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数の計算のどこでつまづくか

 (C) virtual_high_school, 2017

§0. はじめに
§1.忘れた九九は思い出せるか
§2. 忘れるくらいなら公式は覚えなくよいのか
§3. なぜ交換・結合法則を使わないのか
§4. 正負の計算のどこでつまづくか
§5. 演算の優先順位が分かっていない
§6. 括弧省略原則と例外
§7. 数学表記法のおかしい所
§8. 電卓の使いにくさ

§0. はじめに

かつて、分数の計算のできない大学生が問題になったことがある。
その時点で、もう、高校生が分数のできないことは話題にならなかった。それは高校生ができないことは世間周知の事実であったからだ。
などという愚痴を言っても何も始まらない。ここでは、現在の高校生がどういった所でつまづいているかを、数や式の計算を中心に見ていきたい。
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§1. 忘れた九九は思い出せるか

先日、定期テストを返却したところ、計算が合っているのに減点されていると答案を持ってきた生徒がいた。
見れば、何かの計算の途中で、
   $ 7 \times 7 = 59 $
としてあったのである。

その生徒はけっこう成績のよい生徒(3年生)であったのだが、間違いの箇所を指摘すると、「先生、七七五十九でしょ」と言った。
私が「四十九だろ」と言うと私に疑いの眼を向けたが、数秒後に、そんな気もしてきたのか、納得したのかどうだか、しぶしぶのように引き下がった。

同じテストに「サイコロを2個同時に投げて、$\cdots$ 」という確率の問題を出した。分母を 36 でなく 12 にする答案がけっこうあった。
   $ 6 \times 6 = 12 $
とついウッカリ掛けるべきところを足してしまったんだと思っていたら、返却時に

「どうして分母が 12 でなく 36 なの。先生、六六十二でしょ。」

と言っている生徒がいた。(12 と間違えた生徒の全員が、九九の覚え違いということではないと思うけど。)

実はこれはけっこうある間違いで

二三が五

というたし算九九が、かけ算九九とゴッチャになっていることがある。
(たし算九九は歌にもなっていて、CD として販売されています。)

また、授業中に隣同士で言い合いをしている生徒がいて、聞いてみると片方の生徒が「八六五十八だ」と言い、一方の生徒が「八六四十二」と言っている。
私は「何を言ってるんだ。八六四十八だろ」と言いながら、なんだか私も自信がなくなってきて、頭の中で
   $ 8 \times 6 = 8 \times 2 \times 3 = 16 \times 3 = \mbox{?} $
とやって、48 で正しいことを確認した。
間違った九九を聞いてしまうと、正しい九九が思い出せなくなってしまう。

名前を度忘れした人に出会って、しばらく考えていると思い出すことがあるが、思い出せればそのときは「そうだ、○○さんだったけ」と自信を持って断言できる。
九九は忘れてしまうと、自信を持って思い出すことができない。
八六四十八だったような気がするが、ひょっとしたら五十八だったかもしれないというような不安な感じがつきまとうのだ。

私がやったように九九を再製する方法は、81個ある九九のうちのいくつかを忘れる程度であれば可能である。
だが、一定程度以上に多くの九九を忘れると、再製できなくなる。さきに挙げた生徒たちはそれかもしれない。
九九を忘れるとけっこう面倒である。
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§2. 忘れるくらいなら公式は覚えなくよいのか

2次方程式の解の公式には2種類あって、1次の係数 $b$ が偶数のとき($b= 2b'$)には
   $ x =\frac{-b' \pm \sqrt{(b')^{2}-ac}}{a}$ ……(1)
が便利だ。
しかし、この公式を覚えたいのなら
   $x =\frac{-b \pm \sqrt{b^{2}-4ac}}{2a} $ ……(2)
の方も覚えておかねばならない。(2)でないと解けない問題があるからだ。

ところが一瞬(1)の公式が思い出せないことがある。でも頭の中で(2)において $b= 2b'$ を代入すれば(1)の公式がすぐに作れる。
でももし(2)の方も忘れていたらどうなるだろうか。
平方完成などすれば、解の公式は作れるが、それを頭の中だけでやるのは無理だ。紙と鉛筆が必要であろう。

