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§1. ガウスが作図可能を発見
§2. ガウスの方法
§3. 証明の詰め
§4. 作図可能な正多角形
§∞. 参考文献
高木貞治の本(文献[1])の冒頭に、ガウスが19才のときに正17角形が作図可能であることを発見した話が出てくる。それでガウスは数学で身を立てる決心をしたのだった。
どうやると正17角形が作図できるのかは、ガウス自身が「整数論」(文献[2])の第7章に書いている。以下、この「整数論」に基づいて作図法を紹介しよう。
半径$1$の円周を$17$等分する点を複素数で表わすと
$x= \cos \frac{2k\pi}{17}+i\sin \frac{2k\pi}{17}(0 \leq k < 17)$
となる。これら17個の数はド・モアブルの定理から、方程式
$x^{17}-1=0$ ……(1)
を満たすことが分かる。これら17個の点を順次結べば正17角形ができる。
ただ、上のように三角関数でしか表せないのであれば定規とコンパスで作図することはできない。複素数解の実部と虚部がともに、整数に加減乗除と開平(√)を有限回施してできる数(これを「作図可能数」と呼ぶことにしよう)であることが作図できるための必要十分条件なのである。
(1)の実数解は$x=1$のみであるので、因数定理により(1)の左辺は$x-1$で割り切れて、
$x^{16}+x^{15}+ \cdots +x+1=0$ ……(2)
この方程式にはもう実数解は含まれないから、実数体上で因数分解する(因数の係数が実数という意味)と
$(x^{2}-c_{1}x+1)(x^{2}-c_{2}x+1) \cdot \cdots \cdot (x^{2}-c_{8}x+1)=0$
……(3)
と、すべて因数は2次式になる。(1次式の因数があったら実数解ができてしまうから。)
では、各括弧の中の1次の係数$c_{1}, \cdots, c_{8}$ はいくらになるのだろうか。しかもそれらがすべて「作図可能数」になるのだろうか。もし作図可能数ならば、
$x^{2}-c_{i}x+1=0$
の解は虚数にはなるが、その実部と虚部は解の公式から作図可能数になることが分かるので、正17角形の作図可能性が証明される。実際そうであることを以下に示そう。
方程式
(A) $x^{2}+x-4=0$
の解を$a_{1},a_{1}$とする。すなわち
$a_{1}=\frac{-1+\sqrt{17}} {2}$
$a_{2}=\frac{-1-\sqrt{17}} {2}$
である。
上の解を元にして次の方程式(B1), (B2)を作る。まず、方程式
(B1) $x^{2}-a_{1}x-1=0$
である。これの解を$b_{1},b_{2}$とする。すなわち
$b_{1}=\frac{1}{2} \left( a_{1}+\sqrt{a_{1}^{2}+4 }\right) = \frac{1}{2}
\left( \frac{-1+\sqrt{17}} {2}+\sqrt{ (\frac{-1+\sqrt{17}} {2})^{2}+4}
\right)$
$=\frac{1}{4} \left( -1 +\sqrt{17} +\sqrt{34-2\sqrt{17}} \right)$
$=2.04948117773532 $
と
$b_{2}=\frac{1}{2} \left( a_{1}-\sqrt{a_{1}^{2}+4 } \right)$
$=\frac{1}{4} \left( -1 +\sqrt{17} -\sqrt{34-2\sqrt{17}} \right)$
$=-0.487928364926485 $
である。また、方程式
(B2) $x^{2}-a_{2}x-1=0$
の解を$b_{3},b_{4}$とする。すなわち
$b_{3}=\frac{1}{2} \left( a_{2}+\sqrt{a_{2}^{2}+4} \right) =\frac{1}{2}
\left( \frac{-1-\sqrt{17}} {2}+\sqrt{(\frac{-1-\sqrt{17}}{2})^{2} +4} \right)$
$=\frac{1}{4} \left( -1 -\sqrt{17} +\sqrt{34+2\sqrt{17}} \right)$
$=0.34415073140891 $
と
$b_{4}=\frac{1}{2} \left( a_{2}-\sqrt{a_{2}^{2}+4} \right) $
$=\frac{1}{4} \left( -1 -\sqrt{17} -\sqrt{34+2\sqrt{17}} \right)$
$=-2.90570354421774 $
である。
最後に、以下の(C1)~(C4)の方程式を解いて、$c_{1}, \cdots, c_{8}$の値を決定する。
方程式
(C1) $x^{2}-b_{1}x+b_{3}=0$
の解を$c_{1},c_{2}$とする。すなわち
$c_{1} = \frac{1}{2} \left( b_{1}+\sqrt{b_{1}^{2}-4 b_{3}} \right) $
$=\frac{1}{8} \left( -1+\sqrt{17} +\sqrt{34-2\sqrt{17}} +\sqrt{ 68
