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パスカルの三角形の拡張

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§1. 『 $e$の物語』より


『不思議な数$e$の物語』(→【参考文献】[1] を見よ。)という本の第8章に、ニュートンがパスカルの三角形、すなわち二項定理( $(a+b)^{n}$ の展開公式)の拡張をした話が載っている。ニュートンは、1664年から65年にかけての冬に $n$ が分数の場合まで拡張し、65年の秋には $n$ が負の場合にまで定理を拡張したとのことである。
この本には、パスカルの三角形が次の形に表されている。


$\begin{array}{lrrrrrrl}
n=0: & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
n=1: & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
n=2: & 1 & 2 & 1 & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
n=3: & 1 & 3 & 3 & 1 & 0 & 0 & \cdots \\
n=4: & 1 & 4 & 6 & 4 & 1 & 0 & \cdots
\end{array}$



算出規則は、周知のごとく
  
という具合に足していくことである。


§2. 負の整数への拡張


二項係数の算出規則を逆向きに進めば、負の整数の場合へ拡張できる。すなわち
  
という具合に引き算をしていくことによって、


$\begin{array}{rrrrrrrl}
-4: & 1 & -4 & 10 & -20 & 35 & -56 & \cdots \\
-3: & 1 & -3 & 6 & -10 & 15 & -21 & \cdots \\
-2: & 1 & -2 & 3 & -4 & 5 & -6 & \cdots \\
-1: & 1 & -1 & 1 & -1 & 1 & -1 & \cdots \\
0: & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots
\end{array}\\$



という表が得られる。
従って、例えば $n=-1$ の行を見て、
   $ \frac{1}{1+x} = 1 - x + x^{2} - x^{3} +x^{4} -x^{5} + \cdots $
という無限級数展開が分かる。これは公比が $-x$ の無限等比級数の和であるので、収束域は $ |x| <1$ である。(以下、収束域については言及しない。)この無限級数を項別積分すれば
   $ \log (1+x) = x - \frac{1}{2}x^{2} + \frac{1}{3}x^{3} - \frac{1}{4}x^{4} +\frac{1}{5}x^{5} - \frac{1}{6}x^{6} + \cdots $
が得られる。
また、$x$ を $x^{2}$ で置き換えた
   $ \frac{1}{1+x^{2}} = 1 - x^{2} + x^{4} - x^{6} +x^{8} -x^{10} + \cdots $
を項別積分すると
   $ \tan^{-1}x = x - \frac{1}{3}x^{3} + \frac{1}{5}x^{5} - \frac{1}{7}x^{7} +\frac{1}{9}x^{9} -\frac{1}{11}x^{11} + \cdots $
が得られる。なぜなら
   $ \frac{d}{dx}\tan^{-1} x = \frac{1}{1+x^{2}} $
という微分公式が成り立つからである。
この公式を証明するために $x = \tan \theta$ の図を描く。

2つの直角三角形 $\triangle OPH$ と $\triangle PRQ$ が相似であるので
   $ OP : OH = PR : PQ $
となり
   $ \sqrt{1+x^{2}} : 1 = dx : \sqrt{1+x^{2}}d \theta ,$
   $ \frac{d\theta}{dx} = \frac{1}{1+x^{2}} $
が分かる。もっとも数IIIで逆関数の微分法を学んでいれば
   $ \frac{d\theta}{dx} = \frac{1}{dx/d\theta}
= \cos^{2}\theta = \frac{1}{1+\tan^{2}\theta} $
から、証明できる。


§3. 分数への拡張


$n$ が分数の場合への拡張について、前掲書には「ニュートンはパスカルの三角形の数値のパターンを注意深く調べて、ついに``行間を読んで''$n=1/2, 3/2,5/2,$等々のときの係数を補うことができるようになった」と書かれているだけで、具体的に係数の求め方は記されていない。
そこで、係数の並び方を考察してみよう。例えば、$n=6$ の行の並びは


$ 1,6, 15,20,15,6,1,0,\cdots $



である。1 列目は必ず 1 で、2 列目は $n$ の値と同じであることはすぐ分かる。この数列の規則を調べるにあたって、等比数列のとき公比を調べるように後項を前項で割って何倍されているかを調べてみる。すると$1 \rightarrow 6$ は $6$倍で、$6 \rightarrow 15$ は $5/2$倍で、$\cdots$ (等々)だから、倍率の数列は


$ \frac{6}{1}, \frac{5}{2}, \frac{4}{3}, \frac{3}{4} , \frac{2}{5},\frac{1}{6}, \frac{0}{7}, \cdots $



となっていることが分かる。すなわち、倍率の分子は


$ 6,5,4,3,2,1,0,\cdots $



と初項 $n$, 公差 $-1$ の等差数列で、
分母は


$ 1,2,3,4,5,6,7,\cdots $



と初項 $1$, 公差 $1$ の等差数列である。
これから類推すると、$n=1/2$ のときの倍率の数列は


$ \frac{1/2}{1}, \frac{-1/2}{2}, \frac{-3/2}{3}, \frac{-5/2}{4}, \frac{-7/2}{5}, \cdots $



