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§1. 平方完成
§2. 3点法
§3. 解の公式の利用
§4. やはり平方完成か?
§5. 2次関数の対称性
§∞. 参考文献
(問題1) $a\neq0,b,c$ を実数とするとき、$x \in \mathbb{ R}$ から $y \in \mathbb{R}$ への2次関数
$y = ax^{2} +bx +c$ ……(1)
の最小値(最大値)を求めよ。最大でも最小でも本質は同じだから、$a >0$とせよ。---
多くの教科書は次のように記述しているだろう。
(解1-1)
$ y= a (x + \frac{b}{2a})^{2} - \frac{b^{2}-4ac}{4a} $
と平方完成し、
$ y \geq - \frac{b^{2}-4ac}{4a} $
となり、
$ x=\frac{-b}{2a}$ のとき、最小値 $- \frac{b^{2}-4ac}{4a} $
をとる。■
平方完成をしないで、最小値を求めようというのが、本稿の目論見である。
(解1-2) (1)は、$x=0$ のとき、$y=c$という値をとる。グラフで言うと、$y$ 切片である。$x=0$ 以外で $y=c$ となるところを探してみよう。
(1)を
$y= ax \left( x+\frac{b}{a} \right) +c$ …… (2)
と変形する。定数項を除いた部分を因数分解するのだ。$y=c$ より
$ x= 0, -\frac{b}{a} $
が求まる。この2点で同じ値をとるのだから、この真ん中の
$ x= \frac{0+( -b/a)}{2} = \frac{-b}{2a} $
を軸として、左右対称になるらしいことが分かる。(後略)■
この方法が「3点法」であり、教科書にも紹介されている。例えば、S出版の教科書 [1] 参照。
さて、上記の(解1-2)において 「後略」として保留にした左右対称性の証明を述べる前に、次の問題を考えてみよう。
(問題2) 塀のL字形をしたところを、金網でL字に囲って、ここでニワトリを飼おう。ニワトリ小屋は長方形になるわけだが、この長方形の面積を最大にするにはどうすればよいか。金網の長さを
$10m$ とする。---
(解2-1) 長方形の縦を $x[m]$ とすると、横は $(10-x)[m]$ で、面積は $ y=x(10-x) [m^{2}]$ である。
縦でなく、横を $x$ にしても、面積の式は変わらない。つまり、縦と横を逆にしても面積は変わらない。このことは、式を立てなくても分かる。
縦長でも、横長でも面積が同じなのなら、中間の、縦$=$横のところ(小屋は正方形になる)で、面積が最大になるだろうと見当がつく。(後略)■
ここでも左右対称性を「後略」としてしまった。でも、(2)が左右対称であることの証明は、ニワトリ小屋の考え方と本質的には同じことが予見される。
では、左右対称性を証明してみよう。
(問題3) $y= ax \left( x+\frac{b}{a} \right) +c$ ……(2) のグラフは $y$ 軸に平行なある直線を対称軸として線対称である。これを証明せよ。---
(証明3-1) 簡単のために
$ -\frac{b}{a} = k $
と置き換える。すると、(2)は
$ f(x) = ax(x-k) +c $
となる。
$ f(\frac{k}{2}-\xi) = a \left( \frac{k}{2}-\xi \right) \left( -\frac{k}{2}-\xi \right) +c $
$ f(\frac{k}{2}+\xi) = a \left( \frac{k}{2}+\xi \right) \left( -\frac{k}{2}+\xi \right) +c $
より
$ f(\frac{k}{2}-\xi) = f(\frac{k}{2}+\xi) $
となる。これは、$x=\frac{k}{2}$ を軸として左右対称であることを示している。■
課題はまだ残されている。それは、軸のところでなぜ最小なのかという問題である。下図のようにW字形のグラフを考えれば、左右対称であっても真ん中で必ずしも最小とは限らないことが分かる。
真ん中で最小になることの証明を考えてみよう。
(問題4) 関数 $y=ax(x-k)+c(a>0)$ は $x=\frac{k}{2}$ において最小値をもつ。これを証明せよ。---
(証明4-1) $ f(x) = ax(x-k)+c $