+12 \sqrt{17} +2(-1+\sqrt{17})\sqrt{34-2\sqrt{17}} -16 \sqrt{34+2\sqrt{17}}
} \right) $
$= 1.86494445880871 $
と
$c_{2} = \frac{1}{2} \left( b_{1}-\sqrt{b_{1}^{2}-4 b_{3}} \right) $
$= \mbox{(計算省略)}$
である。これで$c_{1},c_{2}$ が作図可能数であることが確認できた。
同様に、方程式
(C2) $x^{2}-b_{2}x+b_{4}=0$
の解を$c_{3},c_{4}$とし、方程式
(C3) $x^{2}-b_{3}x+b_{2}=0$
の解を$c_{5},c_{6}$とし、方程式
(C4) $x^{2}-b_{4}x+b_{1}=0$
の解を$c_{7},c_{8}$とすると、これらもみな上と同様に作図可能数であることになる。結局$c_{1}, \cdots, c_{8}$がすべて作図可能数であることが分かった。
残された問題は、(2)の左辺は(3)の左辺のように本当に因数分解されるのか、言い換えると(3)の左辺を展開すると(2)の左辺になるのかを確認することである。
まず、括弧を2つずつ組んで展開してみる。
$(x^{2}-c_{1}x+1)(x^{2}-c_{2}x+1) $
$=x^{4}-(c_{1}+c_{2})x^{3}+(1+c_{1}c_{2}+1)x^{2} -(c_{1}+c_{2})x+1$
$=x^{4}-b_{1}x^{3}+ (b_{3}+2)x^{2} -b_{1}x+1$
あとの3組も同様に展開すれば
$(x^{2}-c_{3}x+1)(x^{2}-c_{4}x+1) =x^{4}-b_{2}x^{3}+ (b_{4}+2)x^{2}
-b_{2}x+1$,
$(x^{2}-c_{5}x+1)(x^{2}-c_{6}x+1) =x^{4}-b_{3}x^{3}+ (b_{2}+2)x^{2}
-b_{3}x+1$,
$(x^{2}-c_{7}x+1)(x^{2}-c_{8}x+1) =x^{4}-b_{4}x^{3}+ (b_{1}+2)x^{2}
-b_{4}x+1$
となる。なお、ここで解と係数の関係から
$c_{1}+c_{2}=b_{1},c_{1}c_{2}=b_{3}$
$c_{3}+c_{4}=b_{2},c_{3}c_{4}=b_{4}$
$c_{5}+c_{6}=b_{3},c_{5}c_{6}=b_{2}$
$c_{7}+c_{8}=b_{4},c_{7}c_{8}=b_{1}$
となることを使った。
今度は、上の4つの式を2つずつペアにして展開すると
$\{ x^{4}-b_{1}x^{3}+ (b_{3}+2)x^{2} -b_{1}x+1 \} \{ x^{4}-b_{2}x^{3}+
(b_{4}+2)x^{2} -b_{2}x+1\}$
$=x^{8} -a_{1}x^{7}+ (a_{2}+3)x^{6} -(3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})x^{5}
+(2a_{2}+3)x^{4} -(3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})x^{3}+(a_{2}+3)x^{2}-a_{1}x+1$
と
$\{x^{4}-b_{3}x^{3}+ (b_{2}+2)x^{2} -b_{3}x+1 \} \{ x^{4}-b_{4}x^{3}+
(b_{1}+2)x^{2} -b_{4}x+1 \}$
$=x^{8} -a_{2}x^{7} +(a_{1}+3)x^{6} -(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})x^{5}
+(2a_{1}+3)x^{4} -(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})x^{3}+(a_{1}+3)x^{2}-a_{2}x+1$
になる。なお、ここで解と係数の関係から
$b_{1}+b_{2}=a_{1},b_{1}b_{2}=-1$
$b_{3}+b_{4}=a_{2},b_{3}b_{4}=-1$
となることを使った。
いよいよ最後にこの2つの式を掛け合わせてみよう。展開後の係数は次のようになる。なお、こんどは
$a_{1}+a_{2}=-1,a_{1}a_{2}=-4$
を使う。
(1) 16次の係数は $1$
(2) 15次の係数は
$-a_{1}-a_{2} = 1$
(3) 14次の係数は
$(a_{2}+3) +a_{1}a_{2} +(a_{1}+3)=1$
(4) 13次の係}数は
$-(3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3}) -(a_{2}+3)a_{2} - a_{1}(a_{1}+3)-(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) =1$