つまり公式には、忘れてもいいものと、絶対忘れてはいけないものとがあるということだ。

蛇足ながら、曾野綾子の「どうせ日常生活で使わないのだから、解の公式を覚える必要はない」という発言に、今更ながら反対しておこう。
卒業してしまえば使わないものであったとしても、だからといって在学中も覚えなくていいということにはならない。暗記より考えることが主の数学であるとはいえ、ある程度のことは覚えたり、暗記したりすることは必要だ。そうでないと、そこから先、話が発展していかない。
小説を読んでいる最中は、登場人物の名前を覚えておかないとストーリーが分からなくなる。読了後は覚えておかなくてもよいからといって、読んでいるときも覚えなくていいという理屈にはならないのと同じだ。
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§3. なぜ交換・結合法則を使わないのか
「関数 $ y = x^{3}-x^{2}- 5x +6 $ において、$x=2$ のときの $y$ の値を求めよ」

という問題があったとしよう。
   $ y = 8 - 4 -10 + 6 $
を計算することになるが、このあと
   $ = 8+6 - 4 - 10 $
   $= (8+6) - (4+ 10) $ ……(3)
とすると楽だ。(中学で言う代数和の計算と同じだ。)

これを左から順に
   $ y = ((8 - 4) -10) + 6 $
   $ = (4-10)+6 = \cdots $
のようにやると面倒だ。($4-10$ができなくて挫折して、答の 0 が出なかったりする。)

それなのに、式の計算では $ab = ba$ を使わないと、$(a+b)^{2}$ の展開公式が作れないけど、数の計算なら、ただ左からやっていけば交換法則は不要であるため、上のようなたし算で交換法則を使う生徒は少なくなってしまう。

左から順にやらないと計算違いを起こすことを生徒は経験上、知っている。例えば、
   $ 10 - 7 - 2 =(10-7) -2 $
   $= 3 - 2 = 1 $
の計算の順序を変えて
   $ 10 - 7 - 2 = 10 - (7-2) $
   $= 10-5 $
とやろうものなら、間違いだ。

引き算では結合法則は成り立たないからだ。
こういったことが交換法則を使わないことを促進している可能性がある。

ついでに言っておくと、割り算だって、
   $ 48 \div 6 \div 2 = 8 \div 2 = 4 $
であって、うかつに「結合法則」を使って
   $ 48 \div 6 \div 2 = 48 \div( 6 \div 2) $
   $= 48 \div 3 = 16 $
とやってはいけない。

つまり、足し算と掛け算では結合法則が成り立つが、引き算、割り算ではダメなのだ。

ここらへんは、教科書における代数の法則のとらえ方がおかしいのだと思う。
代数学では引き算、割り算はそれぞれ
   $ a- b = a+(-b) $
   $ a \div b = a \times \frac{1}{b} $
のように、逆元を足したり掛けたりすると考えるのがふつうであろう。だから、

   $ \{ a+(-b) \} +(-c)=a + \{ (-b)+ (-c) \} $

   $ (a \times \frac{1}{b}) \times \frac{1}{c} = a \times ( \frac{1}{b} \times \frac{1}{c}) $

と考えて、結合法則はいつでも成り立つわけなのだ。

だから、小学校で学んだ $+,-,\times,\div$ の四則は、中学以降は、$+,\times$ の二則と解釈して教科書を記述すべきだ。
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§4. 正負の計算のどこでつまづくか

前節で $4-10$ の計算で挫折すると述べた。

ある生徒は、
「正の数と負の数だから、マイナスになるので
   $ 4- 10 = -6 $
だろ。もしマイナス同士だったら、プラスだから
   $ -4-10= 6 $
になるんだよ。」
と友達に説明してあげていた。
どうやら、正負の数の足し算と掛け算がゴッチャになっているようだ。

このように中途半端に理解しているときは、いつでも間違いが露呈するわけではないのでかえって修正が難しい。

前節の(3)式に出てきた
   $ -4-10 = -(4+10) $
は生徒には難しい。
右辺を分配法則で展開すると
   $ -(4+10) = -4 +10 = 6 $
と、第2項でとちることが多いからだ。
(アレ、上の生徒が言うように $-4-10= 6$ は正しい式になってしまった。)

ところで、いま迂濶に「展開」と述べたが、それは
   $ - (4+10) = (-1) \times ( 4+10) $
と考えたからだが、厳密に言うと
   $ -a \mbox{ ($a$ の逆元)} $