$ = a \left\{(x-\frac{k}{2})+\frac{k}{2} \right\} \left\{(x-\frac{k}{2})-\frac{k}{2} \right\} +c $
$ = a(x-\frac{k}{2})^{2}-\frac{ak^{2}}{4}+c $
$ \geq -\frac{ak^{2}-4c}{4} \mbox{■} $
上のように変形すれば、証明は完璧だが、この式変形は本質的には平方完成と同じで、しかも教科書流よりかえって難しい。
かといって、(相加平均)$\geq$(相乗平均)を使って、
(証明4-2) $k>0$ のとき $0<x<k$ ならば
$ \sqrt{-x(x-k)} \leq \frac{x+\{-(x-k)\}}{2} = \frac{k}{2} $
より
$ -ax(x-k) \leq a \times \frac{k^{2}}{4} $
$ \mbox{∴} f(x) \geq -\frac{ak^{2}}{4}+c \mbox{■} $
とやるのは、今流ではない。(相加平均)$\geq$(相乗平均)なんて、20年前の受験数学の「なつメロ」で、特殊なテクニックと言える。
前節では、3点法で最小問題を解こうとしたが、うまくいかなかった。
そこで今度は、2次方程式の解の公式を使って、(問題1)の解答をつくってみよう。
(解1-3) まず $ y = ax^{2} +bx +c $ が実数値 $y=m$ をとる条件を求める。
$ y=m $と連立し、上の2式から$y$を消去すると
$ ax^{2} +bx + (c-m) =0 .$
この方程式を解いて、
$ x= \frac{-b \pm \sqrt{b^{2}-4a(c-m)}}{2a} $
が実数解であることから、判別式$\geq 0$ で
$ b^{2}-4a(c-m) \geq 0 .$
よって、$m$の値は
$m \geq \frac{-b^{2}}{4a} +c$ …… (3)
であって、$y$の最小値は上式の右辺である。そのとき重解で、$\sqrt{\mbox{ }}$ の中が0 になって、
$ x= \frac{-b \pm \sqrt{0}}{2a} $
したがって最小値を与える$x$の値は
$x= \frac{-b}{2a}$■
上記の $x$ の値 $\frac{-b}{2a}$ を「頂点の$x$座標の公式」として覚えておくとよい。解の公式の$\sqrt{\mbox{ }}$ 部分がないだけなので、解の公式が覚えられるんだったら、この公式も覚えられる。
蛇足ながら、解の公式を見ると $ y = ax^{2} +bx +c $ のグラフの左右対称性も分かることを指摘しておく。
(問題5) $ y = ax^{2} +bx +c $ ……(1) のグラフは $y$ 軸に平行なある直線を対称軸として線対称である。これを証明せよ。---
(証明5-1) 解の公式を、
$ x= \frac{-b}{2a} \pm \frac{\sqrt{b^{2}-4a(c-m)}}{2a} $
において同一の $y$ の値 $ y=m $ をとると読み取れば、
$ \xi= \frac{\sqrt{b^{2}-4a(c-m)}}{2a} $
とおいて、
$ f(\frac{-b}{2a} + \xi) = f(\frac{-b}{2a} - \xi) \: (=m) $
が分かるからだ。■
前節に出てきた $\xi$ の値というのは、$y$ の値が最小値よりどれだけ上回るかを決めるものである。これを使って最初の(問題1)を解こう。
(解1-4) $ y = ax^{2} +bx +c $に対し関数
$ g: \xi \mapsto f(\frac{-b}{2a}+\xi) - (\frac{-b^{2}}{4a} +c)$
を考える。
$ g(\xi) = f(\frac{-b}{2a} + \xi) - (\frac{-b^{2}}{4a} +c ) $
$ = a(\frac{-b}{2a} + \xi)^{2}+b(\frac{-b}{2a} + \xi) +c - (\frac{-b^{2}}{4a}+c) $
$ = \frac{b^{2}}{4a}-b\xi+a\xi^{2}-\frac{b^{2}}{2a}+b\xi +\frac{b^{2}}{4a} $
$ = a\xi^{2} $
となる。これは、$x$-$y$ 座標軸を平行移動して、点
$ \left( \frac{-b}{2a}, \frac{-b^{2}}{4a} +c \right) $