すなわち


$ \frac{1}{2}, -\frac{1}{4}, -\frac{1}{2}, -\frac{5}{8}, -\frac{7}{10}, \cdots $



である。
従って、$n=1/2$ の行のパスカルの係数は


$ 1,\frac{1}{2}, -\frac{1}{8}, \frac{1}{16}, -\frac{5}{128}, \frac{7}{256}, \cdots $



となる。よって


$ \sqrt{1+x} = 1+\frac{1}{2}x- \frac{1}{8}x^{2}+ \frac{1}{16}x^{3} - \frac{5}{128}x^{4}+ \frac{7}{256}x^{5}- \cdots $



となる。$n=1/2$ の行が分かれば、あとは先ほどの算出規則を使ってイモづる式に出てくる。


$ n=-\frac{3}{2}: \mbox{  } 1,-\frac{3}{2},\frac{15}{8},-\frac{35}{16},\frac{315}{128},-\frac{693}{256},\cdots $
$ n=-\frac{1}{2}: \mbox{  } 1,-\frac{1}{2},\frac{3}{8},-\frac{5}{16},\frac{35}{128},-\frac{63}{256},\cdots $
$ n=\frac{1}{2}: \mbox{  } 1,\frac{1}{2},-\frac{1}{8},\frac{1}{16},-\frac{5}{128},\frac{7}{256},\cdots $
$ n=\frac{3}{2}: \mbox{  } 1,\frac{3}{2},\frac{3}{8},-\frac{1}{16},\frac{3}{128},-\frac{3}{256},\cdots $
$ n=\frac{5}{2}: \mbox{  } 1,\frac{5}{2},\frac{15}{8},\frac{5}{16},-\frac{5}{128},\frac{3}{256},\cdots $



といった具合である。


§4. $\sin x$の展開


$n=-1/2$ の行を見れば、


$ \frac{1}{\sqrt{1+x}} = 1-\frac{1}{2}x+\frac{3}{8}x^{2}-\frac{5}{16}x^{3} +\frac{35}{128}x^{4}-\frac{63}{256}x^{5}+\cdots $



が分かるが、ここで $x$ を $-x^{2}$ で置き換えてみよう。そうすると


$ \frac{1}{\sqrt{1-x^{2}}} = 1+\frac{1}{2}x^{2}+\frac{3}{8}x^{4}+\frac{5}{16}x^{6} +\frac{35}{128}x^{8}+\frac{63}{256}x^{10}+\cdots $



となる。これを項別積分して


$ \sin^{-1}x= x+\frac{1}{6}x^{3}+\frac{3}{40}x^{5}+\frac{5}{112}x^{7} +\frac{35}{1152}x^{9}+\frac{63}{2816}x^{11}+\cdots $



を得る。なぜなら、


$ \frac{d}{dx}\sin^{-1}x=\frac{1}{\sqrt{1-x^{2}}} $



であるからである。実際、$x=\sin\theta$ の図を描いて考えると、

2つの直角三角形 $\triangle OPH$ と $\triangle QPR$ が相似なので


$ OP : OH = QP : QR $



より


$ 1 : \sqrt{1-x^{2}} = d\theta : dx ,$
$ \frac{d\theta}{dx} = \frac{1}{\sqrt{1-x^{2}}} $



である。
ニュートンは $\sin^{-1}x$ の無限級数展開を「逆に解く」ことによって、$\sin x$ の級数展開を得ている。(『無限のなかの数学』(→【参考文献】[2] を見よ。)の第2章を参照せよ。)それを追ってみよう。
まず、$\sin x$ は奇関数だから、その展開式を


$ \sin x = a_{1}x + a_{3}x^{3} + a_{5}x^{5} + a_{7}x^{7} + \cdots $



とおく。この等式の $x$ に $\sin^{-1}x$ の展開式の右辺を代入する。逆関数の性質より


$ x = a_{1}\left( x+\frac{1}{6}x^{3}+\frac{3}{40}x^{5}+\frac{5}{112}x^{7}+\cdots\right) $
$ + a_{3}\left( x+\frac{1}{6}x^{3}+\frac{3}{40}x^{5}+\frac{5}{112}x^{7}+\cdots\right)^{3} $
$ + a_{5}\left( x+\frac{1}{6}x^{3}+\frac{3}{40}x^{5}+\frac{5}{112}x^{7}+\cdots\right)^{5} $
$ + a_{7}\left( x+\frac{1}{6}x^{3}+\frac{3}{40}x^{5}+\frac{5}{112}x^{7}+\cdots\right)^{7} $
$ + \cdots $



