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グラフの平行移動と運動法則
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2次関数 $y=ax^{2}$ のグラフを平行移動するとどうなるか。これを斜面の運動と関連づけて述べるとどうなるか調べよう。
(本稿は、グラフの平行移動を物理と結び付けて説明しようとすると、結構難しくなる--というお話です。)
【斜面の運動と座標変換】
斜面を球が転がり落ちる、というひとつの現象があったとする。この物理現象そのものが、時刻 $T$ に対し位置 $S$ を対応させる一つの関数であると言ってよい。
$S=f(T) \cdots (1)$
(図1)
これに対し2人の観測者がいて、A氏が自分の時計 $x$ と物指 $y$ で測定したら
$y=ax^{2} \cdots (2)$
となったとする。これを、B氏の時計 $X$ と物指 $Y$ で測る(時計は $p$ 秒だけ進んでいて、物指は $q$ メートルだけ高い所から測るとする)と
(図2)
$X=x+p, Y=y+q$
となるので、この座標変換の式を
$x=X-p, y=Y-q$
と変形してから (2) に代入すれば
$Y=a(X-p)^{2} +q \cdots (3)$
となる。
これで "$-p$" と "$+q$" の符号がこのようになることが納得できる。
A氏とB氏とでは使っている座標系が違うことを強調するため、変数も違えた方が分かりやすいと考え、一方は小文字、他方は大文字で表わした。
区別しなくてもよいのなら、すべて小文字にして構わない。
(2)と(3)は、実数 $\mathbb{R}$ から $\mathbb{R}$ への関数と見ると、式が全く違うことからして異なる関数と言える。
しかし、両方とも同じ関数(1)を表現したものだから、表現方法が異なるだけで同じ関数であるとも言える。実際
$x=X-p, y=Y-q$
という座標変換によって(2)と(3)は互いに移りあえるのだから、これら2つの関数は同じものと言ってもよいだろう。
(蛇足1) 上記の説明で使われた事実は、物理学の世界ではガリレオの相対性原理と呼ばれている。
慣性系 (観測系が互いに相対的に静止しているか、等速直線運動をしている) ならどっちの座標系で観測しても同じ物理法則が成り立つ--というものである。
ただしニュートン力学では成り立つ原理ではあるが、電磁気学では成り立たなかったりするし、特殊相対性理論でも観測系に依存して時間が遅れたり、長さが短くなってしまう。
【座標軸の移動で説明】
上に述べたことをヒントにグラフの平行移動を説明しよう。
(図3)
関数
$y=ax^{2} \cdots (4)$
のグラフがあったとする。
これに対し、新しい座標軸を$X$軸、$Y$軸に設定するのだが、$X$ は $x$ より $p$ だけ手前から測りたいから
「 $X$ 軸を横方向に $p$ だけ平行移動したものが $x$ 軸になる」
ように、$Y$ は $y$ より $q$ だけ長めに測りたいから
「 $Y$ 軸を縦方向に $q$ だけ平行移動したものが $y$ 軸になる」
ようにする。さすれば図3を参照して
$X=x+p, Y=y+q$
すなわち
$x=X-p, y=Y-q$
が座標変換の式となる。
したがって新座標(大文字)で放物線の方程式(4)を書き直すと
$Y-q=a(X-p)^{2}$
すなわち
$Y=a(X-p)^{2} +q \cdots (5)$
となる。
座標軸を平行移動することは、相対的に見ればグラフ を平行移動することと同じである。
だから、(4)を $x$ 軸方向に $p$, $y$ 軸方向に $q$ だけ平行移動したグラフの方程式は($X,Y$を小文字に変えて)
$y=a(x-p)^{2} +q \cdots (5')$
になる。
上記の説明は、グラフの移動を考えるのに実際には座標軸の方を移動していて、邪道とも言える気がする。そこで別の説明法がないか考えてみる。
