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天秤の支点(力のモーメント)

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§1.モーメントとは何か


天秤の問題において、力のモーメント(moment of force または toruque という)=長さ×力、すなわち
   $x_{1} f_{1} + x_{2} f_{2} + \cdots + x_{n} f_{n} = x_{1} m_{1}g + x_{2}m_{2}g +\cdots +x_{n} m_{n}g $
($m_{i}$ は質量、$g$ は重力加速度)が登場する。天秤が釣り合う点が重心になることは、力のモーメントを使って解明しないと分からないからである。このことはけっして自明ではない。

ここでモーメント(moment)本来の定義を述べておこう。
   $x_{1} f_{1} + x_{2}f_{2} + \cdots + x_{n}f_{n} $ ……(1)
を、原点のまわりの$f_{i}$の1次のモーメントという。一見すると内積に似ているが、 $x_{i}$ と $f_{i}$ は異種の量だから、これは内積ではない。
   $x_{1}^{2}f_{1} + x_{2}^{2}f_{2} + \cdots +x_{n}^{2} f_{n} $ ……(2)
は、原点のまわりの$f_{i}$の2次のモーメントという。
   $ (x_{1}-a)^{2}f_{1} +(x_{2}-a)^{2}f_{2} + \cdots +( x_{n}-a)^{2}f_{n} $ ……(3)
は、点$a$のまわりの$f_{i}$の2次のモーメントという。

そういえば、確率論で出てくる期待値や分散とは、「確率のモーメント」のことである。期待値とは
   $E(X)= x_{1}p_{1} + x_{2}p_{2} + \cdots + x_{n}p_{n} $
であり、分散とは
   $V(X)= (x_{1}-\mu)^{2} p_{1}+ (x_{2}-\mu)^{2}p_{2} + \cdots +( x_{n}-\mu)^{2} p_{n}$
であるから、それぞれ(1),(3)と同じ式である。なお、確率論の本でこのモーメント$ E(X^{k}) = \sum_{i=1}^{n} x_{i}^{k} p_{i} $のことを「積率」と和訳しているものがある。確率との積だから「率積」の方がいいかなという気もしてくる。
ところで、ニュートンは moment を微分の意味に使っている。歴史的に見ると、モーメントという用語には紆余曲折があるようだ。


§2.天秤問題は重心では解けない


具体的な問題を使って論じよう。


【問題1】 下図の天秤は、どこに支点を置けば、釣り合うか。



よく「重心に支点を置くと、天秤は釣り合って静止する」と言うが、厳密に言うとそれはウソである。その理由をいくつか挙げてみる。


  1. 重心で天秤を支えても、静止するとは言えない。下図のように重心のまわりを突然クルクルと天秤が回転しだすかも知れない(まさか!)。でも、止まっている扇風機の羽を考えてみてください。

    扇風機の回転軸は羽の中心すなわち重心を貫通している。そして、指でこの羽を勢いよく回してみてください。クルクルと長いこと回っていることでしょう。ですから、重心で天秤が釣り合うことは、理論上はそう明らかではないのです。
  2. もう一つの難点は、重心で支えることが物理的に不可能の場合があることだ。
    下図を見てください。今度は重心が図中の × 印のところにあり、空中で支える訳にいかなくなるのです。

    実際的な例で、やじろべえを考えてみましょう。

    上図のように重心は×印のところにありますが、図のように指で支えると、重心でないにもかかわらず釣り合います。のみならず、この位置関係からやじろべえを傾けても、やじろべえはユラユラと揺れて、元の体勢に復元するのです。
  3. 下図のような状態で静止していれば、「釣り合っている」と言ってよいでしょう。

    では、下図のような状態で静止している場合は「釣り合っている」と言ってよいのでしょうか。

    このようなことは起きないのでしょうか、それとも必ず起きるものなのでしょうか。実験してみたら、こういうことは起きないというのはダメです。問題文にははっきり述べていませんが、ここでは天秤のさおの部分の質量は、無視できるとして解いているのですから、質量のないさおを作れない限り、実験しても無駄です。

結局は、天秤は力のモーメントを使わないと解け得ない問題なのである。


§3.天秤問題は力のモーメントで


先述の問題1は、正しくは力のモーメントを使って次のように解く。


(解) 支点$x$にて、この天秤を支えるとする。すると、支点には鉛直上向きに
   $(m_{1}+m_{2})g$
($g$は重力加速度)の垂直抗力が働く。

ここで力のモーメントの和は
   $N= x(m_{1}+m_{2})g -( x_{1} m_{1}g + x_{2}m_{2}g) =0$ ……(4)
のように、0にならなければならない。ゆえに、
   $x= \frac{ m_{1} x_{1} + m_{2} x_{2} }{m_{1} + m_{2} } $■