が原点になるように新しく $\xi$-$\eta$ 座標軸を導入すると、
$ \eta = g(\xi) = a\xi^{2} (\ge 0)$
と、2次関数の標準形になるということである。$x$-$y$ 座標系に戻せば
$x=\frac{-b}{2a} +\xi,y=\eta + \frac{-b^{2}}{4a} +c$
を代入して
$y=a(x-\frac{-b}{2a} )^{2}+ \frac{-b^{2}}{4a} +c \ge \frac{-b^{2}}{4a} +c$■
なんと、「2次関数 $y=ax^{2}+bx+c$ のグラフは、すべて $y=ax^{2}$ を平行移動したものになっている」という事実が、平方完成をせずに、解の公式だけで導かれたかのように見える。
しかし、よく考えてみると、解の公式はどうやって導かれたのであろうか。
(問題6) 2次方程式の解の公式を証明せよ。---
(証明6-1) $ ax^{2}+bx+c = 0 $を
$ a (x + \frac{b}{2a})^{2} - \frac{b^{2}-4ac}{4a} =0 $
と平方完成し、開平して、
$ x + \frac{b}{2a}= \pm \sqrt{\frac{b^{2}-4ac}{4a^{2}}} $■
つまり、解の公式は平方完成することにより得られた式であったのだ。どうあがいても、「グラフがすべて $y=ax^{2}$ のそれと同じになる」ということの証明は、平方完成を使わずには不可能なのだ。
なぜならば、$Y=aX^{2}$ のグラフと同じになるということを式で表すと、
$ \left\{\begin{array}{rcl}X & = & x-p \\Y & = & y-q
\end{array}\right. $
を代入すれば、
$y-q = a(x-p)^{2}$ …… (5)
となるが、(5)の式を出すことを平方完成というのであった。すなわち、「$Y=aX^{2}$ のグラフと同じになる」ということと、平方完成をすることとは同義なのであったのだ。
筆者が当初抱いた目論見、すなわち平方完成を使わずに、2次関数の頂点における最小性を示すことは、不可能な夢であったようだ。なぜだろうか。
(問題7) 2次関数の対称性を仮定して、最小値問題を解け。---
(解7-1) 対称とは、$x$のある値を中心に等距離のところで同じ値$y$をとることである。言い換えると、
$ y=f(x) = ax^{2} +bx +c $
の値は、ある値
$ x_{0}(=\frac{-b}{2a} ) $
を中心に $x_{0}\pm \xi$ のところで同じになる、ということである。すなわち
$ \forall \xi: f(x_{0}+\xi) = f(x_{0}-\xi) $
となる$x_{0}$が存在するということである。
このような$x_{0}$が存在すると仮定すると、どんなことが言えるかを調べてみる。
$ f(x_{0}+\xi) = a(x_{0}+\xi)^{2} +b(x_{0}+\xi)+c $ …… (6)
$ f(x_{0}-\xi) = a(x_{0}-\xi)^{2} +b(x_{0}-\xi)+c $
の辺々を引いて、
$ 0= 4ax_{0}\xi +2b\xi .$
ここで、$\xi$ は任意であったから、両辺を $2\xi$ で割って、
$2a x_{0}+b=0 $ …… (7)
(これから、頂点の$x$座標の公式:$ x_{0} = \frac{-b}{2a} $が出る。)
さて、(6)の右辺を展開してみると、
$ f(x_{0} +\xi) = ax_{0}^{2}+2ax_{0}\xi+a\xi^{2} +bx_{0} + b\xi +c $
$ = a\xi^{2} + (2ax_{0}+b)\xi + (ax_{0}^{2}+bx_{0}+c) .$
この式は、関数 $f$ を点 $x_{0}$ において、テイラー展開したものになっている。この式の $\xi$ の1次の係数、すなわち微分係数 $f'(x_{0})=2ax_{0}+b$ は(7)より0 だから、
$ f(x_{0}+\xi)= a\xi^{2} + f(x_{0}) $
ここで、$x=x_{0}+\xi$ とすると、
$ f(x) = a(x-x_{0})^{2} + f(x_{0}) \ge f(x_{0})$■
やはり、平方完成からは逃れられぬのであった。
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