【2つの運動と関数】
先に挙げた斜面の運動は、1つの現象を2人の観測者が見た場合のものであった。
次に、1人の観測者(時計と物指は1組しか持っていない)が見た2つの現象を考える。
(図4)
斜面上を点Pから第1の球を転がすと、
$y=ax^2 \cdots (6)$
となったとしよう。
この関係式はいつでもどこでも成り立つ(物理学的に言うと厳密には成り立たない→蛇足3 参照)。すなわち、適当に座標系を設定すれば
$\mbox{☆} = a \mbox{□}^{2} \cdots (7)$
という方程式が成り立つ。この事実を落体の2乗法則と呼んでおく。
文字でないと不便なので、2乗法則を変数 $\mbox{□},\mbox{☆}$ をそれぞれ $X,Y$ に置き換えて
$Y= a X^{2} \cdots (7')$
としておこう。
さて引き続いて、同形同大で同じ材質の第2の球を $p$ 秒遅れて、$q$ メートル降りた点Qから転がす(物指は動かさない)とすると
$X=x-p,Y=y-q$
を(7')に代入して
$y=a(x-p)^{2} +q \cdots (8)$
となる。これが平行移動した後のグラフの式なのだが、でもまだどのように平行移動したのかを言っていなかった。
(図5)
整理してみよう。第2の球は2乗法則により、適当な座標系で表現すると
$Y=aX^2$
となる。第1の球も同じ式(文字は異なるが)
$y=ax^2$
で表現できる。両者は法則は同じで、変数が違うだけで、変数変換の規則は $p$ 秒遅れで、$q$ メートル低いことから
$X=x-p, Y=y-q$
または
$x=X+p, y=Y+q$
と分かる。図5を見ると分かるように、「第1の球」のグラフ上の点 $(x,y)$ を横方向に $p$, 縦方向に $q$ だけ平行移動した点 $(x,y)$
が、「第2の球」のグラフ上にある。変換の式を代入して「第2の球」のグラフの式(8)が得られる。
これで、$y=ax^2$ のグラフを $x$ 軸方向に $p$, $y$ 軸方向に $q$ だけ平行移動したグラフの方程式が(8)になることが説明できた。
ただ、この説明の欠点は、2つの運動を観測しているのだから、(6)と(8)はそもそも異なる関数だという点だ。
関数のグラフを平行移動したらどうなる?--を考えているのに、異なる2つの関数を考えているのであったら、意味がない。
(蛇足2)本式の物理学では、球に働く力から微分方程式をたててそれを解いて求める。(グラフを平行移動してとは考えない。)
斜面の運動が
$ \frac{d^{2} y}{dx^{2}} = 2a$
という微分方程式で表わされるのなら、1回積分して初期条件:
P発では $x=0$のとき $\frac{d y}{dx} =0$
Q発では $x=p$のとき $\frac{d y}{dx} =0$
を考慮して
$\frac{d y}{dx} =2ax$
$\frac{d y}{dx} =2a(x-p)$
となり、さらにもう1回積分して初期条件:
P発では $x=0$のとき $y =0$
Q発では $x=p$のとき $y =q$
を考慮して
$y=ax^{2} $
$y=a(x-p)^{2} +q $
となる。
【結語】
2次関数を教えるなら落下運動だとばかりに、放物線の平行移動を物理運動から説明しようとすると、結構難しくなってしまう。
(蛇足3) 厳密に言うと、P点と Q点は標高が異なるから重力加速度が異なるので、(6) と (8) の両方が成り立つことはありえない。
精密には、標高(または距離) に応じた重力加速度を含んだ方程式に換えなければならない。すなわち、加速度の半分を $a$ ではなく、$a(h)$
というように標高 $h$ の関数にする。
(または $a(y)$ というように距離 $y$ の関数にして、微分方程式を
$ \frac{d^{2} y}{dx^{2}} = 2a(y)$
とする。)
『グラフの平行移動と座標変換』改題。
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