(4)において、$N=0$ としたのは、角運動量保存の法則(→後述)を使ったからだ。だから上の(解)は完璧ではない。


§4.速度と角速度


天秤棒なら1次元だけで考えられそうだが、3次元の世界の中に物体が入っていて、それの回転運動を考えることにする。あえて一般化して 3次元世界で考えるのである。そこで、手始めに2次元平面上の円運動を考える。


原点を中心にして、半径$r$で円運動している点 $A$ の直交座標を$(x,y)$ とすれば、位置ベクトルは
   $\vec{r} =\left (\begin{array}{c} x \\y \end{array} \right)$
で、微小時間 $\Delta t$ の間に動く移動量は
   $\Delta \vec{r} =\left (\begin{array}{c} \Delta x \\ \Delta y \end{array} \right)$
だから速度ベクトル
   $\vec{v} = \lim \frac{ \Delta \vec{r} } {\Delta t} =\left (\begin{array}{c} \dot{x} \\ \dot{y} \end{array} \right)$
また、ベクトルの内積
   $\vec{r} \cdot \vec{r} = \mid \vec{r} \mid^{2} =r^{2}$
を微分して
   $ \vec{v} \cdot \vec{r} + \vec{r} \cdot \vec{v} =2 \vec{v} \cdot \vec{r} =0$
だから、速度ベクトルは位置ベクトルに直交、よって速度ベクトルは円の接線方向を向く。
   
上の動点$A$の座標を今度は極座標を $(r,\theta)$ で表わそう。点 $A$ が微小時間 $\Delta t$ の間に動く円弧の長さは
   $ r \Delta \theta $
となり、速度 $\mid \vec{v} \mid$ は$ \frac{r \Delta \theta}{\Delta t} $の極限となり、
   $ v = r \dot{ \theta} = r \omega $
である。ここに出てきた偏角$\theta$の時間微分$\omega$が角速度だ。速度がベクトルであったので、角速度ベクトル$\vec{\omega}$なるものを考えよう。その絶対値は$\omega$に比例するものとしよう。
   $| \vec{\omega} | \propto \omega $


では、角速度ベクトルの向きはどう定義すればいいだろうか。
回転面は回転軸で決められ、回転軸は回転面に垂直だが、ここで右ねじの法則が成り立つように定める。すなわち、位置ベクトル$\vec{r}$, 速度ベクトル$\vec{v}$ , 角速度ベクトル$\vec{\omega}$が右手の親指、人差し指、中指になるように決めるのである。
    
よって、角速度ベクトルを$\vec{r}$と$\vec{v}$の外積であると定義しよう。すなわち
   $\vec{\omega} = \vec{r} \times \vec{v}$
(円運動の場合は上の3つのベクトルのうちのどの2つをとっても垂直である。) このように定義すれば
   $|\vec{\omega}| = r | \vec{v}| = r^{2} \omega $
で、たしかにスカラーの$\omega$に比例している。


§5.運動量保存の法則


速度の次に基本的な物理量として、
   運動量$=$質量$\times$速度
や、
   力$=$質量$\times$加速度
がある。実は、運動量(momentum)の時間微分が力になっていて、その事実を「運動量保存の法則」と呼ぶ。それを証明しよう。


【運動量保存の法則】
   $\frac{dP}{dt} = F$
ただし、$P$は全運動量、$F$はすべての質点に働く力の和である。---


(証明)各質点の運動量
   $p_{i} = m_{i} v_{i} $
を時間微分すれば
   $\frac{d p_{i} }{ dt} = \frac{d (m_{i} v_{i}) }{dt} = m_{i} \frac{d v_{i} }{dt} = m_{i} \alpha_{i} =F_{i}$
したがって各質点にわたって合計すれば
   $\frac{d \sum p_{i} }{ dt} = \sum F_{i} \Rightarrow \frac{dP}{dt} = F$■



§6.力のモーメントの定義


力のモーメントをどう定義すればよいのかを、テコの原理から考えていこう。
   
上図のようなテコを考える。このとき、支点からなるべく遠いところを持って動かす方が楽に(小さい力で)石を動かせる。これは経験的に納得できる。
問題は、支点からの距離が $2\mbox{倍}, 3\mbox{倍}, \cdots$ になると、力は $1/2\mbox{倍}, 1/3\mbox{倍}, \cdots$ と反比例するかということだ。経験だけでは、正確に反比例というところまでは分からないだろう。
ここで、力学の知識を使う。テコを微小な角 $\Delta \theta$(ラジアン)だけ動かすことを考える。ある人は支点から $\vec{r}$ の位置にある点を持って、$\vec{F}$ の力で持ち上げたとしよう。この力がテコに対し行う仕事($=$力$\times$距離)を計算してみる。円の接線方向に
   $ \mid \vec{r} \mid \Delta \theta $
だけの距離を動く。力$\vec{F}$ の円の接線方向の成分は、$\vec{r}$ と $\vec{F}$ のなす角を $\phi$ とすれば
   $ \mid \vec{F} \mid \sin \phi $
だから、仕事は
   $ \mid \vec{r} \mid \Delta \theta \cdot \mid \vec{F} \mid \sin \phi $
となる。
   