なおここで、$b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}$ の値は直接計算することによって
$b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}=-2+\sqrt{17}$
と求めた。もう一方は
$b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3}= (b_{1}+b_{2})(b_{3}+b_{4}) - (b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})=
-2-\sqrt{17}$
である。
(5) 12次の係数は
$(2a_{2}+3) + (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})a_{2} + (a_{2}+3)(a_{1}+3)
+a_{1}(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) +(2a_{1}+3)$
$=-18 +a_{1}(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) + a_{2}(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})$
$=-18 +a_{1}(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) + a_{2} (b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})$
$=-18 +a_{1}(-2+\sqrt{17}) + a_{2} (-2-\sqrt{17}) $
$=-16+\sqrt{17} (a_{1}-a_{2})$
$=-16+\sqrt{17} \times \sqrt{17} =1$
ここで
$a_{1}-a_{2}=\sqrt{17}$
はその値から直接求めたものを使った。
(6) 11次の係数は
$-(3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3}) - (2a_{2}+3)a_{2} -(3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})(a_{1}+3)
$
$- (a_{2}+3)(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})-a_{1}(2a_{1}+3) - (3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})$
$=-30-(a_{1}+4)(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})-(a_{2}+4)(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})$
$=-30-(-2-\sqrt{17})(a_{1}+4) -(-2+\sqrt{17})(a_{2}+4)$
$=-16+\sqrt{17}(a_{1}-a_{2})=-16+\sqrt{17} \times \sqrt{17}=1$
(7) 10次の係数は
$(a_{2}+3) + (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})a_{2} + (2a_{2}+3)(a_{1}+3) + (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})$
$+ (a_{2}+3)(2a_{1}+3) + a_{1}(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) + (a_{1}+3)$
$=-62+4a_{1}(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) +4a_{2}(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})+(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})$
$=-62+4a_{1}(-2+\sqrt{17}) +4a_{2}(-2-\sqrt{17})+(-2+\sqrt{17})(-2-\sqrt{17})$
$=-62-8(a_{1}+a_{2})+4\sqrt{17}(a_{1}-a_{2})-13$
$=-67+4\sqrt{17}\times \sqrt{17} =1$
(8) 9次の係数は
$-a_{1} - (a_{2}+3)a_{2} - (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})(a_{1}+3) -
(2a_{2}+3)(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4}) $