両辺の1次、3次、5次、7次、$\cdots$ の係数を比較することによって


$ 1 = a_{1} \Rightarrow a_{1}=1, $
$ 0= \frac{1}{6} +a_{3} \Rightarrow a_{3}=-\frac{1}{6}, $
$ 0= \frac{3}{40}-\frac{1}{6}\cdot 3 \cdot \frac{1}{6} + a_{5} \Rightarrow a_{5}=\frac{1}{120}, $
$ 0= \frac{5}{112}-\frac{1}{6}\cdot \left\{ 3 \cdot \left( \frac{1}{6} \right)^{2}+ 3 \cdot \frac{3}{40} \right\} +\frac{1}{120}\cdot 5 \cdot \frac{1}{6}+ a_{7} \Rightarrow a_{7}=-\frac{1}{5040} ,$
$ \cdots \cdots \cdots $



と、順繰りに $a_{1},a_{3},a_{5},a_{7},\cdots$ の値が分かる。
よって、


$ \sin x = x-\frac{1}{3!}x^{3}+\frac{1}{5!}x^{5}-\frac{1}{7!}x^{7}+\cdots $



である。


§5. $\cos x$の展開


次に、$\cos x$ の無限級数展開を与えよう。それには、前出の $\sqrt{1+x}$ の展開式において、$x$ を $-x^{2}$ で置き換えた式:


$ \sqrt{1-x^{2}}= 1-\frac{1}{2}x^{2}-\frac{1}{8}x^{4}-\frac{1}{16}x^{6}-\cdots $



すなわち、円の上半分を表す式を利用する。
上の等式に、前節末に求めた $\sin x$ の展開式を代入すれば


$ \cos x = \sqrt{1-\sin^{2}x} $
$ = 1-\frac{1}{2}\left(x-\frac{1}{3!}x^{3}+\frac{1}{5!}x^{5}-\cdots\right)^{2} -\frac{1}{8}\left(x-\frac{1}{3!}x^{3}+\frac{1}{5!}x^{5}-\cdots\right)^{4} -\frac{1}{16}\left(x-\frac{1}{3!}x^{3}+\frac{1}{5!}x^{5}-\cdots\right)^{6} -\cdots $
$ = 1-\frac{1}{2}x^{2}+\left( \frac{1}{2}\cdot 2 \cdot \frac{1}{3!}-\frac{1}{8}\right)x^{4} +\left\{ -\frac{1}{2}\cdot \left( (\frac{1}{3!})^{2} +2 \cdot \frac{1}{5!}\right) \right. \left. +\frac{1}{8}\cdot 4 \cdot\frac{1}{3!} -\frac{1}{16} \right\} x^{6} + \cdots $
$ = 1-\frac{1}{2!}x^{2}+\frac{1}{4!}x^{4}-\frac{1}{6!}x^{6}+\cdots $



と求めることができる。


§6. オイラーの公式


$\sin x$ の展開式を求めるときに使った、ニュートンの「逆に解く」方法を使えば、$e^{x}$ の展開式も同様に得られる。
拙稿冒頭に出てきた $\log(1+x)$ の逆関数を


$ e^{x}-1 = b_{1}x+b_{2}x^{2}+b_{3}x^{3}+\cdots $



とおく。これに $\log(1+x)$ の展開式を代入すればよい。
いま、代入ができたものとして、$x$ の 1次の項だけを見てみると


$ x = b_{1}x $
$ \Rightarrow b_{1} = 1 $



2次の項を見て


$ 0 = 1 \left(\cdots -\frac{1}{2}x^{2} +\cdots\right) +b_{2}\left(x- \cdots\right)^{2} $
$ \Rightarrow b_{2}= \frac{1}{2} $



3次の項はどこから出てくるかを見てみると


$ 0 = 1 \cdot \frac{1}{3}x^{3} +\frac{1}{2}\left(x- \frac{1}{2}x^{2}\right)^{2}+b_{3}x^{3} $
$ \Rightarrow b_{3}= \frac{1}{6} $



4次の項の出どころを調べると


$ 0 = 1\left(-\frac{1}{4}x^{4}\right) +\frac{1}{2}\left(x- \frac{1}{2}x^{2}+\frac{1}{3}x^{3}\right)^{2} +\frac{1}{6}\left(x-\frac{1}{2}x^{2}\right)^{3} +b_{4}x^{4} $
$ \Rightarrow b_{4}= \frac{1}{24} $



という具合にやはりイモづる式に求まって、


$ e^{x} = 1 +\frac{1}{1!}x +\frac{1}{2!}x^{2} +\frac{1}{3!}x^{3} +\frac{1}{4!}x^{4} + \cdots $



という指数関数の展開公式が成立する。
この等式に形式的に $x=i\theta$ を代入すると


$ e^{i\theta} = (1-\frac{1}{2!}\theta^{2}+\cdots )+i (\theta-\frac{1}{3!}\theta^{3}+\cdots ) $

となって、前述の結果から


$ e^{i\theta}=\cos \theta +i \sin \theta $



が得られる。


【参考文献】
[1] E.オマール著、伊理由美訳、『不思議な数$e$の物語』 岩波書店、1999
        


[2] 志賀浩二著、『無限のなかの数学』 岩波新書、1995
        


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