   $ -1 \times a \mbox{ ($-1$ と $a$ の積)} $
は異なる。
$-$ には、二重三重の意味があるのだ。

ところで、先日生徒から「マイナスの数は、ほんとは存在しないんでしょ」と言われて、ビックリした。
『虚数』の言い間違いではなく、まさしく負の数が実在しないと言っているのである。
正負の数を足したり掛けたりしたら符号はどうなるかということを、おそらく単なる取り決めと感じているのだろう。実在しない数だけど、人間が勝手に計算規則を決めていると思っているのであろう。
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§5. 演算の優先順位が分かっていない

前節で括弧の使い方が分かっていないことを述べた。なるほど括弧は難しい。
等比数列の一般項が
   $ a_{n} = a \times r^{n-1} $
であることは分かったとしよう。ところが具体的に項を求めようとして、$a=2,r=3,n=3$ を代入して
   $ a_{3} = 2 \times 3^{2} $
を計算しようとする ($a_{3}$ にも代入して $2_{3}$ と書く生徒がいて驚いたことがある。) のだが、
   $ 2 \times 3^{2} \neq (2 \times 3) ^{2} $
であることが分からない生徒がいる。私は

「2 掛ける3の2乗は、2掛ける3 の2乗とは違うんだ」

と口を酸っぱくして言うのだが、耳で聞くと同じに聞こえてしまう。

冗談はともかく、
   $2 \times 3^{2}$

   $ 2 \times ( 3^{2} ) $
の意味なのに、こうは書かない。

それは、掛け算より累乗が優先されるからで、演算の優先順位は
   $ \mbox{累乗} > \mbox{掛け算} > \mbox{足し算} $
となっているからだ。
だから、付けなくとも意味の誤解の生じない括弧は省略されるのである。

この優先順位が分かっていない生徒がいる。
だから、$ 2 \times 3^{2}$ がそのときの気分で、18 になったり 36 になったりする。
いつも同じ誤謬なら修正がしやすいが、ときどき間違える錯誤は直すのが厄介である。
いつも不調の電気製品は修理に出せるが、ときどきおかしくなる機械は修理に出しても「異常なし」で戻ってくる。あれと同じだ。

$2 \times 3^{2}$ が正しく計算できても、公比をマイナスにした
   $ 2 \times (-3)^{2} $
になると計算できないことは多い。

上の式の難しさは公式 $a \times r^{n-1}$ に素直に代入すれば
   $ 2 \times -3^{2} $
になってしまう点にある。私は

「省略されていた括弧が復活したのだ」

と言うのだが、それでもこれは難しい。
公式には括弧が付いていなかったのだから、どうしてもこの式になるわけだ。

そして、この式の値を計算すると
   $ 2 \times -3^{2} = 2\times -9 = -18 $
という誤答になることが多い。
(そのときの気分で18 という正解になることもある。)

かえって、数列の公式を一切覚えず
   $ 2, -6, 18, \cdots $
と1項1項計算する生徒の方が正解する。

使えない公式は覚えても意味がないのである。(公式は覚えておかないといけないと前述したが、それと矛盾はしない。)
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§6. 括弧省略原則と例外

前節の計算に出てきた
   $2 \times -3^{2} $ ……(4)
という式は本来ありえない表現だと感じた読者がおいでだろう。それでは、

$2$ と $-3$ の積はどう表現するのか

と、お尋ねしよう。当然
   $ 2 \times (-3) $
なのだが、
   $2 \times -3 $ ……(5)
と書いても構わないはずである。他の解釈はないからである。だが、なぜか慣習はそれを許さない。

それから
   $ (\sqrt{2})^{2} $
も慣習上、括弧を付けて書くが、これも
   $ \sqrt{2}^{2} $
と書いても意味の紛れが生ずるおそれはない。
誤解が生じない括弧は省略するという原則は、これらの場合、適用されない。(検定済教科書においては。)

さて、ここだけの話、(5) という表現を認めたとしよう。その場合、(4) はどう解釈されるべきなのだろうか。

演算子 $\times$ の直後に演算子 $-$ が続くことはあり得ないから、この $-$ は符号(または逆元を表す記号)である。
そこまではよいのだが、$-3^{2}$ における 2乗の記号は 3 だけにかかるのか、$-3$ 全体にかかるのか?
ここで、