$- (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})(2a_{1}+3)- (a_{2}+3)(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})
- a_{1}(a_{1}+3) -a_{2} $
$=-68-(3a_{1}+6)(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})-(3a_{2}+6)(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})
$
$=-68-(3a_{1}+6)(-2-\sqrt{17})-(3a_{2}+6)(-2+\sqrt{17})$
$=-50+3\sqrt{17} (a_{1}-a_{2}) =-50+3\sqrt{17}\times \sqrt{17}=1$
(9) 8次の係数は
$1 + a_{1}a_{2} + (a_{2}+3)(a_{1}+3) + (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})
+ (2a_{2}+3)(2a_{1}+3)$
$ + (3a_{1}+b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})(3a_{2}+b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})+
(a_{2}+3)(a_{1}+3) + a_{1}a_{2} +1 $
$=-87+6a_{1}(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})+6a_{2}(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})+2(b_{1}b_{3}+b_{2}b_{4})(b_{1}b_{4}+b_{2}b_{3})$
$=-87+6a_{1}(-2+\sqrt{17})+6a_{2}(-2-\sqrt{17})+2(-2+\sqrt{17})(-2-\sqrt{17})$
$=-101+6\sqrt{17}(a_{1}-a_{2})=1$
(10) 7次以下の係数については次のように求まる。いま8次式×8次式の展開をしているのだが、2つの8次式はともに相反方程式(係数が左右対称)であるので、これを掛けた結果も相反方程式になる。すなわち
7次の係数 = 9次の係数
6次の係数 = 10次の係数
5次の係数 = 11次の係数
4次の係数 = 12次の係数
3次の係数 = 13次の係数
2次の係数 = 14次の係数
1次の係数 = 15次の係数
定数項 = 16次の係数
よって、16次から定数項までのすべての係数が$1$になること、すなわち(3)と(2)が同値であることが分かった。
以上で正17角形が定規とコンパスで作図できることが証明されたのだが、作図と聞いて定規とコンパスを用意しなければと思った人はガッカリしたかも知れない。すべては計算ずくめなのであって、定規やコンパスを実際に使う場面は現れないのであった。だから「ガウスが正17角形の作図に成功した」と言ってはウソであって、正確には「ガウスが正17角形の作図可能性の証明に成功した」である。
$n$を素数とする。正$n$角形で作図可能なものは何だろう。正3角形、正5角形、正17角形は作図可能である。では、そのほかには何があるのか。
結果だけ述べると、$n-1$が$2$以外の素数を約数に持たないことが、作図可能であるための必要十分条件である。たしかに
$3-1=2$
$5-1=2 \cdot 2$
$17-1 =2 \cdot 2 \cdot 2 \cdot 2$
であり、しかも例えば最後の等式は2次方程式4個の解法に帰着されることを意味するのである。上に出てきた、(A)が1個目、(B1)~(B2)が2個目、(C1)~(C4)が3個目、そして$x^{2}-c_{i}x+1=0$が4個目の2次方程式である。
反対に作図できない正多角形を挙げると、$n=7,11,13,19,\cdots$である。そして確かに
$7-1 =2 \cdot 3$
$11-1 =2 \cdot 5$
$13-1 =2 \cdot 2 \cdot 3$
$19-1 =2 \cdot 3 \cdot 3$
であり、例えば正7角形は2次方程式1個と3次方程式1個の解法に帰着され、3次方程式の解の公式には3乗根が出てくるので作図できないのである。(5次方程式となれば解の公式すら存在しない。
[1] 高木貞治著「近世数学史談」岩波文庫, 1995年
[2] ガウス著、高瀬正仁訳「ガウス整数論」朝倉書店, 1995年
(邦訳の扉)
(原著1801年刊の扉)
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このページには筆者が開発した、ガウスとは異なる解き方を紹介してある。ガウスより分かりやすいと自負している。ぜひこちらもご覧ください。
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