{3a})^{3} -\frac{b^{2}}{3a^{2}}x-\frac{b^{3}}{27a^{3}}
\}+cx+d $
$ = a(x+\frac{b}{3a})^{3}+(c -\frac{b^{2}}{3a})x-\frac{b^{3}}{27a^{2}}
+d $
$ = a(x+\frac{b}{3a})^{3}+(c -\frac{b^{2}}{3a})\{(x+\frac{b}{3a})-\frac{b}{3a}\}
\mbox{ } -\frac{b^{3}}{27a^{2}}+d $
$ = a(x+\frac{b}{3a})^{3}+(c -\frac{b^{2}}{3a})(x+\frac{b}{3a}) \mbox{ }
-\frac{bc}{3a}+\frac{2b^{3}}{27a^{2}}+d $
となる。
ここで、
$ X=x+\frac{b}{3a}, $
$ Y=y+\frac{bc}{3a}-\frac{2b^{3}}{27a^{2}}-d $
となるように座標軸を平行移動すれば
$ Y=aX^{3}+mX $
(ただし $m=c-\frac{b^{2}}{3a}$ と置き換えた)となる。この式を3次関数の基本形と呼ぼう。
次に、$y=ax^{3}+mx$ に対して、両座標軸を適当に相似拡大して3次の係数が $1$ になるようにしてみよう。
$x$軸、$y$軸をそれぞれ $p$倍、$q$倍に相似拡大すれば、座標変換の法則は
$ x=pX, \mbox{ } y=qY $
だから、新座標を使って上の関数を表現すると
$ Y = \frac{ap^{3}}{q}X^{3}+\frac{mp}{q}X $
となる。3次の係数を $1$ にするには
$ q=ap^{3} $
にすればよい。
こうなると、1次の係数も単純化したくなる。1次の係数は
$ \frac{mp}{q} = \frac{mp}{ap^{3}} = \frac{m}{ap^{2}} $
であるから、単純化と言ってもいつでも $1$ にできるのではなく、$a$ と $m$ の符号に依存する。
$a$ と $m$ が同符号のとき、すなわち
$ am=a(c-\frac{b^{2}}{3a}) = ac-\frac{1}{3} b^{2} >0 $
のときは
$ \frac{m}{ap^{2}}=1 $
にできる。
$ p=\sqrt{\frac{m}{a}} $
とすればよいからである。同様に、$a$ と $m$ が異符号のときは、
$ p=\sqrt{-\frac{m}{a}} $
とすれば、
$ \frac{m}{ap^{2}}=-1 $
である。あと、$m=0$ の場合を入れて、以下のように3通りに場合分けができる。
もっとも、上の結果は
$ f'(x)=3ax^{2}+2bx+c $
の判別式を $D$ とすれば
$ \frac{D}{4}=b^{2}-3ac $
だから、ほとんど当り前かもしれない。ただ、相似拡大という操作を取り入れることにより、3次と1次の係数を単純化できるという点は指摘しておきたい。
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