符号より累乗が優先される

という規則がある。(符号と引き算は似たようなものだから、こういう規則がおそらくあるのだ。)
それにより
   $ -3^{2} = -9 $
となる。

規則をどんどん作らないとならないのは、現行の表記法の欠点なのだろう。
もし改善するなら、マイナスが演算子を表すのか、符号を表すのかを判然とさせればよい。

例えば、マイナス 3 を
   $ \tilde{3} $
と書くことにする。そうすれば、

   $ 2 \times (-3)^{2} = 18 \Rightarrow 2 \times \tilde{3}^{2} =18 $

   $ 2 \times (-3^{2}) = -18 \Rightarrow 2 \times \tilde{3^{2}} = \tilde{18} $

という具合に書き改まることになる。

これだと、さきの等比数列の問題は $2 \times r^{2}$ に $r = \tilde{3}$ を代入するだけで括弧を新たに付ける必要もなく、正解に近づきやすくなる。
現行の表記法よりましなような気がするが、記号や表記法というものは歴史的に形作られたものであるから、おいそれと改訂するわけにはいかない。

つまり、生徒が計算間違いするのには数学の側にも責任があるということになる。
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§7. 数学表記法のおかしい所

どうせ改訂される見込みはないのだが、もう少し数学の責任を追及してみよう。

例えば、2乗の記号もおかしい。

ふつう数学では、操作子(オペレータ)は操作対象(オペランド)の左に来る。例えば
   $ \sin \pi , $
   $\log 10, $
   $\sqrt{4}, \lim 2^{n} $
という具合だ。だから、
   $x^{2}$
と書かずに
   $ SQR x $
のように書けばよい。これなら
   $ (-3)^{2} = 9 \Rightarrow SQR -3 = 9 $
   $ -3^{2} = -9 \Rightarrow - SQR 3 = -9 $
となって、符号をつけてから 2乗するのか、2乗してから符号を付けるのかハッキリする。

ところで、現行の表記法になるべく近づけるなら、
   $SQR -3$

   $SQR(-3)$
と書くべきだった。なぜなら
   $ \sin (- 30^{\circ}) $
というように、オペランドがマイナスだと括弧を付けるのがふつうだから。

でも、括弧なしで
   $ \sin - 30^{\circ} $
でも、誤解は生じないのに、こう書くと×にする先生もいるだろう。
これも変な話だ。

ちなみに、ルートだと
   $ \sqrt{-1} $
と書いて、
   $ \sqrt{(-1)} $
とは書かない。なんとも不思議な慣習だ。

いっそのこと $\sin$ の場合はいつでもオペランドに括弧を付けて
   $ \sin (x) $
のように書くことにすればよいようなものだが、こうは書かない。

なぜこのときは括弧を書かないのだろう。一般の関数の記号だと
   $ f(x) $
と書いて、$fx$ と書くことはあまりないではないか。
$\sin$ の記号を $f$ に変えただけと考えるなら、$fx$ となるはずだ。(注記:$fx$ は正しい表記法である。実際にこれを使う人もいる。)

いずれにせよ、数学の理論は論理的だが、数学の表記法は論理的でなく不合理な点があることが分かる。
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§8. 電卓の使いにくさ

計算ができないのならば電卓を使わせるという手もあるが、電卓の使い方も注意すべき点がある。

これについて述べて、拙稿を終わりにしよう。
符号については、数学の表記より合理的なところがある。
   $ (-3)^{2} = \tilde{3}^{2} $
は、$3$ を押した後、符号キー(「$+/-$」と書いてあったりする)を押して、2乗キー(「$x^{2}$」)を押せばよい。
   $ -3^{2} = \tilde{{3}^{2}} $
なら、3 の次に 2乗キーを押して、符号キーを押す。記号を下から上に向かって押していけばよいから、合理的だ。

   $ -4 - 10 = \tilde{4} -10 $
も、4 $\rightarrow$ 「$+/-$」 $\rightarrow$ 「$-$」$\rightarrow$ 10 の順に押す。
電卓では、符号の $-$と演算子の $-$ は区別される。

ところが、分数の計算では困ったことがある。
   $ \frac{24}{2 \times 3} $
を電卓で計算しようとして
   $ 24 \div 2 \times 3 $
と打ち込むと、36 になって、間違いだ。
ここは
   $ 24 \div ( 2 \times 3 ) $
と打ち込まないとダメだ。
元の式には括弧がないにもかかわらず、である。

それでいて、電卓の説明書に「完全数式通り」と書いてある。もっともそれは関数電卓であって、安い電卓だと括弧が打ち込めない。そこで
   $ 24 \div 2 \div 3 $
と打ち込むことになる。

ここらへんを生徒が分かっていないと、「今の世の中、計算はすべて電卓でやればいい」と言い切ることができない。
理屈が分かっていないと、文明の利器は使えないのである。

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