テコのどの点を持って動かしたにしても、角 $\Delta \theta$ だけ動かすという同じ効果を与えるのならば、なされた仕事は等しい。従って、このとき
   $ \mid \vec{r} \mid \Delta \theta \cdot \mid \vec{F} \mid \sin \phi = \mbox{一定} $
ここで、$\Delta \theta$ は定数であるから、
   $ \mid \vec{r} \mid \mid \vec{F} \mid \sin \phi = \mbox{一定} $
となる。これで、力のモーメント$\vec{N}$を 2つのベクトル$\vec{r}$ と $\vec{F}$ の外積、すなわち
   $\vec{N} = \vec{r} \times \vec{F}$
と定義すればいいと察しがつく。これが力のモーメントである。ただし、$\vec{r},\vec{F},\vec{N}$の順に右手系をなす。
以上より、力のモーメントが一定なら、力と距離が反比例することが分かる。


§7.角運動量保存の法則


回転運動で「運動量=質量×速度」にあたるものが
   角運動量=質量×角速度
である。すなわち、角運動量(angular momentum)$\vec{L}$とは
   $\vec{L}= m \vec{\omega} = m (\vec{r} \times \vec{v}) = \vec{r} \times ( m \vec{v})$
で、向きは角速度ベクトルと同じである。角運動量は運動量のモーメントでもある。


【例】
原点中心、半径$r$, 角速度$\omega$の円運動を考える。位置ベクトルは
   $\vec{r} = \left( \begin{array}{c} r \cos(\omega t + \alpha) \\ r \sin(\omega t + \alpha ) \\ 0 \end{array} \right)$
で、速度ベクトルは時間微分して
   $\vec{v} = \left( \begin{array}{c} -r \omega \sin(\omega t + \alpha) \\ r \omega \cos(\omega t + \alpha ) \\ 0 \end{array} \right)$
だから、その外積を計算すれば
   $\vec{L} = m \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ r^{2} \omega( \sin^{2}(\omega t + \alpha)+\cos^{2}(\omega t + \alpha ) )\end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ m r^{2} \omega \end{array} \right) $
その絶対値は
   $L=mr^{2} \omega$
である。あるいは、$\vec{r}$ と $m \vec{v}$ のなす角を $\phi$ とすれば、円運動では$\phi= \pi/2$なので
   $ L = m \mid \vec{r} \mid \mid \vec{v} \mid \sin \phi = mr \cdot r \dot{\theta} \cdot 1 = m r^{2} \omega$
と計算してもよい。



次に、回転運動において、「運動量保存の法則」に相当する次の定理を証明しよう。


【角運動量保存の法則】
   $\frac{dL}{dt}= N$
ただし、$L$は角運動量、$N$は質点に働く力のモ-メントである。---

(証明)角運度量ベクトルを時間微分すると、
   $ \dot{\vec{L}} = \frac{d}{dt}( \vec{r} \times ( m \vec{v} ) ) $
だが、ベクトルの外積の微分には積の微分公式がそのまま使えて
   $ = \dot{\vec{r}} \times ( m \vec{v} )+ \vec{r} \times ( m \dot{\vec{v}}) $
   $ = \vec{v} \times ( m \vec{v} )+ \vec{r} \times (m \vec{\alpha} ) $
ここで、最後の式の第1項は同じ方向のベクトルの外積だから、$\vec{0}$(零ベクトル)である。よって、
   $ \dot{\vec{L}} = \vec{r} \times \vec{F} = \vec{N} $
で、角運動量ベクトルの時間微分は力のモーメントであることが示された。■

最後に保留にしておいた問題1の解の続きを述べよう。


(解のつづき) 角運動量の和$L$を求めると
   $L= x (m_{1}+m_{2})v -( x_{1} m_{1}v_{1} + x_{2} m_{2}v_{2})$
であるが、支点は固定されているので
   $v=0$
また、天秤が静止していることから
   $v_{1}=v_{2}=0$
であるので、角運動量は
   $L=0$(定数)
である。角運動量保存の法則により
   $\frac{dL}{dt}=N$
なので、力のモーメントの和は
   $N=0$
となる。

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